218 / 369
第18章 Emotion
9
しおりを挟む
佐藤は俺の顔を見るなり、挨拶一つ交わすことなく軽々と俺を抱き上げた。
「な、なんだよ、下ろせよ」
こんな仕事をしていても、いつまで経っても女のような扱いには、どうしても慣れない。
抗議した俺を抱いたまま、佐藤は広いリビングにセンス良く配置されたソファーに座ると、セットしていない俺の髪をサラッと掻き上げた。
「何かあったのか?」
聞かれて俺は思わず視線を逸らした。
ったく、和人といい、佐藤といい、なんでこうも勘が良いんだ……
「な、なんもねぇよ」
そう、特別なことなんて何も無い。
もしあるとすれば、佐藤の声がいつもより遠くに聞こえることくらいだ。でもそれだって左耳に全神経を集中していれば、カバー出来ないこともない。
「そうか、なら良いんだが。そうだ、実は頂き物のケーキがあるんだが、食べるか? 好きだろ、甘い物」
「まあ……な」
たった一度、それもセックスの後にポツリ呟いた一言を覚えていたことに、俺は驚きを隠せなかった。
「良かった、俺は甘い物が苦手だから、丁度困っていたところなんだよ。ちょっと待ってろ」
そう言って佐藤は俺を膝から下ろすと、見るからに使用感のないキッチンに入り、一人暮らしには勿体ない大型冷蔵庫のドアを開けた。
ミネラルウォーターのボトルと、アルコールしか入っていない冷蔵庫から出てきたのは、思いの外デカい箱で……
佐藤は箱ごとリビングのテーブルの上に置くと、どれがいいとばかりに蓋を開けて見せた。
途端に広がる甘い匂いが、俺の胸に刺さった棘を抜き取ってくれるような、そんな気がした。
佐藤がどんな顔をしてこれを買ったのか……、頂き物なんてのは嘘だ。
さっき腕に抱かれた時、佐藤の服から、いつもの香水とは違う、甘ったるい匂いがしたから分かる。俺のために用意してくれたんだ。
ってか、こんなに種類あっちゃ選べねぇよ……
それでも俺は、十個はあるケーキの中で、唯一チョコでコーティングされたケーキを選ぶと、佐藤が用意してくれた皿の上に載せた。
「一つでいいのか?」
「んなに食えっかよ。ってか、丸々太った男抱きてぇか?」
「うーん、それはちょっと……」
「だろ?」
肩を竦めて苦笑した佐藤を横目に、俺はフォークで刺したケーキを一口頬張った。
「な、なんだよ、下ろせよ」
こんな仕事をしていても、いつまで経っても女のような扱いには、どうしても慣れない。
抗議した俺を抱いたまま、佐藤は広いリビングにセンス良く配置されたソファーに座ると、セットしていない俺の髪をサラッと掻き上げた。
「何かあったのか?」
聞かれて俺は思わず視線を逸らした。
ったく、和人といい、佐藤といい、なんでこうも勘が良いんだ……
「な、なんもねぇよ」
そう、特別なことなんて何も無い。
もしあるとすれば、佐藤の声がいつもより遠くに聞こえることくらいだ。でもそれだって左耳に全神経を集中していれば、カバー出来ないこともない。
「そうか、なら良いんだが。そうだ、実は頂き物のケーキがあるんだが、食べるか? 好きだろ、甘い物」
「まあ……な」
たった一度、それもセックスの後にポツリ呟いた一言を覚えていたことに、俺は驚きを隠せなかった。
「良かった、俺は甘い物が苦手だから、丁度困っていたところなんだよ。ちょっと待ってろ」
そう言って佐藤は俺を膝から下ろすと、見るからに使用感のないキッチンに入り、一人暮らしには勿体ない大型冷蔵庫のドアを開けた。
ミネラルウォーターのボトルと、アルコールしか入っていない冷蔵庫から出てきたのは、思いの外デカい箱で……
佐藤は箱ごとリビングのテーブルの上に置くと、どれがいいとばかりに蓋を開けて見せた。
途端に広がる甘い匂いが、俺の胸に刺さった棘を抜き取ってくれるような、そんな気がした。
佐藤がどんな顔をしてこれを買ったのか……、頂き物なんてのは嘘だ。
さっき腕に抱かれた時、佐藤の服から、いつもの香水とは違う、甘ったるい匂いがしたから分かる。俺のために用意してくれたんだ。
ってか、こんなに種類あっちゃ選べねぇよ……
それでも俺は、十個はあるケーキの中で、唯一チョコでコーティングされたケーキを選ぶと、佐藤が用意してくれた皿の上に載せた。
「一つでいいのか?」
「んなに食えっかよ。ってか、丸々太った男抱きてぇか?」
「うーん、それはちょっと……」
「だろ?」
肩を竦めて苦笑した佐藤を横目に、俺はフォークで刺したケーキを一口頬張った。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説




寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開



ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる