240 / 369
第20章 Omen
5
しおりを挟む
マンションに帰ると、早速非常用にストックしておいたカップ麺に湯を注ぎ、それをペロリと平らげた智樹は、まるで糸が切れてしまったように、ベッドに横になり、ものの数秒で気持ち良さそうに寝息を立て始めた。
以前はそんなことなかったのに……
どれだけ自分が眠たくても、必ず俺が食べ終えるのを待ってから、漸くベッドに潜り込んでたのに……
俺と目を合わすことも出来ないくらい、会話をすることも出来ないくらい、疲労がピークに達してるってこと?
そうなの、智樹?
俺は伸びきったラーメンを食べる気にはなれず、すっかり寝入った様子の智樹を起こさないよう、ベッドの僅かに空いたスペースに身体を潜り込ませた。
まるでお腹の中の胎児のように身体を丸めて眠る智樹に腕を回し、いつもと違う香りを放つ髪に鼻先を埋めた。
そうしていると、自然に睡魔が襲ってくるから不思議だ。
「おやすみ、智樹」
当然、返事なんて返ってくる筈もなく、俺はほんのちょっとの寂しさを感じながら、瞼をゆっくり閉じた。
深夜、トイレに目を覚ました俺は、腕の中にいる筈の智樹がいないことに気付いて、明かりの消えた部屋の中をグルリと見回した。
すると、どこからともなく歌声が聞こえて来て……
「智樹……なの?」
俺が声をかけると、歌がピタリと止んだ。
目を凝らし、微かに月明かりの差し込む窓辺に視線を向けると、ちゃんと閉めたつもりの窓から吹き込む風にカーテンの裾が揺れ、まるでその影に隠れるかのように膝を抱えて座る智樹がいた。
「こんなとこで何してんの? 風邪引いちゃうよ?」
膝を抱えた手に触れてみるとると、氷のように冷たい。
俺は窓を閉め、傍にあったブランケットを手に取ると、智樹の肩にそっとかけた。
「智樹? 眠れないの?」
冷たくなった手を擦りながら問いかけてみるけど、俺の声が届いていないのか、智樹からの反応はない。
それどころか、ただ一点だけを見つめた目はとても虚ろで……
「智樹? ねぇ、智樹ったら……」
不安になった俺は、少々声を荒げ、乱暴に肩を揺すった。
「えっ、あぁ、和人か……」
ハッとしたように肩をビクンと上げた智樹が、顔ごと視線を俺に向けた。
以前はそんなことなかったのに……
どれだけ自分が眠たくても、必ず俺が食べ終えるのを待ってから、漸くベッドに潜り込んでたのに……
俺と目を合わすことも出来ないくらい、会話をすることも出来ないくらい、疲労がピークに達してるってこと?
そうなの、智樹?
俺は伸びきったラーメンを食べる気にはなれず、すっかり寝入った様子の智樹を起こさないよう、ベッドの僅かに空いたスペースに身体を潜り込ませた。
まるでお腹の中の胎児のように身体を丸めて眠る智樹に腕を回し、いつもと違う香りを放つ髪に鼻先を埋めた。
そうしていると、自然に睡魔が襲ってくるから不思議だ。
「おやすみ、智樹」
当然、返事なんて返ってくる筈もなく、俺はほんのちょっとの寂しさを感じながら、瞼をゆっくり閉じた。
深夜、トイレに目を覚ました俺は、腕の中にいる筈の智樹がいないことに気付いて、明かりの消えた部屋の中をグルリと見回した。
すると、どこからともなく歌声が聞こえて来て……
「智樹……なの?」
俺が声をかけると、歌がピタリと止んだ。
目を凝らし、微かに月明かりの差し込む窓辺に視線を向けると、ちゃんと閉めたつもりの窓から吹き込む風にカーテンの裾が揺れ、まるでその影に隠れるかのように膝を抱えて座る智樹がいた。
「こんなとこで何してんの? 風邪引いちゃうよ?」
膝を抱えた手に触れてみるとると、氷のように冷たい。
俺は窓を閉め、傍にあったブランケットを手に取ると、智樹の肩にそっとかけた。
「智樹? 眠れないの?」
冷たくなった手を擦りながら問いかけてみるけど、俺の声が届いていないのか、智樹からの反応はない。
それどころか、ただ一点だけを見つめた目はとても虚ろで……
「智樹? ねぇ、智樹ったら……」
不安になった俺は、少々声を荒げ、乱暴に肩を揺すった。
「えっ、あぁ、和人か……」
ハッとしたように肩をビクンと上げた智樹が、顔ごと視線を俺に向けた。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
俺と両想いにならないと出られない部屋
小熊井つん
BL
ごく普通の会社員である山吹修介は、同僚の桜庭琥太郎に密かに恋心を寄せていた。
同性という障壁から自分の気持ちを打ち明けることも出来ず悶々とした日々を送っていたが、ある日を境に不思議な夢を見始める。
それは『〇〇しないと出られない部屋』という形で脱出条件が提示される部屋に桜庭と2人きりで閉じ込められるというものだった。
「この夢は自分の願望が反映されたものに違いない」そう考えた山吹は夢の謎を解き明かすため奮闘する。
陽気お人よし攻め×堅物平凡受けのSF(すこし・ふしぎ)なBL。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる