342 / 369
第26章 Missing heart
20
しおりを挟む
どれくらい車を走らせただろう……
気付けば空は白み、車窓には良く見知った景色が写っていた。
「着いたぞ、降りれるか?」
運転席を降りた俺は、焼けたボンネットを頼りに助手席側へと回ると、見開いたままで虚ろな目をした智樹を車から降ろし、細い腰に回した腕でその身体を抱えた。
「悪ぃな……、もう抱いてやれねぇ……んだわ……」
情けないことに、こんな痩せ細った身体一つも抱いてやる力すら、俺にはもう残っていない。
少しでも力を抜けば崩れてしまいそうな智樹の身体を支えながら、幸いにも鍵のかかっていないドアを開ける。
つか、あの馬鹿……、不用心すぎんだろ。
後で大目玉食らわしてやんねぇとな……って、叶いそうもねぇか……
「もうすぐだから……、あとちょっとくらい、お前も頑張れんだろ?」
立たせてやっから、お前が一番好きだった場所に……、お前が一番輝いてたあの場所に……
「だから、な……智……樹?」
徐々に霞んで行く視界と、明かり一つない闇の中を、一歩、また一歩……、壁伝いに重い足を進める。
「確かこの辺に……。あった、これだ……」
幾度となく通ってきた場所だ、目を瞑っていたってどこに何があるかくらい分かる。
智樹を一旦床に下ろし、手探りで探し出したボックスのカバーを開け、何番目かのスイッチを二つパチンと上げた。
続けて隣にあるスイッチをパチンと上げると、それまで真っ暗だった場所に、微かな光が差し込んで来た。
「良かった、まだ電源生きてたか……」
ホッと胸を撫で下ろし、床に倒れるように寝そべる智樹の口元に手を翳し、不規則ではあるけど呼吸をしていることを確認してから、その力なく横たわる身体を抱き起こそうとした、その時……
「グッ、ハ……ッ!」
激痛が全身を駆け巡り、思わずギリッと噛み締めた奥歯からは、微かな鉄の匂いがした。
「まだ……だ。俺はまだ智樹との約束、果たせてねぇ……」
俺は最後の力を振り絞り、智樹を抱き上げると、ふらつく足取りで光の差す場所まで歩を進めた。
「もうすぐ……だから、な……、智樹……」
お前が一番帰りたかった場所へ……
お前が命懸けで守ろうとしたあの場所へ……
そして俺自身が最も叶えたかった夢……
智樹、お前と一緒に夢を見た場所へ……
燦々と照り付ける太陽よりも眩しい光の差す、あの場所へ……
気付けば空は白み、車窓には良く見知った景色が写っていた。
「着いたぞ、降りれるか?」
運転席を降りた俺は、焼けたボンネットを頼りに助手席側へと回ると、見開いたままで虚ろな目をした智樹を車から降ろし、細い腰に回した腕でその身体を抱えた。
「悪ぃな……、もう抱いてやれねぇ……んだわ……」
情けないことに、こんな痩せ細った身体一つも抱いてやる力すら、俺にはもう残っていない。
少しでも力を抜けば崩れてしまいそうな智樹の身体を支えながら、幸いにも鍵のかかっていないドアを開ける。
つか、あの馬鹿……、不用心すぎんだろ。
後で大目玉食らわしてやんねぇとな……って、叶いそうもねぇか……
「もうすぐだから……、あとちょっとくらい、お前も頑張れんだろ?」
立たせてやっから、お前が一番好きだった場所に……、お前が一番輝いてたあの場所に……
「だから、な……智……樹?」
徐々に霞んで行く視界と、明かり一つない闇の中を、一歩、また一歩……、壁伝いに重い足を進める。
「確かこの辺に……。あった、これだ……」
幾度となく通ってきた場所だ、目を瞑っていたってどこに何があるかくらい分かる。
智樹を一旦床に下ろし、手探りで探し出したボックスのカバーを開け、何番目かのスイッチを二つパチンと上げた。
続けて隣にあるスイッチをパチンと上げると、それまで真っ暗だった場所に、微かな光が差し込んで来た。
「良かった、まだ電源生きてたか……」
ホッと胸を撫で下ろし、床に倒れるように寝そべる智樹の口元に手を翳し、不規則ではあるけど呼吸をしていることを確認してから、その力なく横たわる身体を抱き起こそうとした、その時……
「グッ、ハ……ッ!」
激痛が全身を駆け巡り、思わずギリッと噛み締めた奥歯からは、微かな鉄の匂いがした。
「まだ……だ。俺はまだ智樹との約束、果たせてねぇ……」
俺は最後の力を振り絞り、智樹を抱き上げると、ふらつく足取りで光の差す場所まで歩を進めた。
「もうすぐ……だから、な……、智樹……」
お前が一番帰りたかった場所へ……
お前が命懸けで守ろうとしたあの場所へ……
そして俺自身が最も叶えたかった夢……
智樹、お前と一緒に夢を見た場所へ……
燦々と照り付ける太陽よりも眩しい光の差す、あの場所へ……
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説







寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる