255 / 369
第21章 Fade away
4
しおりを挟む
どうして俺の過去を聞き出そうとしたのか……、その理由が分かったのは、それから数分車を走らせた時の事だった。
それまでの見知らぬ景色が見覚えの景色へと変わり、車が止まった場所は、俺が一番戻りたかった場所で……
「どう……して……」
そして、もう二度と戻ることは出来ない場所だった。
「か、帰る……」
震える手でシートベルトを外そうとするけど、指がまるで言うことを聞いてくれなくて、もどかしさに今にも暴れ出しそうな感情が涙となって零れ落ちる。
「どうして、どうして、どうして……っ!」
忘れたいのに……
もう二度と戻ることが出来ないのなら、記憶から全部消し去ってしまいたいのに……
どうして今更……
「君には申し訳ないが、君のことは調べさせて貰ったよ。と、言うよりは、知るつもりもなかったんだが、親切な友人が君のことを調べていてね。それで……」
流れる涙を拭うことも出来ず、ただ唇を噛むことしか出来ない俺を、佐藤の腕が抱き寄せる。
「まだ戻りたいかい?」
「もう戻れない。あの場所には……もう」
「それはどうして? 君の右耳が聞こえなくなったから? それとも別の理由があるのかい?」
気付いてたんだ。
佐藤は俺の右耳が聞こえなくなったことを、気付いてたんだ。
俺は腕を突っ張って佐藤の腕から逃れると、俺の胸の奥まで見透かしてしまいそうな佐藤の視線に背を向けた。
耳のことだけならまだいい、それ以上のことは……、あの事だけは絶対に知られるわけにはいかない。
「智樹、君がどうしても戻りたいと言うなら……、君が彼の元へ戻りたいというのなら、俺が力を貸そう」
どうして……?
どうして俺なんかのために、そこまで……
俺にそんな価値なんてないのに。
でも、ごめん。
「どうする、智樹?」
俺にはもう戻る場所も腕も、ありはしないんだよ。
もし仮にあったとしても、俺にはもうその腕に抱かれる資格は……ない。
「戻る? 俺がどこに? 俺ね、好きでこの仕事してんの。第一、俺と潤一は切っても切れない関係なの。離れらんねぇのよ。悪いな」
それだけを言うのが精一杯だった。
自分の気持ちを隠し、ともすればアイツの名を叫び出してしいそうな心に蓋をするのが辛くて……
悲しくて……
俺はそっと瞼を閉じた。
眠れないことは分かっていたのに……
それまでの見知らぬ景色が見覚えの景色へと変わり、車が止まった場所は、俺が一番戻りたかった場所で……
「どう……して……」
そして、もう二度と戻ることは出来ない場所だった。
「か、帰る……」
震える手でシートベルトを外そうとするけど、指がまるで言うことを聞いてくれなくて、もどかしさに今にも暴れ出しそうな感情が涙となって零れ落ちる。
「どうして、どうして、どうして……っ!」
忘れたいのに……
もう二度と戻ることが出来ないのなら、記憶から全部消し去ってしまいたいのに……
どうして今更……
「君には申し訳ないが、君のことは調べさせて貰ったよ。と、言うよりは、知るつもりもなかったんだが、親切な友人が君のことを調べていてね。それで……」
流れる涙を拭うことも出来ず、ただ唇を噛むことしか出来ない俺を、佐藤の腕が抱き寄せる。
「まだ戻りたいかい?」
「もう戻れない。あの場所には……もう」
「それはどうして? 君の右耳が聞こえなくなったから? それとも別の理由があるのかい?」
気付いてたんだ。
佐藤は俺の右耳が聞こえなくなったことを、気付いてたんだ。
俺は腕を突っ張って佐藤の腕から逃れると、俺の胸の奥まで見透かしてしまいそうな佐藤の視線に背を向けた。
耳のことだけならまだいい、それ以上のことは……、あの事だけは絶対に知られるわけにはいかない。
「智樹、君がどうしても戻りたいと言うなら……、君が彼の元へ戻りたいというのなら、俺が力を貸そう」
どうして……?
どうして俺なんかのために、そこまで……
俺にそんな価値なんてないのに。
でも、ごめん。
「どうする、智樹?」
俺にはもう戻る場所も腕も、ありはしないんだよ。
もし仮にあったとしても、俺にはもうその腕に抱かれる資格は……ない。
「戻る? 俺がどこに? 俺ね、好きでこの仕事してんの。第一、俺と潤一は切っても切れない関係なの。離れらんねぇのよ。悪いな」
それだけを言うのが精一杯だった。
自分の気持ちを隠し、ともすればアイツの名を叫び出してしいそうな心に蓋をするのが辛くて……
悲しくて……
俺はそっと瞼を閉じた。
眠れないことは分かっていたのに……
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる