S/T/R/I/P/P/E/R ー踊り子ー

誠奈

文字の大きさ
上 下
292 / 369
第23章   Moving on

15

しおりを挟む
 つか、何描きゃいいんだ…?


 絵なんて、久しく描いたことの無い俺は、真っ白な画用紙を前に、一人頭を抱えた。
 その時、リビングのソファーの上で、佐藤が飼っている犬が、クンと鼻を鳴らすのが聞こえて……


 丁度いい、あの犬でも描いてみっか。


 俺は青いクレヨンを手に、画用紙に向かって《佐藤の犬》を描き始めた……が、元々絵心なんてモンは持ち合わせていない俺は、何をどうしても上手く描けなくて……
 でも、どうにかこうにか絵を仕上げると、それを智樹の前に差し出した。


 どうせ笑われるんだろうな……


 「笑うな」と言ったところで、出来上がった絵の完成度を見れば、笑われるのも当然……ではないが、仕方ないとは思っていた。

 でも違った。
 智樹は俺の絵を見るなり、一度は首を傾げはしたものの、直ぐにピンと来たのか、

 「チワ……ワ?」

 今にも消え入りそうな声で呟いた。

 「分かるのか?」

 こんな、幼稚園レベルの下手くそな絵なのに、智樹は一発でそれがチワワだと言い当てた。


 通じてる……
 俺と智樹の心は、まだ完全に絶たれたわけじゃない。

 細くて、触れたら切れてしまいそうに脆い糸かもしれないけど、まだ繋がっている。


 「つ、次は何描いて欲しい?」

 聞いたところで答えなんて返って来ないし、なんなら絵なんて描きたくもない。


 でも智樹が喜んでくれるなら……
 俺の下手くそな絵で、智樹が笑ってくれるなら……


 何枚でも、いや、何十枚でも、何百枚でも描いてやる。

 俺は白い画用紙に、思いつく限りの絵を書き殴った。
 一枚描いては智樹に見せ、また一枚描いては智樹に見せて……

 そんなことを繰り返しているうちに、気付けば俺の描いた絵は、智樹の描いた《俺の顔》らしき絵の枚数を遥かに超えていて……

 智樹は俺の描いた絵を一枚一枚手に取っては、何が描かれているのかを、驚く程の正解率で言い当てていった。


 本人の俺ですら首を傾げたくなるような絵だって、一枚や二枚じゃなかったのに……


 俺は思わず智樹を抱き締めた。

 あまり驚かせないように、という佐藤の忠告は分かっていた。
 でもそうせずにはいられなかった。


 俺はやっぱり今でも……いや、これまで以上に智樹を愛してる。


 そのことを、痛い程……、胸が苦しくなる程、強く実感させられた時間だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

機械に吊るされ男は容赦無く弄ばれる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

少年探偵は恥部を徹底的に調べあげられる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

不良少年達は体育教師を無慈悲に弄ぶ

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

処理中です...