S/T/R/I/P/P/E/R ー踊り子ー

誠奈

文字の大きさ
上 下
170 / 369
第15章   Signs

しおりを挟む
 俄には信じ難い現実に、全ての思考が停止する。

 だってそうだろ、同じ曲ってだけならばそう驚きもしないが、アレンジまで同じとなると話は全く別だ。

 「間違いねぇ、智樹がこけら落としの舞台で踊った、あの曲だ」
 「だよ……ね……」
 「ああ、だってあの曲は……」

 この曲で踊りたいんだと、そう言って智樹が持つてきたのは、元々の曲自体の雰囲気は良かったものの、どこか物足りなさを感じて、坂口の伝手つてを使ってアレンジを依頼した、この世に二つとない曲だ。


 それがどうして……


 当然のことだが、俺の視線はステージに釘付けになった。もしかしたら智樹が……、そんな予感がしたからだ。
 それは雅也も同じで、一瞬ゴクリと息を飲んだまま、ピクリとも動かずステージを凝視している。

 少しずつ奈落から競り上がってくる後ろ姿が、智樹だったら……、いや寧ろ智樹であって欲しい。


 それが智樹が生きている証明にもなるんだから……


 半ば祈るような気持ちでステージを見つめた。でも、尺八が奏でる和の音色に、荒々しいロックのリズムが重なった瞬間、その期待は脆くも崩れ去った。

 「違う、智樹じゃない……」

 顔はマスクに覆われていて確かめることは出来ないが、俺には分かる。
 衣装や振り付けなんかは似せているが、足の運びや、指の先に至るまで神経を巡らせる智樹のダンスとは、テクニックは当然のこと、全てに於いて明らかに劣っている。


 一瞬でも智樹かと思った自分が情けねぇ……


 「えっ、でも智樹じゃなかったらどうしてこの曲が?」
 「それは俺にも分かんねぇ。でもあれは智樹じゃねぇ」

 智樹のダンスはもっと……、言葉では表現し難い唯一無二の物で、あんな風にまるで自分の存在を誇張するような踊り方はしない。

 「雅也、帰るぞ」

 最後まで見届ける価値はないと判断した俺は、早々に引き上げようと革張りのソファーから腰を上げた。でもその腰は、直後に湧き上がった歓声によって、再びソファーへと引き戻された。
 メインダンサーの後ろで踊っていた数人のダンサーが、極めて布面積の小さい下着だけを纏った姿で、次々とステージから舞い降り、各テーブルに付いた。


 勿論、俺達のテーブルにも……
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

少年探偵は恥部を徹底的に調べあげられる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

処理中です...