289 / 369
第23章 Moving on
12
しおりを挟む
「冗談……でしょ?」
聞き返した俺に、佐藤は本気だと言わんばかりに足を組み換え、腕を組んだ。
「勿論、ずっとというわけじゃない。智樹が君を本当に必要だと思うようになるまでの間、だがね」
智樹が俺を必要とするまで、か……
その日がいつ来るのかは分かんねぇけど、もしかしたら、考えたくはないけど、そんな日は永遠に来ないかもしれない。
でも希望だけは捨てたくない。
「俺、決めたんです。智樹のためなら何でもするって……」
智樹を……、智樹の全てをこの手に取り戻すためなら、俺は自分が犠牲になることだって厭わない。
もし智樹の記憶に俺が存在しないのではあれば、また最初っから始めりゃいい。
あの頃のように……
「じゃあ翔真さん……?」
「ああ、お前にも世話かけるかも知んねぇけど、頼むわ」
「ううん、俺嬉しいよ。翔真さんが今も変わらず智樹のことを想っていてくれて……」
当たり前だと、本当は毒付いてやろうかとも思った。でも和人の涙を見てしまったら、その気すらすっかり失せた。
「じやあ決まりだな。仕事にはここから通えばいい。いつから……って言うのは愚問だな?」
「当然です。なんなら今日にでも、と言いたいところだけど、明日からにします」
劇場で心配している雅也を安心させてやることが先決だ。
アイツには、何かと気苦労をかけちまったから……
「分かった、君の好きにすればいい。但し、一緒に暮らすとなると、見たくない姿も見ることになると思うが、それでも……」
「分かってます。どんな智樹であろうと、受け入れる覚悟は出来てます」
「そうか、そうだな」
佐藤は今度こそ納得したのか、空になったカップに、熱いコーヒーを継ぎ足した。
佐藤の自宅を後にした俺は、その足で劇場に向かい、雅也に智樹の現在の状態と、置かれている状況を洗いざらい伝えた。
雅也は別段驚いた様子を見せることなく、「良かった……」と小さく呟き、柔らかな笑みを浮かべた。
そして俺は、智樹がいなくなって以降、空き家状態になっていたマンションの掃除に取り掛かった。
智樹がいつ戻って来てもいいように……
智樹とまたここで一緒に暮らせるように……
そんなことを思いながら、出しても出しても減ることのないゴミとの格闘を、夜が明けるまで続けた。
聞き返した俺に、佐藤は本気だと言わんばかりに足を組み換え、腕を組んだ。
「勿論、ずっとというわけじゃない。智樹が君を本当に必要だと思うようになるまでの間、だがね」
智樹が俺を必要とするまで、か……
その日がいつ来るのかは分かんねぇけど、もしかしたら、考えたくはないけど、そんな日は永遠に来ないかもしれない。
でも希望だけは捨てたくない。
「俺、決めたんです。智樹のためなら何でもするって……」
智樹を……、智樹の全てをこの手に取り戻すためなら、俺は自分が犠牲になることだって厭わない。
もし智樹の記憶に俺が存在しないのではあれば、また最初っから始めりゃいい。
あの頃のように……
「じゃあ翔真さん……?」
「ああ、お前にも世話かけるかも知んねぇけど、頼むわ」
「ううん、俺嬉しいよ。翔真さんが今も変わらず智樹のことを想っていてくれて……」
当たり前だと、本当は毒付いてやろうかとも思った。でも和人の涙を見てしまったら、その気すらすっかり失せた。
「じやあ決まりだな。仕事にはここから通えばいい。いつから……って言うのは愚問だな?」
「当然です。なんなら今日にでも、と言いたいところだけど、明日からにします」
劇場で心配している雅也を安心させてやることが先決だ。
アイツには、何かと気苦労をかけちまったから……
「分かった、君の好きにすればいい。但し、一緒に暮らすとなると、見たくない姿も見ることになると思うが、それでも……」
「分かってます。どんな智樹であろうと、受け入れる覚悟は出来てます」
「そうか、そうだな」
佐藤は今度こそ納得したのか、空になったカップに、熱いコーヒーを継ぎ足した。
佐藤の自宅を後にした俺は、その足で劇場に向かい、雅也に智樹の現在の状態と、置かれている状況を洗いざらい伝えた。
雅也は別段驚いた様子を見せることなく、「良かった……」と小さく呟き、柔らかな笑みを浮かべた。
そして俺は、智樹がいなくなって以降、空き家状態になっていたマンションの掃除に取り掛かった。
智樹がいつ戻って来てもいいように……
智樹とまたここで一緒に暮らせるように……
そんなことを思いながら、出しても出しても減ることのないゴミとの格闘を、夜が明けるまで続けた。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる