S/T/R/I/P/P/E/R ー踊り子ー

誠奈

文字の大きさ
上 下
46 / 369
第5章   Time

しおりを挟む
 有無を言わさず楽屋に智樹を放り込んだ俺は、早々に智樹を鏡の前に座らせると、衣装やメイク担当の健太を呼び付けた。
 若いが、ヘアメイクの専門学校も卒業していて、腕が立つ上に、センスも中々の男だ。

 「急で悪いが、コイツにメイクしてやってくんねぇか? それから、衣装も見繕ってやってくれ」
 「OK、任せて下さい。超美人さんに仕立てますから♪」
 「おう、頼むわ。じゃあな、智樹」

 呆然とした表情のまま鏡の前で固まる智樹の肩を叩くと、ほんの一瞬……だけど、鏡越しの智樹の瞳が大きく揺れた。


 不安……なんだと思った。


 それもそうだよな、意味も分からないままいきなりこんな場所に連れてこられて、いくら抵抗がないとは言っても大衆の前で裸になんなきゃいけないんだから……


 不安にならない方がおかしいか……


 「悪い、一瞬だけ席外して貰えるか?」

 智樹の髪をブラシで梳かしていた健太に言うと、勘の良い健太は俺の意を察したのか、静かに楽屋を出て行った。

 「翔真、俺やっぱ自信ねぇよ……」

 ドアが閉まった途端に泣きごとを言いだす智樹。俺はそっとその小さな華奢な背中を包み込むと、揺れる瞳を鏡越しに見つめた。

 「いいか、智樹? お前なら出来っから……」

 智樹の耳元に囁くのは、根拠なんて何にもない、俺の直感だけが言わせた言葉だ。

 ただ、それに俺にはある思いがあった。
 いつまでも過去の亡霊に囚われて、死しか見えていない智樹に、どうしても前を向いて欲しかった。虚ろで、精彩を欠いたその瞳を、少しでも輝かせてやりたかった。


 それが例え智樹が望まないことだったとしても……


 「おまじない、してやろうか? 目、閉じてみ?」

 小さく頷いた鏡の中の智樹が、ゆっくり瞼を閉じる。俺はその顔を両手で挟み込んで、乾いた唇に自分のそれを重ねた。


 それが、智樹と交わした初めてのキスだった。





 そしてその儀式は、今も変わらず続いている。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

機械に吊るされ男は容赦無く弄ばれる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

少年探偵は恥部を徹底的に調べあげられる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

不良少年達は体育教師を無慈悲に弄ぶ

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

処理中です...