S/T/R/I/P/P/E/R ー踊り子ー

誠奈

文字の大きさ
上 下
341 / 369
第26章   Missing heart 

19

しおりを挟む
 エレベーターで一階のフロアへ降り立った俺は、対応に追われるホテルマン達を横目に、正面玄関とは真逆の非常口に向かった。
 非常口のドアが建物内部からしか開閉出来ないことは、予め確認済みだ。
 俺は周囲に人気がないことを確認してから、自分の足で立つこともままならない智樹を片手で支えながら、通常よりも重い鉄の扉を押し開いた。

 「もう少しだから……」

 腕の中でぐったりとする智樹と、そして今にも足元から崩れてしまいそうな痛みに耐える自分に言い聞かせ、車を停めた場所まで移動する。
 その間も俺の背中からは、ドクドクと血が流れ出し、そのせいで濡れたスラックスが足にベタつく。

 それでもやっとの思いで車まで辿り着き、助手席のシートに智樹を括り、運転席のシートに身を沈めた瞬間、一気に虚脱感が俺を襲った。

 「智樹、ごめんな? 俺もう駄目かもしんねぇ……」


 お前を守ってやるだけの力、もう残ってねぇや……


 朦朧とする意識の中で、俺は隣に座る智樹の手をキュッと握った。

 「ごめん、ごめんな……、智樹……」


 俺にもっとお前を守るだけの力があれば、お前をこんな目には合わせなかったのに……
 ごめん……


 涙が自然に溢れて止まらなかった。

 「愛してる、この先もずっとお前だけを……」

 俺は身体がバラバラになるような痛みに耐えながら、片腕だけを伸ばすと、骨の浮き出た智樹の肩に回した。
 そして、カサカサに乾いた唇に自分のそれを重ねた。

 その時、それまでピクリとも動かなかった智樹の指が、微かに……ではあるけど、俺の手を握り返した。

 「智……樹?」

 唇を離し、呼びかけてみるけど、それ以上の反応はない。

 「気のせい……か。でも……」

 繋いだ智樹の手からは、確かな体温が感じられる。

 「そう……だよな、こんな所でくたばってらんねぇよな?」

 月明かりに照らされた智樹の痩けた頬を、自身の血に濡れた手で撫でる。

 上本は言った。


 智樹はここを出たら生きていけない、と。


 それは即ち、もう薬無しではいられないということを意味する。
 でも、まだ智樹はこうして生きている。

 俺の腕の中で、微かではあるけど、息をしているじゃないか。


 それでも尚、この息を止めるのであれば、それはこんな所じゃねぇだろ……


 俺はシリンダーを回すと、ハンドルを握り、アクセルを踏み込んだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

機械に吊るされ男は容赦無く弄ばれる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

少年探偵は恥部を徹底的に調べあげられる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

不良少年達は体育教師を無慈悲に弄ぶ

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...