299 / 369
第24章 A piece
7
しおりを挟む
翔真はいつも、昼を過ぎた頃になると、仕事だと言って出かけて行った。
俺はその時間が嫌いだった。
置いていかれるような、もう帰って来ないような気がして……
とても嫌いだった。
だから翔真が出かける時間になると、俺は決まってチワワを抱き、部屋の隅に膝を抱えて座った。
そうすると、翔真は決まって俺を抱き締め、髪を撫でてから、「行ってくる」 そう言って額にキスをして出かけて行った。
佐藤は俺達を、まるで新婚夫婦みたいだと笑ったけど、実際はそんなんじゃない。
翔真は俺が仕事に出かけるのを引き止めないように、俺が我儘を言わないように、そうしているんだと、そう思っていた。
でも和人は、それは違うと言った。
「翔真さんは、智樹に約束してるんじゃないかな」と。
俺はその言葉の意味が分からず、首を傾げた。
でも和人はそんな俺の手を握り、翔真がしてくれるみたいに俺の髪を撫でた。
「そう、約束。絶対帰って来るから、ここでちゃんと待ってろ、って。ほら、翔真さんてさ、あの通り不器用って言うか、素直じゃないとこあるじゃない? だからさ……」
あのキスにそんな意味があったなんて……
そんなこと、和人に言われるまで考えたこともなかった。
翔真が不器用なのは、あのチワワの絵を見た時からなんとなく気付いていたけど、本当に不器用なのは、実は俺の方だったのかもしれない。
だって翔真の気持ちも、想いも、何一つ気付けてなかったんだから……
「だからさ、ここで待ってよ? 翔真さんの帰りを。ね、智樹?」
「……うん」
俺は、そう大して体格の差もない和人の肩にコツンと頭を預けると、膝の上で俺の手をペロペロと舐めるチワワの頭を撫でた。
別に泣いてないし、悲しくだってないのに……
寧ろ、翔真が一方的に交わす約束ってのが、嬉しくて嬉しくて……堪らないのに。
「翔真、帰って……来る?」
「うん、智樹がここにいる限り、ちゃんと帰って来るよ。だから待っていようね?」
その言葉通り、翔真はどんなに遅くなっても、俺の元へと帰って来てくれた。
俺はその時間が嫌いだった。
置いていかれるような、もう帰って来ないような気がして……
とても嫌いだった。
だから翔真が出かける時間になると、俺は決まってチワワを抱き、部屋の隅に膝を抱えて座った。
そうすると、翔真は決まって俺を抱き締め、髪を撫でてから、「行ってくる」 そう言って額にキスをして出かけて行った。
佐藤は俺達を、まるで新婚夫婦みたいだと笑ったけど、実際はそんなんじゃない。
翔真は俺が仕事に出かけるのを引き止めないように、俺が我儘を言わないように、そうしているんだと、そう思っていた。
でも和人は、それは違うと言った。
「翔真さんは、智樹に約束してるんじゃないかな」と。
俺はその言葉の意味が分からず、首を傾げた。
でも和人はそんな俺の手を握り、翔真がしてくれるみたいに俺の髪を撫でた。
「そう、約束。絶対帰って来るから、ここでちゃんと待ってろ、って。ほら、翔真さんてさ、あの通り不器用って言うか、素直じゃないとこあるじゃない? だからさ……」
あのキスにそんな意味があったなんて……
そんなこと、和人に言われるまで考えたこともなかった。
翔真が不器用なのは、あのチワワの絵を見た時からなんとなく気付いていたけど、本当に不器用なのは、実は俺の方だったのかもしれない。
だって翔真の気持ちも、想いも、何一つ気付けてなかったんだから……
「だからさ、ここで待ってよ? 翔真さんの帰りを。ね、智樹?」
「……うん」
俺は、そう大して体格の差もない和人の肩にコツンと頭を預けると、膝の上で俺の手をペロペロと舐めるチワワの頭を撫でた。
別に泣いてないし、悲しくだってないのに……
寧ろ、翔真が一方的に交わす約束ってのが、嬉しくて嬉しくて……堪らないのに。
「翔真、帰って……来る?」
「うん、智樹がここにいる限り、ちゃんと帰って来るよ。だから待っていようね?」
その言葉通り、翔真はどんなに遅くなっても、俺の元へと帰って来てくれた。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説







寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる