S/T/R/I/P/P/E/R ー踊り子ー

第11章 First contact

２

　その電話は、いつも通り潤一と公園でダンスの練習で汗を流し、帰宅した直後にかかってきた。

　それも俺の携帯ではなく、家の電話に……
　その時間親は仕事に出ていて留守だから、当然その電話は俺が受けることになった。

　「もしもし……」
　「あ、大田さんのお宅でしょうか？　私、Ｎ’ｓ カンパニーの代表をしている錦野と申しますが、智樹さんは……」

　その名前には聞き覚えがあった。
　Ｎ’ｓ カンパニーって言ったら、数多くのダンサーを排出していることで有名な、所謂芸能事務所みたいなもんだってことは、その類いの話題には疎い俺でも知っている。


　そのＮ’ｓ カンパニーがどうして俺に？


　ダンスと音楽以外のことには全く興味の持てない俺でも、受話器を持つ手に自然と力が入った。

　「俺……、ですけど……」
　「ああ、君が大田智樹君かい。丁度良かった、実はね……」

　Ｎ’ｓ カンパニーの代表だと名乗る錦野さんの話によれば、将来有望なダンサーを発掘するため、動画投稿サイトを見ていたら、たまたま俺と潤一がアップした動画に目が止まったらしく、どんな手を使ったのかは知らないが、電話番号まで調べ上げた結果、俺に電話をかけて来たらしい。

　「でね、もし良ければ一度会って話がしたいんだけど、どうかな？」

　半ば上の空で話を聞いていた俺も、そこまで言われて漸くスカウトの電話だと気付いて、咄嗟に潤一のことを思い浮かべた。

　「はあ……、あ、あのそういう話なら、もう一人の奴にも聞いてみないと……」

　錦野の話が本当なら、その動画には潤一だって映っていた筈。だとしたら、俺の勝手な判断だけでは返事は出来ない、そう思った。　
　でも、俺の予想に反して返ってきたのは、俺が思った答えではなくて……

　「いや、もう一人の彼には申し訳ないんだが、俺が興味あるのは大田君、君だけなんだ」

　潤一とワンセットだと思っていた俺は、すぐに返事をすることが出来なかった。


　だって動画投稿サイトにアップした動画には、当然のように潤一も映っていた筈だし、それに潤一は本気で将来ダンサーになることを夢見ていることを知っていたから……


　ただ踊ることが好きなだけで、将来のことなんて全くと言っていい程考えていない俺とは違うってことも。


　もし仮に本当にスカウトだとしたら、俺じゃなくて潤一を選ぶべきだって……