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第15章 Signs
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俄には信じ難い現実に、全ての思考が停止する。
だってそうだろ、同じ曲ってだけならばそう驚きもしないが、アレンジまで同じとなると話は全く別だ。
「間違いねぇ、智樹が杮落としの舞台で踊った、あの曲だ」
「だよ……ね……」
「ああ、だってあの曲は……」
この曲で踊りたいんだと、そう言って智樹が持つてきたのは、元々の曲自体の雰囲気は良かったものの、どこか物足りなさを感じて、坂口の伝手を使ってアレンジを依頼した、この世に二つとない曲だ。
それがどうして……
当然のことだが、俺の視線はステージに釘付けになった。もしかしたら智樹が……、そんな予感がしたからだ。
それは雅也も同じで、一瞬ゴクリと息を飲んだまま、ピクリとも動かずステージを凝視している。
少しずつ奈落から競り上がってくる後ろ姿が、智樹だったら……、いや寧ろ智樹であって欲しい。
それが智樹が生きている証明にもなるんだから……
半ば祈るような気持ちでステージを見つめた。でも、尺八が奏でる和の音色に、荒々しいロックのリズムが重なった瞬間、その期待は脆くも崩れ去った。
「違う、智樹じゃない……」
顔はマスクに覆われていて確かめることは出来ないが、俺には分かる。
衣装や振り付けなんかは似せているが、足の運びや、指の先に至るまで神経を巡らせる智樹のダンスとは、テクニックは当然のこと、全てに於いて明らかに劣っている。
一瞬でも智樹かと思った自分が情けねぇ……
「えっ、でも智樹じゃなかったらどうしてこの曲が?」
「それは俺にも分かんねぇ。でもあれは智樹じゃねぇ」
智樹のダンスはもっと……、言葉では表現し難い唯一無二の物で、あんな風にまるで自分の存在を誇張するような踊り方はしない。
「雅也、帰るぞ」
最後まで見届ける価値はないと判断した俺は、早々に引き上げようと革張りのソファーから腰を上げた。でもその腰は、直後に湧き上がった歓声によって、再びソファーへと引き戻された。
メインダンサーの後ろで踊っていた数人のダンサーが、極めて布面積の小さい下着だけを纏った姿で、次々とステージから舞い降り、各テーブルに付いた。
勿論、俺達のテーブルにも……
だってそうだろ、同じ曲ってだけならばそう驚きもしないが、アレンジまで同じとなると話は全く別だ。
「間違いねぇ、智樹が杮落としの舞台で踊った、あの曲だ」
「だよ……ね……」
「ああ、だってあの曲は……」
この曲で踊りたいんだと、そう言って智樹が持つてきたのは、元々の曲自体の雰囲気は良かったものの、どこか物足りなさを感じて、坂口の伝手を使ってアレンジを依頼した、この世に二つとない曲だ。
それがどうして……
当然のことだが、俺の視線はステージに釘付けになった。もしかしたら智樹が……、そんな予感がしたからだ。
それは雅也も同じで、一瞬ゴクリと息を飲んだまま、ピクリとも動かずステージを凝視している。
少しずつ奈落から競り上がってくる後ろ姿が、智樹だったら……、いや寧ろ智樹であって欲しい。
それが智樹が生きている証明にもなるんだから……
半ば祈るような気持ちでステージを見つめた。でも、尺八が奏でる和の音色に、荒々しいロックのリズムが重なった瞬間、その期待は脆くも崩れ去った。
「違う、智樹じゃない……」
顔はマスクに覆われていて確かめることは出来ないが、俺には分かる。
衣装や振り付けなんかは似せているが、足の運びや、指の先に至るまで神経を巡らせる智樹のダンスとは、テクニックは当然のこと、全てに於いて明らかに劣っている。
一瞬でも智樹かと思った自分が情けねぇ……
「えっ、でも智樹じゃなかったらどうしてこの曲が?」
「それは俺にも分かんねぇ。でもあれは智樹じゃねぇ」
智樹のダンスはもっと……、言葉では表現し難い唯一無二の物で、あんな風にまるで自分の存在を誇張するような踊り方はしない。
「雅也、帰るぞ」
最後まで見届ける価値はないと判断した俺は、早々に引き上げようと革張りのソファーから腰を上げた。でもその腰は、直後に湧き上がった歓声によって、再びソファーへと引き戻された。
メインダンサーの後ろで踊っていた数人のダンサーが、極めて布面積の小さい下着だけを纏った姿で、次々とステージから舞い降り、各テーブルに付いた。
勿論、俺達のテーブルにも……
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