275 / 369
第22章 Not Believe
12
しおりを挟む
一度は振り上げた拳を振り下ろすことも出来ず、その場に泣き崩れた俺を、佐藤の腕が抱きとめる。
「君の気持ちは分かる。でも今彼を責めたところで、どうにもならないだろう?」
そんなこと俺にだって分かってる。
でも、でも……っ!
「松下君、だったかな。これで分かっただろ? 君がどれだけ深くあの子を傷付けて来たのか」
項垂れたまま、呪文のように「違う」と繰り返すオーナーを、佐藤の感情を抑えた声が諌めた。
「智樹だけじゃない、和人君だって、智樹の恋人だって、皆苦しんでる。……この俺だってね?」
佐藤の言う通りだ。
皆それぞれ形は違っても、自分なりの方法で智樹を愛している。
それは、今俺の目の前で頭を抱え、やり場のない感情に苦悩するこの男だって同じこと。
血も涙もない、冷酷無比に見えた男が、人目を憚ることなく涙を流すんだから……
「俺は、ただ智樹に傍にいて欲しかった。他の誰でもない、俺の隣で笑っていて欲しかった、それだけだったのに……」
どこでどう間違ってしまったのか……
テーブルの上できつく握り締めたオーナーの拳が震え、何かを決意したように顔を上げると、握っていた拳で涙を拭った。
「俺は一体どうしたら、どうすれば許して貰える? 佐藤さん、アンタなら分かるだろ? 教えてくれ……」
そして佐藤の腕を掴み、乱暴に揺すったかと思うと、テーブルに額が着くくらいに深く頭を下げた。
「何でもする、智樹のためなら何でも……」
その姿は、それまで纏っていたプライドという硬い鎧なんてどこにもなくて……
痛々しい程純粋に一人の男を想う、ただの哀れな男の姿だった。
「何でもする、君はそう言ったね? ならば、もう智樹を自由にしてやらないか?」
「智樹を……、自由に?」
「そうだ。勿論、今の状態の智樹を一人にするのは危険だが……」
薬物依存の恐ろしさを言っているんだろう、佐藤は暫く深く考え込む素振りを見せた後、ある提案を口にした。
「どうだろうか、君が本気で智樹のことを思うのであれば、智樹を俺に預けてはくれないだろうか?」
「智樹……を? アンタに……?」
「尤も、君も知っての通り、俺も智樹に四六時中付き添える程暇じゃないから、和人君も一緒に、と言うことにはなるが」
どうだろうか、と佐藤がオーナーの肩に手を置いた。
「君の気持ちは分かる。でも今彼を責めたところで、どうにもならないだろう?」
そんなこと俺にだって分かってる。
でも、でも……っ!
「松下君、だったかな。これで分かっただろ? 君がどれだけ深くあの子を傷付けて来たのか」
項垂れたまま、呪文のように「違う」と繰り返すオーナーを、佐藤の感情を抑えた声が諌めた。
「智樹だけじゃない、和人君だって、智樹の恋人だって、皆苦しんでる。……この俺だってね?」
佐藤の言う通りだ。
皆それぞれ形は違っても、自分なりの方法で智樹を愛している。
それは、今俺の目の前で頭を抱え、やり場のない感情に苦悩するこの男だって同じこと。
血も涙もない、冷酷無比に見えた男が、人目を憚ることなく涙を流すんだから……
「俺は、ただ智樹に傍にいて欲しかった。他の誰でもない、俺の隣で笑っていて欲しかった、それだけだったのに……」
どこでどう間違ってしまったのか……
テーブルの上できつく握り締めたオーナーの拳が震え、何かを決意したように顔を上げると、握っていた拳で涙を拭った。
「俺は一体どうしたら、どうすれば許して貰える? 佐藤さん、アンタなら分かるだろ? 教えてくれ……」
そして佐藤の腕を掴み、乱暴に揺すったかと思うと、テーブルに額が着くくらいに深く頭を下げた。
「何でもする、智樹のためなら何でも……」
その姿は、それまで纏っていたプライドという硬い鎧なんてどこにもなくて……
痛々しい程純粋に一人の男を想う、ただの哀れな男の姿だった。
「何でもする、君はそう言ったね? ならば、もう智樹を自由にしてやらないか?」
「智樹を……、自由に?」
「そうだ。勿論、今の状態の智樹を一人にするのは危険だが……」
薬物依存の恐ろしさを言っているんだろう、佐藤は暫く深く考え込む素振りを見せた後、ある提案を口にした。
「どうだろうか、君が本気で智樹のことを思うのであれば、智樹を俺に預けてはくれないだろうか?」
「智樹……を? アンタに……?」
「尤も、君も知っての通り、俺も智樹に四六時中付き添える程暇じゃないから、和人君も一緒に、と言うことにはなるが」
どうだろうか、と佐藤がオーナーの肩に手を置いた。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説







寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる