S/T/R/I/P/P/E/R ー踊り子ー

誠奈

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第27章    All for you

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 照明の落とされたステージの中央に立ち、瞼を閉じて息を深く吸い込み、幕が上がるのを待つ。

 ステージに上がる直前に音響スタッフから渡されたイヤモニから、

 「何も考えるな。お前が唯一愛した男のことだけを想って踊れ。それ以外は何も考えるな。いいな?」

 坂口の冷静な声が聞こえた。


 つい数分前には、俺に恥をかかせるなと言わんばかりに俺を煽ったくせに、良く言うよ。

 でもな、坂口……

 せっかくだけど、んなこと今更言われなくたって、俺はただ一人の男……翔真と、そして俺自身のために踊るって決めてんだ。

 それ以外に、俺が踊り続ける理由はないから……


 俺は両の袖口を指で摘まみ、長い袂を丁度顔の前で重ね合わせた。

 ステージ上に設置されたスピーカーからイントロが流れ始め、ステージと客席とを遮っていた緞帳が静かに上がる。

 瞬間、俺の全身に僅かな震えが走った。

 でもそれは決してステージに立つことへの恐怖でも、不安でもなくて、寧ろエクスタシーにも似た感覚で……


 帰って来たんだ。
 もう二度と立つことは叶わないと思っていたこのステージに、俺は帰って来たんだ。


 そう思ったら、胸の奥から何かが込み上げて来て、目頭が熱くなった。

 その時、「泣いてんじゃねぇよ」と、一瞬翔真の声が聞こえた気がして、俺は閉じていた瞼を開いた。


 しょ……う……ま?

 まさか、だってアイツは、翔真は……

 馬鹿馬鹿しい、そんなわけある筈がない。


 俺は再び瞼を閉じ、徐々にボリュームの大きくなった音楽に合わせ、顔を袂で隠したまま、引きずる程長い着物の裾を足で捌き、一つターンを決め、客席に背を向けた。

 両足で床を踏み鳴らし、顔を覆っていた袂を、まるで蝶の羽根のように靡かせながら、両手を開いた。


 翔真、見てるか?

 俺、戻って来たぜ?
 お前が何よりも大切にしていた場所に、俺、戻って来たんだぜ?

 なあ、翔真……?


 幽霊だとしてもいい、例え魂だけだったとしても構わない、傍にいるなら言ってくれよ、一言でいいから愛してる、って言ってくれよ。


 なあ、翔真……

 お前の声が聞きたい。
 お前の腕に抱かれたい。


 お前に……会いたい。
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