161 / 369
第14章 Separation
8
しおりを挟む
約束の場所に着いた頃には、もう日はどっぷり暮れていて、俺はポツンとあるだけの街灯を頼りに、今にも草に埋もれそうなベンチに腰を下ろした。
こんな時に限って時間を確かめるためのアイテムが何もないことが、今更ながらに悔やまれる。
時計くらい借りて来れば良かった……
後悔すると同時に、水面を滑る風の冷たさに肩を竦めた丁度その時、カサリと草を噛む音が聞こえて、俺はゆっくりと音のした方を振り返った。
スラリと伸びた手足と、目深に被ったキャップ……
逆光でも分かる、間違いなく潤一だ。
「潤……一?」
掠れた声で呼びかけてみる。
「フッ、まさか本当に来てくれるなんてね、驚いたよ」
返って来た声は、聞き間違える筈のない声で……。
俺はベンチから腰を上げると、ゆっくりとこちらに向かって近付いて来る人影に向かって一歩を踏み出した。
「約束、だから……」
「へぇ、意外と律儀なとこあるんだ? 俺のこと捨てたクセに」
「それは違う」
捨てたんじゃない、潤一は死んだものだとばかり思い込んでいたから、だから……
「違う、って? ま、今更そんなことどうでもいいや。こうして俺の所に帰って来たんだから」
徐々に距離が縮まり、不意に伸びて来たあの頃と変わらない冷たい指が俺の頬に触れる。
「そうでしょ、智樹?」
頬に触れた指が、唇の輪郭をなぞるように動く。
「……ああ」
その動きが、まるで蛇でも這っているかのように感じて、そう答えるのが精一杯だった。
「嬉しいよ、戻って来てくれて。さ、行こうか?」
どこに……?
聞くよりも前に、不意に重ねられた唇がチクリと痛む。
「痛っ……」
思わず口元を抑えた俺の手を、潤一の体温を感じない手が掴む。
「痛い? でもね、俺の痛みはそんなもんじゃなかったんだよ? 身体も、それから心もね……」
「ごめ……っ」
「謝んないでよ。今更謝られたって、この足が元通りになることは無いし、心の傷だって……」
生きていると知らなかったとは言え、それ程までに深く傷付けていたなんて、俺はどうしたらいい……
こんな時に限って時間を確かめるためのアイテムが何もないことが、今更ながらに悔やまれる。
時計くらい借りて来れば良かった……
後悔すると同時に、水面を滑る風の冷たさに肩を竦めた丁度その時、カサリと草を噛む音が聞こえて、俺はゆっくりと音のした方を振り返った。
スラリと伸びた手足と、目深に被ったキャップ……
逆光でも分かる、間違いなく潤一だ。
「潤……一?」
掠れた声で呼びかけてみる。
「フッ、まさか本当に来てくれるなんてね、驚いたよ」
返って来た声は、聞き間違える筈のない声で……。
俺はベンチから腰を上げると、ゆっくりとこちらに向かって近付いて来る人影に向かって一歩を踏み出した。
「約束、だから……」
「へぇ、意外と律儀なとこあるんだ? 俺のこと捨てたクセに」
「それは違う」
捨てたんじゃない、潤一は死んだものだとばかり思い込んでいたから、だから……
「違う、って? ま、今更そんなことどうでもいいや。こうして俺の所に帰って来たんだから」
徐々に距離が縮まり、不意に伸びて来たあの頃と変わらない冷たい指が俺の頬に触れる。
「そうでしょ、智樹?」
頬に触れた指が、唇の輪郭をなぞるように動く。
「……ああ」
その動きが、まるで蛇でも這っているかのように感じて、そう答えるのが精一杯だった。
「嬉しいよ、戻って来てくれて。さ、行こうか?」
どこに……?
聞くよりも前に、不意に重ねられた唇がチクリと痛む。
「痛っ……」
思わず口元を抑えた俺の手を、潤一の体温を感じない手が掴む。
「痛い? でもね、俺の痛みはそんなもんじゃなかったんだよ? 身体も、それから心もね……」
「ごめ……っ」
「謝んないでよ。今更謝られたって、この足が元通りになることは無いし、心の傷だって……」
生きていると知らなかったとは言え、それ程までに深く傷付けていたなんて、俺はどうしたらいい……
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる