S/T/R/I/P/P/E/R ー踊り子ー

第10章 Rainy Kiss

８

　スポーツドリンクを乾いた喉に流し込む俺の隣で、ピッと小さな機械音が鳴って、その時になって漸く松下がスマホで録画していたことに気が付いた。

　「お前、勝手に撮ってんじゃねぇよ……」

　苦情を言いながら、ペットボトルを傾けると、火照った身体にレモンの酸味が染み渡る。

　「つかさあ、それどっかに流すなよ？」

　完全に自分のモノにしていないダンスを、滅多矢鱈にバラ撒かれるのは真っ平御免だ。

　「うん、分かってる」

　俺の意図を察したのか、松下はスマホをポケットの中に捩じ込んだ。

　「それにしても、やっぱ凄ぇなあ……」

　松下が溜息混じりに言う。

　「初めて動画サイトで見つけた時もそうなんだけどさ、まるっきり別人だよね？」
　「はあ？　なんだそれ……」

　横目でチラリと俺を見て、プッと吹き出す松下を睨み付ける。

　「いやいや、変な意味じゃなくてさ……、そのなんて言うか……ギャップ？　学校にいる時は、超ボケーッとしてんのに、いざ踊り始めると、超イケめてるっつーかさ……」

　慌てて両手を俺の目の前でヒラヒラさせる松下の顔は、濃い顔に似合わず妙にあどけなくて……

　「俺に言わせりゃ、お前だって随分印象違うけど？」

　周りの奴らに興味がない俺でも、松下の存在は薄らと知っていた。

　なんたって、居眠りしてたって耳に入って来る女子達の会話には、必ずと言って良い程松下の名前が挙がっていたんだから。
　実際、廊下で擦れ違った時にチラッと見かけたけど、日本人離れした顔の濃さのインパクトは勿論だけど、けっこうなイケメンだってことは分かった。

　だからかな……、クールでいけ好かない奴……、俺とは全くタイプの違う奴だと、ずっと思っていたのに、それがまさか、こんな風に無邪気に笑うなんて……意外だった。

　「もし良かったら、で構わないんだけどさ、連絡先交換しない？」

　一度はポケットにしまい込んだスマホを取り出し、無料通話アプリを立ち上げる松下。


　俺まだ良いとも何とも言ってねぇけど……


　「大田くんのスマホ貸して？」
　「あ、ああ、うん……」

　友達なんていらない。
　なんなら質より量のソーシャルな関係だったら、もっといらない。

　ずっとそう思ってたのに、俺の手は無意識のうちに松下に向かってスマホを差し出していた。