S/T/R/I/P/P/E/R ー踊り子ー

第14章 Separation

４

　程良く酔いも回り、タクシーでマンションまで帰り着いた俺達は、靴を脱ぐ間も惜しんで激しく求めあった。
　縺れ合うようにベッドに身を投じ、まるで獣のようなキスを交わせば、心も身体も全てが歓喜に震えた。

　「翔……、翔真っ……」
　「智樹……」

　息を詰まらせ名前を呼べは、熱い吐息と一緒に俺の名を呼んだ。


　でもそれだけじゃ全然足りなくて……


「　もっと……、もっと呼べよ……、俺の名前を……呼んでくれよ」


　そしたらきっと俺、忘れないから。
　お前との時間も、お前に愛されたことも……、それから……


　「愛……してる、しょ……ぉ……ま、愛してる……」


　ほんの一瞬でも、お前を愛せたことを、きっと忘れないから……





　朝日が昇ると同時に目を醒ました俺は、気怠さの残る身体に鞭を打って、翔翔真のために朝飯を用意した。

　「たまには白米と味噌汁の朝飯が食いたい」

　パンとコーヒーを前に、口癖のように言っていた翔真のために、飯を炊き、味噌汁を作った。
　それが、踊ることしか取り柄がない俺みたいな男を愛し、生きる喜びを教えてくれた、翔真へのせめてもの恩返しだと思って。


　そんなんじゃ全然足りないんだけど……


　翔真は炊きたての飯と、湯気の立つ味噌汁を前に、満面の笑みを浮かべると、ガキ大将の如く飯をかっ食らった。

　「やっぱ、うめぇ～」

　なんて、顔をだらしなく綻ばせながら……

　「当たり前だろ、愛情詰まってんだから。……つか、飯粒着いてるし」

　口の周りに着いた飯粒を指で摘み、何の躊躇もなく口に入れる俺を、翔真が見つめる。その目がどこか寂しげに見えたのは、きっと俺の気のせい……だろう。




　「じゃあ、俺先出るから……」
　「うん、俺も後から行く」

　支度を済ませた翔真を玄関まで見送る。

　こんな風に翔真を見送ることは、もうないんだ……、そう思うと目頭が熱くなる。

　「行ってくる」
　「うん……」

　翔真が俺に背を向け、ドアノブに手をかける……けど、ドアは開かれることなく、翔真は俺を振り返ると、

　「忘れ物」

　そう言って俺に一つキスをした。


　「じゃあな……」って。

　「ばか……、いつもキスなんてしたことないのに……」


　そんなことされたら……、別れるの余計に辛くなるのに……


　ドアが閉まった瞬間、俺はその場に泣き崩れた。