250 / 369
第20章 Omen
15
しおりを挟む
それからはまるで、意識の遠くの方で話を聞いているようで……
「大丈夫かい?」
いつの間にか場所を移動した佐藤に肩を抱かれるまで、俺は声を発することも出来なかった。
「あ、は、はい……、大丈夫……です。あのっ……」
俺は膝の上に置いた手に拳を作ると、すぐ隣にいる佐藤の顔を覗き込んだ。
「ん、どうした?」
また会ってくれますか? ……そう言いたいのに、こんな時に限ってルールってやつが脳裏をチラつく。
客がまた指名したくなるよう仕向けるのは許されていても、俺達の方から客に指名を促すことは、固く禁止されている。
「いえ…、なんでもありません。今日はわざわざ時間を作って頂き、ありがとうございました」
俺は佐藤に頭を下げると、瓶の中に残ったビールはそのままに席を立った。
「いや、こちらこそ君と話せて良かったよ。また何か気になることがあれば、彼……光司君だったかな、彼を通じて連絡をくれれば時間を作ろう」
佐藤からの願ってもない申し出に、胸のつかえが少しだけ軽くなった俺は、再度佐藤に礼を言ってホテルの部屋を出た。
マンションに帰った俺は、エレベーターを待つのももどかしくて、三階までの階段を駆け上がった。
普段なら確実にエレベーターを待つ俺なのに、どうしてだか気が急いて仕方なかった。
あんな思いをさせられたのに……
顔だってまだ痛むのに……
一刻も早く智樹の顔を見たかった。
右耳が聞こえなくなったことを誰にも打ち明けることも出来ず、きっと一人で苦しんでいるに違いない。
そう思ってドアを開けた俺の目に飛び込んで来たのは、一瞬入る部屋を間違えたかと思うような散らかった部屋で、靴を脱ぐことも出来ず呆然と立ち尽くした。
「何これ……。智樹……?」
何が起きているのか分からず、狭いダイニングを見回すけど、智樹の姿はどこにもない。
確か今日は仕事入ってないって言ってた筈なんだけど……
俺は靴を脱ぐと、割れた食器の破片を避けるように、僅かな隙間を縫って寝室のドアを開けた。
「智樹? いるの?」
真っ暗な部屋に問いかけるけど、智樹からの返事はない。
寝てるんだろうか……
いや、でも昨日だって、それに今日だって、十分過ぎる程睡眠はとれてる筈なんだけど……
不安に感じながら、俺は壁のスイッチを押した。
「大丈夫かい?」
いつの間にか場所を移動した佐藤に肩を抱かれるまで、俺は声を発することも出来なかった。
「あ、は、はい……、大丈夫……です。あのっ……」
俺は膝の上に置いた手に拳を作ると、すぐ隣にいる佐藤の顔を覗き込んだ。
「ん、どうした?」
また会ってくれますか? ……そう言いたいのに、こんな時に限ってルールってやつが脳裏をチラつく。
客がまた指名したくなるよう仕向けるのは許されていても、俺達の方から客に指名を促すことは、固く禁止されている。
「いえ…、なんでもありません。今日はわざわざ時間を作って頂き、ありがとうございました」
俺は佐藤に頭を下げると、瓶の中に残ったビールはそのままに席を立った。
「いや、こちらこそ君と話せて良かったよ。また何か気になることがあれば、彼……光司君だったかな、彼を通じて連絡をくれれば時間を作ろう」
佐藤からの願ってもない申し出に、胸のつかえが少しだけ軽くなった俺は、再度佐藤に礼を言ってホテルの部屋を出た。
マンションに帰った俺は、エレベーターを待つのももどかしくて、三階までの階段を駆け上がった。
普段なら確実にエレベーターを待つ俺なのに、どうしてだか気が急いて仕方なかった。
あんな思いをさせられたのに……
顔だってまだ痛むのに……
一刻も早く智樹の顔を見たかった。
右耳が聞こえなくなったことを誰にも打ち明けることも出来ず、きっと一人で苦しんでいるに違いない。
そう思ってドアを開けた俺の目に飛び込んで来たのは、一瞬入る部屋を間違えたかと思うような散らかった部屋で、靴を脱ぐことも出来ず呆然と立ち尽くした。
「何これ……。智樹……?」
何が起きているのか分からず、狭いダイニングを見回すけど、智樹の姿はどこにもない。
確か今日は仕事入ってないって言ってた筈なんだけど……
俺は靴を脱ぐと、割れた食器の破片を避けるように、僅かな隙間を縫って寝室のドアを開けた。
「智樹? いるの?」
真っ暗な部屋に問いかけるけど、智樹からの返事はない。
寝てるんだろうか……
いや、でも昨日だって、それに今日だって、十分過ぎる程睡眠はとれてる筈なんだけど……
不安に感じながら、俺は壁のスイッチを押した。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説




寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開



ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる