S/T/R/I/P/P/E/R ー踊り子ー

誠奈

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第13章   Life

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 すげぇ……、緊張した。

 心臓がぶっ壊れちまうんじゃないかってくらいに脈打って、喉だってからっからに乾いて、その場に立ってるのがやっとだった。

 「どうした? いつでも始めていいんだぞ?」

 劇場支配人として……なんだろうな、翔真の顔つきも、口調だっていつもとは全く違う。

 「それとも辞めるか?」


 急がない、俺がその気になるまで待つ。


 翔真はそう言ってくれたけど、いつまでもその言葉に甘えてるわけにはいかない。


 いや、違うな。

 俺、踊りてぇんだよ……
 それがどんな場所でも、たとえ誰の目にも止まらなくても……、俺は踊りたい。

 気付いたからさ……
 かなり強引ではあったけど、翔真に無理矢理ステージに立たされた時に。

 ステージに立てる喜び……って言ったら大袈裟なのかもしんねぇけど、全身にスポットライトを浴びて踊ることが、どれだけ気持ちいいのか……、あの時俺は知ってしまったから。

 尤も、あの時は全裸になることもなければ、どうやったら客を喜ばせられるのかも分かってなかったから、なんだか良く分からないうちに着せられた衣装に身を包み、夢中で踊ってただけなんだけど……


 「無理すんな、またの機会に……」
 「無理なんかしてないから。だから見ててくれ……」

 俺は音楽アプリを起動させたスマホをステージの片隅に置き、一つ深呼吸をしてからプレイボタンを押した。流れてきたのは、何度も何度も繰り返し踊った、潤一との記憶が詰まったあの曲だ。

 R&B のリズムに合わせて、俺は両足でステップを踏み、腰をくねらせ、腕を振った。
 勿論、時間が経つのも忘れて踊りあかしていたあの頃のように、身体が思うように動くわけじゃないし、本音を言えば必死だった。
 息だって上がるし、ステップを踏む足だって今にも縺れそうになるし、でもそんな感覚を楽しんでいる俺がいる、ってことも事実で……


 踊れることが楽しくて、嬉しくて……、幸せだった。


 俺は翔真が制止するまで、曲が終わったのも気付かず踊り続けた。
 額から流れ落ちる汗をシャツの裾で拭うと、上がった息を整えるように、何度も深呼吸を繰り返した。翔真はそんな俺を客席から見ながら、表情一つ変えることなく組んだ足と腕を解くと、天を仰いで短な息を吐き出した。

 「荒削りではあるが悪くはねぇ。ただ……」

 そう言ったきり、翔真が黙りこくり、一瞬表情を険しく歪ませる。そしてゆっくりと腰を上げると、無言のままステージのすぐ真下まで歩み寄った。
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