S/T/R/I/P/P/E/R ー踊り子ー

誠奈

文字の大きさ
上 下
228 / 369
第19章   Clue

しおりを挟む
 「お忙しいところお邪魔しました」

 玄関先で礼を言って智樹の家を出る。
 手に下げた紙袋がズシリと重くを感じるのは、アルバムや携帯電話だけの重みじゃない。智樹の両親の息子を思う気持ちが、この紙袋の中には一緒に込められているからだろう。

 助手席に荷物を置き、運転席に回ろうとした時、開いた小さな門から、智樹のお袋さんが飛び出してきて、ドアノブにかけた俺の手を握った。

 「あの子のことお願いします。あの子、電話口で言ったんです、今凄く幸せなんだって……あの子そう言ったんです。それから好きな人が出来たと。心から尊敬出来る人なんだ、って」
 「好きな人……ですか?」
 「ええ、その人の傍にいられるだけで、それだけで幸せなんだって……」

 貴方のことですよね、とお袋さんの濡れた瞳が俺に語りかける。

 「アイツ、そんなこと俺には一度も………」


 何でだろう、胸が熱くて、でも苦しくて……


 智樹の両親の前で、みっともない姿だけは見せないでおこうと心に決めていたのに、その決心さえ揺らぎ、気付いた時には、俺の目からはポロポロと涙が零れ落ち、俺の手に重ねられたお袋さんの手を濡らしていた。

 「あの子がどういう理由で、またあの彼の元へ行ったのかは分かりません。でもあの子、きっと貴方のことを待ってます。貴方が迎えに来てくれるのを……」

 母親だから分かるんです、そう言ってお袋さんは智樹とよく似た、柔らかな笑みを浮かべた。

 「だからどうかあの子を、智樹を……」
 「分かりました、俺も全力を尽くします。俺も智樹のことを愛してますから」

 誰にも、智樹にすら打ち明けたことのない俺の本音を、智樹のお袋さんがどう受け止めたのかは分からない。
 でもそこに一切の嘘も偽りもない。
 俺はお袋さんと、そして門の前で成り行きを見守っていた親父さんに頭を下げると、車に乗り込んだ。

 「また何か分かり次第連絡します。それから、もし智樹から連絡があった時は……」

 俺はポケットからカードケースを取り出すと、中の一枚を抜き取りお袋さんに差し出した。

 「ここに連絡を頂けませんか? 何なら俺の携帯電話でも構いませんので」

 俺はお袋さんが頷くのを確認してから、漸く車のエンジンをかけた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

機械に吊るされ男は容赦無く弄ばれる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

少年探偵は恥部を徹底的に調べあげられる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

不良少年達は体育教師を無慈悲に弄ぶ

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

処理中です...