S/T/R/I/P/P/E/R ー踊り子ー

第20章 Omen

７

　深夜に降り出した雨は、夕方を過ぎても止むことはなくて、そんな天気にも関わらず、妙に明るく振る舞い、仕事に出かける智樹を見送った。

　本当のところはどうなのは分からないけれど、倒れたと聞いた以上、不安が無いわけじゃない。
　寧ろ不安だらけだ。


　それに加えてこの天気だし、また倒れたりしなきゃいいけど……


　たまたま仕事の入っていなかった俺は、胸の底に溜まった不安と、そして智樹に感じた違和感に、一人悶々とした時間を過ごしていた。

　そんな時だった、柳から入った一本の電話が、俺のスマホを震わせた。
　仕事の連絡以外、柳から連絡が入ることほ滅多にない。


　まさか、また倒れたとか？


　不安に駆られた俺は、直ぐ様通話ボタンをタップすると、スマホを耳に宛がった。

　「もしもし？　どうかした？」

　不安を気取られないよう、平静を装う。

　「あの、ちょっと報告って言うか、お聞きしたいことがあって……」

　いつもはハッキリした口調なのに、珍しく口篭る柳に不安が過ぎる。

　「何だよ、言ってみろよ」
　「実は、どうも智樹さんのことを探してる、って人がいるらしくて……」
　「智樹のことを？」
　「殿様探偵って言ったっけ、おかしな名前の探偵まで雇ってるらしくて……」


　殿様探偵？


　聞いた事のない名前に、俺は電話越しに首を傾げた。
　でも探偵まで雇って智樹を探してるってなると、考えられるのは一人だけ。

　翔真さんしかいない。

　「お前、その話を誰から？」
　「俺も人伝に聞いただけで、ハッキリとしたことは分からないんですけど、どうも風雅が元々通っていたダンススタジオの講師と、最近になって頻繁に会ってることがオーナーの耳に入ったらしくて。その時に、その殿様探偵に智樹さんのことを……」


　うっかり喋ってしまった、ってことか……
　風雅って言えば、智樹が付きっきりでダンスのレッスンをしていたアイツだよな……


　「で、その風雅って奴はどうなった？」

　もし、その殿様探偵とかいう奴が翔真さんが雇った探偵だったとして、間接的とはいえ、翔真さんと関わりを持ってしまった風雅を、あのオーナーが黙って見過ごす筈はない。

　だってあのオーナーの智樹に対する執着は、俺から見たって相当根深いものがあるから……