S/T/R/I/P/P/E/R ー踊り子ー

誠奈

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第24章   A piece

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 俺が光の正体に気付いたのは、佐藤が一人の男を連れて来た時だった。

 最初は、その男がどうして俺を見て悲しい顔をするのか、どうして俺を見て微笑むのか、全く理由が分からなかった。
 俺にしてみれば、和人と佐藤以外の人間は、全て敵に見えていたから……

 だから当然、その男が俺の名前を呼んだ時も、聞こえていないフリをした。そうすることが、唯一自分自身を守る術だと気付いたから。

 でも分かったんだ。


 その男に頬を触れられた瞬間……
 その男に髪を撫でられた瞬間……

 俺はこの手を知っているって……
 俺はこの手を待っていたんだって……

 ずっと記憶の片隅にある光の正体は、この男なんだって……


 それに気付いた瞬間、俺は自分でも驚く程自然に、男の顔に口を寄せ、男の頬を濡らす涙を吸い取った。
 どうしてだか分からないけど、その男の泣き顔を見ていたくなかった。

 俺は男の首に腕を回し、肩口に顔を埋めた。
 すると男は、躊躇いがちに俺の背中に腕を回し、俺を強く抱き締めた。
 正直、少し痛いくらいだったのに、もっと強く、もっと近くでこの男の体温を、鼓動を感じたいと、そう思ったんだ。


 それくらい、その男の胸は暖かくて、心地よくて……


 気付いたたら、俺はその男の腕の中で眠りに落ちていた。


 でも次に俺が目を覚ました時には、もうその男の姿はそこにはなくて、俺は泣きながら家中を探し回った。


 初めて会ったばかりの男の腕を、俺の名前を呼ぶ声を求めて……


 寂しかったんだと思う。

 和人だって佐藤だって、それから佐藤が俺のためにと買ってくれた犬だっているのに、あの男の姿がそこにないだけで、寂しくて仕方なかった。
 だから、あの男の姿を求めて泣きじゃくる俺に佐藤が、あの男が一緒に暮らすことになったと言った時には、心がソワソワと落ち着かなくなって……
 まるで、遠足前の子供みたいだと、佐藤に笑われた。

 でもそれくらい、あの男と暮らせることが嬉しかったし、待ち遠しくもあった。


 あの男がいれば……


 もしかしたら、もう薬物の恐怖に怯えなくて済むかもしれない……、根拠のない確信があった。
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