S/T/R/I/P/P/E/R ー踊り子ー

誠奈

文字の大きさ
上 下
348 / 369
第27章    All for you

しおりを挟む
 楽屋からステージに続く通路に出ると、見知った顔がいくつも並んでいて、皆一様に舞台衣装に身を包んだ俺を拍手と、そして新人ダンサー達の羨望の眼差しが、俺を出迎えてくれた。

 正直こんな風にされるのは、照れ臭いのもあるけど、それ以上に俺の復帰にかける期待を感じずにはいられなくて……

 「あれれ、智樹固まっちゃってんじゃん」
 「う、うるせぇ、衣装が重すぎんだよ」

 揶揄う雅也に言い返してはみたものの、実際には足が竦んでしまって、思うように身体が動かない。

 前はこんなんじゃなかったのに、今はステージに上がることが、怖くて堪らない。

 「智樹、身体の力抜いて? ね?」
 「和人、俺……」
 「大丈夫、皆智樹の味方だから、安心して?」

 分かってる。
 今日俺のステージを見に来る客全てが敵じゃない、ってことは分かってる。


 でも、やっぱ怖ぇよ……


 怖くて怖くて、この場から逃げ出したくなる。

 「あのさ、智樹? きっと見てるから」

 和人の腕が、俺を衣装ごと包み込む。


 そして雅也も……


 「そうだよ、きっと伝わるからさ、だから泣かないでよ」

 両目に涙をいっぱい溜めて、俯いてしまった俺を覗き込む。

 「でもアイツはもう……」


 そう、何がこうも俺を不安にさせるのか……


 その理由は、俺自身が一番良く分かってる。


 アイツが……、俺が誰よりも傍にいて欲しいと願う、アイツがここにはいないからだ。


 翔真に傍にいて欲しいのに。
 「緊張なんかしてんじゃねぇよ、馬鹿」って抱きしめて、キスして欲しいのに。

 なのに翔真はもうここにはいない。


 そのことが俺の不安を掻き立てる。

 「ねぇ、智樹? 翔真が智樹の傍から離れられると思ってんの?」
 「えっ?」
 「馬鹿だなぁ、だって翔真だよ? 智樹命のあの翔真が智樹から離れられるわけないじゃん」
 「そうだよ、翔真さんだもんね?」
 「幽霊になってでも、智樹の傍からは離れないって」
 「ひっでぇ言い方。でも……」


 そうだよな、翔真はいつだって俺の隣に……


 「ありがと……な。俺、行って来るよ」


 翔真が惚れ直すくらい、最高のステージにしてやるよ。

 だから見ててくれよな、翔真。


 俺は一瞬天を仰ぎ、そこに翔真の顔を思い浮かべると、ステージに向かって一歩、また一歩と足を進め始めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

機械に吊るされ男は容赦無く弄ばれる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

少年探偵は恥部を徹底的に調べあげられる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

不良少年達は体育教師を無慈悲に弄ぶ

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

処理中です...