S/T/R/I/P/P/E/R ー踊り子ー

誠奈

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第12章   Goodbye, and

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 そこに潤一の姿がないことが、不安で不安で堪らなくて、まるで半身を失ったような……、例え様のない不安が、空っぽになった胸に募る。

 あれからどれだけ時間が経ったのかは分からないけど、あの瞬間まで俺たちは確かに一緒にいた。


 なのに……


 「御両親、海外にいらっしゃるのね……。急なことだったから、飛行機の手配が出来なかったそうで、親戚の方……なのかしら、代わりに迎えにいらして連れて帰られたわ。とても綺麗な顔をしていたそうよ……」


 今は潤がどこにも……いない。


 「そっ……か、家に帰ったんだ……」


 俺にとっては苦い思い出になってしまったけど、求められるまま潤一に抱かれた、あの家に……


 「母ちゃん……、悪いけど一人になりたい……」

 俺は包帯の巻かれた腕で顔を覆った。

 「いいけど、何かあったら呼ぶのよ? 母ちゃん外にいるからね」

 普段は仕事ばっかでろくに顔すら合わせないのに、こんな時ばかり心配すんだから、可笑しいよな……

 「分かってるって……」

 漸く畳終えた洗濯物を棚に仕舞って、母ちゃんが部屋を出て行く。

 ゆっくりと、静かに閉まるスライドドア。
 そのドアがパタンと小さな音を立てた瞬間、堪えていた物が堰を切ったように溢れ出し、絆創膏の貼られた頬と枕を濡らした。


 どこかで分かっていたんだ、潤一とはもう二度と会うことはないだろう。
 潤一は俺の手の届かない、遠い遠い所へ行ってしまったんだって……


 「ごめ……ん、潤一……」


 俺が呼び出したりしなければ……
 駅まで見送るって言われた時、俺がちゃんと断っていれば……

 俺がダンスの道を選びさえしなければ……
 俺のことなんか好きにならなきゃ……

 こんな風に別れることはなかったのに……

 俺が潤一を殺した。


 「ごめん……、潤一、ごめん……」

 もう二度と届くことのない言葉を何度も繰り返した。




 「さよなら」

 そのたった一言すら伝えられなかったことを悔やみながら……
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