S/T/R/I/P/P/E/R ー踊り子ー

誠奈

文字の大きさ
上 下
346 / 369
第27章    All for you

しおりを挟む
 「久しぶりだね」

 右手を軽く上げ、笑ったその顔には、確かに見覚えがあった。でもそれが誰だったのか、いつ会ったのかが思い出せない。

 「あの……」

 戸惑いの声を上げた俺に、その人は表情一つ変えることなく俺に向かって右手を差し出した。

 だから仕方なく……だけど、俺はその手を握り返した。
 するとその人は、俺の肩を左手で軽く叩き……

 「今日のステージ、楽しみにしてるよ」

 そう言って、握った俺の手を解いた。

 「あの……、今日俺がここで踊るってどうして?」

 俺が再びステージに立つことは、特別宣伝もしていなければ、ごく身近な人間しか知らない筈。どこから情報を得たのかが気になった。

 「そうだね、ある人から、君がここのステージで踊るって連絡を貰ってね? それでどうしても君の踊りを見たくなった、ってことかな。ま、自分の目に狂いがなかったか、確かめたかった、ってのが本音かな」
 「は、はあ……」

 言ってる意味はさっぱり分からなかったが、どうやら俺にとって悪い話ではないようだ。
 それに、俺自身の記憶からは、その人のことは綺麗さっぱり抜け落ちてしまっているが、俺のことは知っているみたいだし……

 「あ、あの、もし差し支えなければ誰からとか、教えてもらえますか?」
 「それは……」

 そう言ったきり、その人はさっきまで饒舌に語っていた口を、ピタリと噤んでしまった。


 聞いちゃいけないことを聞いたんだろうか……


 「あ、別にいいんです。ただ、ちょっと気になったから」
 「いや、秘密にすることでもないんだが、そうだな、あえて言うなら、君の古くからの友人、とでも言っておこうか」
 「俺の友人……、ですか?」


 誰だろう、さっぱり思い出せない。


 眉間に皺を寄せ、考え込んでしまった俺の肩を、もう一度ポンと叩くと、その人は俺の手に小さな紙切れを握らせ、

 「じゃ、俺は客席で見させて貰うよ」

 入って来た時と同じように、右手を軽く上げてドアの外へと出て行った。


 何だったんだろう……


 手の中の小さな紙切れに視線を落とした、丁度その時、入れ違うようにメイク道具を抱えた健太が部屋に入って来た。

「すいません、大急ぎで準備しますね」

 健太は鏡の前にメイク道具をズラリと広げると、手際良く俺の顔にメイクを施していった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

機械に吊るされ男は容赦無く弄ばれる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

不良少年達は体育教師を無慈悲に弄ぶ

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...