349 / 369
第27章 All for you
5
しおりを挟む
照明の落とされたステージの中央に立ち、瞼を閉じて息を深く吸い込み、幕が上がるのを待つ。
ステージに上がる直前に音響スタッフから渡されたイヤモニから、
「何も考えるな。お前が唯一愛した男のことだけを想って踊れ。それ以外は何も考えるな。いいな?」
坂口の冷静な声が聞こえた。
つい数分前には、俺に恥をかかせるなと言わんばかりに俺を煽ったくせに、良く言うよ。
でもな、坂口……
せっかくだけど、んなこと今更言われなくたって、俺はただ一人の男……翔真と、そして俺自身のために踊るって決めてんだ。
それ以外に、俺が踊り続ける理由はないから……
俺は両の袖口を指で摘まみ、長い袂を丁度顔の前で重ね合わせた。
ステージ上に設置されたスピーカーからイントロが流れ始め、ステージと客席とを遮っていた緞帳が静かに上がる。
瞬間、俺の全身に僅かな震えが走った。
でもそれは決してステージに立つことへの恐怖でも、不安でもなくて、寧ろエクスタシーにも似た感覚で……
帰って来たんだ。
もう二度と立つことは叶わないと思っていたこのステージに、俺は帰って来たんだ。
そう思ったら、胸の奥から何かが込み上げて来て、目頭が熱くなった。
その時、「泣いてんじゃねぇよ」と、一瞬翔真の声が聞こえた気がして、俺は閉じていた瞼を開いた。
しょ……う……ま?
まさか、だってアイツは、翔真は……
馬鹿馬鹿しい、そんなわけある筈がない。
俺は再び瞼を閉じ、徐々にボリュームの大きくなった音楽に合わせ、顔を袂で隠したまま、引きずる程長い着物の裾を足で捌き、一つターンを決め、客席に背を向けた。
両足で床を踏み鳴らし、顔を覆っていた袂を、まるで蝶の羽根のように靡かせながら、両手を開いた。
翔真、見てるか?
俺、戻って来たぜ?
お前が何よりも大切にしていた場所に、俺、戻って来たんだぜ?
なあ、翔真……?
幽霊だとしてもいい、例え魂だけだったとしても構わない、傍にいるなら言ってくれよ、一言でいいから愛してる、って言ってくれよ。
なあ、翔真……
お前の声が聞きたい。
お前の腕に抱かれたい。
お前に……会いたい。
ステージに上がる直前に音響スタッフから渡されたイヤモニから、
「何も考えるな。お前が唯一愛した男のことだけを想って踊れ。それ以外は何も考えるな。いいな?」
坂口の冷静な声が聞こえた。
つい数分前には、俺に恥をかかせるなと言わんばかりに俺を煽ったくせに、良く言うよ。
でもな、坂口……
せっかくだけど、んなこと今更言われなくたって、俺はただ一人の男……翔真と、そして俺自身のために踊るって決めてんだ。
それ以外に、俺が踊り続ける理由はないから……
俺は両の袖口を指で摘まみ、長い袂を丁度顔の前で重ね合わせた。
ステージ上に設置されたスピーカーからイントロが流れ始め、ステージと客席とを遮っていた緞帳が静かに上がる。
瞬間、俺の全身に僅かな震えが走った。
でもそれは決してステージに立つことへの恐怖でも、不安でもなくて、寧ろエクスタシーにも似た感覚で……
帰って来たんだ。
もう二度と立つことは叶わないと思っていたこのステージに、俺は帰って来たんだ。
そう思ったら、胸の奥から何かが込み上げて来て、目頭が熱くなった。
その時、「泣いてんじゃねぇよ」と、一瞬翔真の声が聞こえた気がして、俺は閉じていた瞼を開いた。
しょ……う……ま?
まさか、だってアイツは、翔真は……
馬鹿馬鹿しい、そんなわけある筈がない。
俺は再び瞼を閉じ、徐々にボリュームの大きくなった音楽に合わせ、顔を袂で隠したまま、引きずる程長い着物の裾を足で捌き、一つターンを決め、客席に背を向けた。
両足で床を踏み鳴らし、顔を覆っていた袂を、まるで蝶の羽根のように靡かせながら、両手を開いた。
翔真、見てるか?
俺、戻って来たぜ?
お前が何よりも大切にしていた場所に、俺、戻って来たんだぜ?
なあ、翔真……?
幽霊だとしてもいい、例え魂だけだったとしても構わない、傍にいるなら言ってくれよ、一言でいいから愛してる、って言ってくれよ。
なあ、翔真……
お前の声が聞きたい。
お前の腕に抱かれたい。
お前に……会いたい。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説







寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる