S/T/R/I/P/P/E/R ー踊り子ー

誠奈

文字の大きさ
上 下
175 / 369
第15章   Signs

10

しおりを挟む
 ダンサー用に設けられたシャワールームで軽く汗を流し、クリーニング済みのカッターシャツとスーツに着替えた俺は、誰もいない筈のステージに降りた。

 そう、誰もいないと思っていた。
 階段の中程まで降りた所で、聞き覚えのあるメロディーと、リズムに合わせて床を蹴る音が耳に飛び込んで来るまでは。


 まさか……!


 俺は階段を一気に駆け降りると、舞台袖で幾重にも重なる幕を掻き分けた。

 「智樹っ!」

 半ば叫ぶようにしてステージ上に飛び出した俺を、心底驚いたような目が見つめる。

 「なんだ友介か……」
 「なんだ……って、失礼しちゃうな」

 首に巻いたタオルで額の汗を拭い、一見すれば幼くも見える笑顔で拗ねた素振りをする。

 「ああ、悪ぃ。こんな時間だし、智樹かと思ってな……」

 智樹は、スタッフやダンサーが揃う前の、誰もいない無人のステージで踊るのが好きだった……というよりは、見せたくなかったんだよな、練習してる姿を。
 例えスタッフだとしても、なんなら俺に対しても、中途半端な姿は誰にも見せることはしなかった。だからかな、ステップを踏む音が聞こえた瞬間、それが智樹だと思い込んでしまった。

 「ごめんなさいね、智樹さんじゃなくて」
 「いや、俺の方こそ練習の邪魔して悪かったな」

 集中を途切れさせてしまったことを素直に詫び、ステージを降りようとしたが、友介の手が俺の腕を掴んで引き留めた。

 「もし良かったら見て貰えますか?」

 まるで小動物のような、クリッとした目で俺を見上げる友介。


 なるほどな、確かに客ウケがいい筈だぜ。


 「ああ、少しくらいなら」

 どうせ支配人室に戻ったところで、特にすることはないし、一人でいるよりはいい。

 「やった!」

 俺は無人の客席に腰を下ろすと、ステージを見上げた。
 自前の物だろうか、プレイヤーからR&B調の音楽が流れ始め、友介が持ち前のバネを生かして小柄な身体を、所狭しとステージ上に跳ねさせる。

 これまでまともに見たことは無かったが、アイドルさながらの見た目も男の割には可愛らしいし、ダンステクニックだってまだまだ荒削りだが、上手く育てれば智樹以上のダンサーになるかもしれない。

 ただ、俺にとってのNo.1ダンサーは、後にも先にも智樹を除いて他にはいないけど……
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

モルモットの生活

麒麟
BL
ある施設でモルモットとして飼われている僕。 日々あらゆる実験が行われている僕の生活の話です。 痛い実験から気持ち良くなる実験、いろんな実験をしています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...