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第17章 Betrayal
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坂口が、コトリと空になったカップを皿の上に置き、長く息を吐き出した。
「一度だけ……半月程前だったか、風雅から電話がかかって来たことがあってね」
その時の会話を思い出しているんだろうか、坂口の眉間に深い皺が刻まれる。
「その時風雅はなんて?」
俺は別段急かすわけでもなく、それでも先の言葉を促すように、困惑の色を隠せずにいると坂口の顔を覗き込んだ。
「ずっと憧れてた人に、ダンス教えて貰えることになった……って、風雅の奴そう言ったんだ」
「憧れてた人……、ですか?」
「そう、アイツがダンスを始めたきっかけってのが、動画投稿サイトで目にしたダンサーだった、って、話を聞いたことがあってな。もしかしたらそれが……」
「智樹かもしれないと?」
俺の問いかけに、坂口が無言で頷く。
確かに、智樹は俺と出会う以前、自身の記録のために、動画投稿サイトに練習風景をアップしていたと聞いたことがある。
智樹が嫌がったから、俺自身は実際には見たことはないけど、でももし坂口の話が事実ならそれも頷ける。
スタジオの片隅で見かけた風雅の目、あれは憧れその物だった。
「いや、でもちょっと待って下さい。もし仮に、その風雅って奴が智樹に憧れていたとして、智樹と風雅の間には何の接点もない筈だ。二人が同じ店に出入りする理由にはならないでしょう?」
坂口のスタジオには毎回同行していたから分かることだが、二人はレッスン中、会話どころか視線すら合わせたことはない。二人を繋げる接点なんて、どこを探したって見当たらない。
「他には? 風雅は他に何て……」
冷静になろうとすればする程、逸る気持ちが抑えきれなくなって、ついつい早口になる。
「いや、他には何も……」
「そう、ですか……」
手詰まりか……、俺は落胆した気持ちを紛らすかのように、冷めたコーヒーを一気に飲み干すと、灰皿の中で燻っていたタバコを捻り潰した。
仕方ない、そもそも智樹と一緒に写真に写り込んでいた青年が、たまたま坂口の教え子だったってだけで、そこから手がかりを掴めるかもしれないなんて、甘い考えだったんだ。
「すいません、お時間とらせてしまって」
俺は伝票を手に取ると、足早に会計に向かった。
「一度だけ……半月程前だったか、風雅から電話がかかって来たことがあってね」
その時の会話を思い出しているんだろうか、坂口の眉間に深い皺が刻まれる。
「その時風雅はなんて?」
俺は別段急かすわけでもなく、それでも先の言葉を促すように、困惑の色を隠せずにいると坂口の顔を覗き込んだ。
「ずっと憧れてた人に、ダンス教えて貰えることになった……って、風雅の奴そう言ったんだ」
「憧れてた人……、ですか?」
「そう、アイツがダンスを始めたきっかけってのが、動画投稿サイトで目にしたダンサーだった、って、話を聞いたことがあってな。もしかしたらそれが……」
「智樹かもしれないと?」
俺の問いかけに、坂口が無言で頷く。
確かに、智樹は俺と出会う以前、自身の記録のために、動画投稿サイトに練習風景をアップしていたと聞いたことがある。
智樹が嫌がったから、俺自身は実際には見たことはないけど、でももし坂口の話が事実ならそれも頷ける。
スタジオの片隅で見かけた風雅の目、あれは憧れその物だった。
「いや、でもちょっと待って下さい。もし仮に、その風雅って奴が智樹に憧れていたとして、智樹と風雅の間には何の接点もない筈だ。二人が同じ店に出入りする理由にはならないでしょう?」
坂口のスタジオには毎回同行していたから分かることだが、二人はレッスン中、会話どころか視線すら合わせたことはない。二人を繋げる接点なんて、どこを探したって見当たらない。
「他には? 風雅は他に何て……」
冷静になろうとすればする程、逸る気持ちが抑えきれなくなって、ついつい早口になる。
「いや、他には何も……」
「そう、ですか……」
手詰まりか……、俺は落胆した気持ちを紛らすかのように、冷めたコーヒーを一気に飲み干すと、灰皿の中で燻っていたタバコを捻り潰した。
仕方ない、そもそも智樹と一緒に写真に写り込んでいた青年が、たまたま坂口の教え子だったってだけで、そこから手がかりを掴めるかもしれないなんて、甘い考えだったんだ。
「すいません、お時間とらせてしまって」
俺は伝票を手に取ると、足早に会計に向かった。
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