S/T/R/I/P/P/E/R ー踊り子ー

誠奈

文字の大きさ
上 下
260 / 369
第21章   Fade away

しおりを挟む
 何となく、なんだけど……、普段なら絶対しないんだけど……、いつもは大きく見えていた佐藤が、何故だか凄く小さくて、弱々しく見えてしまって、気付いた俺は佐藤の頭をそっと撫でていた。

 「まさか智樹に頭を撫でられるとはな、俺も大したことないね?」
 「そ、そんなことねぇよ。別にさ、大の男が泣いちゃいけないって法はねぇし、なんなら俺なんか……」


 自分でも情けなくなるくらい泣いてばっかだし……


 これでも前はそうでもなかったのに、ここ最近自分の感情の持って行き場が分からなくて、勝手に涙が溢れて来て止められなくなることが頻繁にある。

 「聞いてもいいか?」
 「なんだい?」
 「弟さん、何の病気で?」

 瞬間、俺の手に重なっていた佐藤の手がピクりと震えたのが分かった。


 聞いちゃいけないこと……だったんだろうか?


 佐藤は漸く穏やかになった顔を再び険しくさせ、俺の手を引き、自分の隣に座らせた。肩を抱き寄せられ、コツンと預けた俺の頭を、今度は佐藤の手が撫でた。

「俺も詳しくは知らないんだ。ただ病気としか聞いてなくてね」

 その頃丁度留学中だった佐藤は、留学先にかかってきた一本の電話で、弟の突然の死を知らされたと言った。
 そのせいか、随分長いこと、弟の死を受け入れることが出来なかった、と。

 「だから初めて俺のスタジオで踊る智樹を見た時、弟が生き返ったのかと思ってね」


 それでなのか……
 俺が佐藤の前で踊ったことなんて、ただの一度だってないのに、どうして俺がダンスをしてることを知っていたのか、それがずっと引っかかってた。

 潤一とほぼ泊まり込みでダンスレッスンをしたスタジオ、あれは佐藤の持ち物だったんだ。
 なるほどな、それで漸く合点がいった。

 「勿論、智樹のダンスと明広のダンスとでは全くの別物なんだが、随所に見られるキレの良さと、足さばき、それから神経の行き届いた指先を見た時、俺は確信したんだ、この子なら明広が叶えられなかった夢を叶えてくれるって」
 「そんなの、俺みたいなのざらにいるって。それに俺はもう……」


 二度と踊らないって、そう決めてるから。


 それに今の俺には、明るい未来を夢見る資格なんてない……いや、夢なんて見ちゃいけないんだ
 俺が夢を見れば、また誰かを傷付けてしまうことになるから。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

生意気な少年は男の遊び道具にされる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

23時のプール 2

貴船きよの
BL
あらすじ 『23時のプール』の続編。 高級マンションの最上階にあるプールでの、恋人同士になった市守和哉と蓮見涼介の甘い時間。

処理中です...