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序章:平穏の終わり

6/8(日):帰省

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 昇龍クランの団員たちは着々とレベルを上げていく。

 昨日は天明くんも入れた昇龍クラン七人全員でダンジョンに入った。意外に東雲さんに天明くんを説得できたことに驚かれていた。

 そして昨日判明したことなのだが天明くんは女性と一緒にいることがダメなようで辛うじて東雲さんは大丈夫なようだが輝夜たちと近くに行こうとするだけでアレルギー反応が出てしまうほど重傷だった。

 だから俺と東雲さんと天明くんのパーティと輝夜と愛理と朝日奈さんと桜さんのパーティに分かれることになったから輝夜はかなり天明くんにメンチを切っていた。

「あっちは行けないらしい」
「そう。でも当然と言えば当然かしら」

 今日も昇龍クランで集まる予定だったのだが何やら東江家や無月株式会社で仕事があるみたいで愛理たちとダンジョンに行けなくなった。

 しかも今日だけではなく六月十日までやることがあるみたいで実質ことが収まるまではパーティでダンジョンに行けなくなった。

「今日は二人でダンジョンに行くか?」
「……いえ、今日は実家に帰りましょう」

 愛理たちの行動で時間が迫っていることを肌で感じているのだろう。

「そうだな。ダンジョンから遠いとは言え起こる前に顔を出しておくか」
「それに真昼をクランに誘えばいいじゃない。あの子絶対にクランのことを話せば入りたいって言うわよ」
「噛みついてくるだろうな。どうして電話で伝えてくれなかったの!? って」
「妹のくせにそんなことを言ったらおしおきよ」

 輝夜が輝夜の母親に二人で帰ることをメールで伝える。

「どうする? 俺が車を出そうか?」
「お願いするわ。走った方が速いのだけれどそれだと帰省って感じがしないわ」

 輝夜もレベルが400になったから身体能力がかなり上がっている。魔法使いタイプのHPではあるがそれでも俺と愛理の次に高い。

「輝夜は俺が運転する車の助手席に座って俺の横顔をずっと見ているのが好きだもんな」
「そうよ。景色よりも学人の横顔の方が価値があるわ」
「ありがとう。じゃあ行くか」

 輝夜に買ってもらった車に乗り込んだ俺と輝夜は出発した。

 相変わらず俺の横顔を凝視している輝夜の顔は可愛らしくて好きだ。

「愛理からグループで学人向けのメッセージが来ているわ」
「なんて?」
「他のダンジョンがどうなるのかもう一度知りたいみたいよ」
「そう言えば東京ダンジョン以外はちゃんと言っていなかったな。今俺が口頭で言うからメッセージを送ってくれるか?」
「分かったわ」

 運転に集中しながら東京ダンジョンと一緒に見た北海道ダンジョンと広島ダンジョンで起こることを輝夜に伝える。

『第一次侵攻(竜災球封印迷宮)
 侵攻者:マキシマムレッドドラゴン
 敵情報:60mを超える巨体を持ち一瞬で周囲を地獄にする業火を持つ
 推奨Lv:300以上』
『第一次侵攻(宝石球封印迷宮)
 汚染:泥
 汚染情報:触れれば生命力が奪われていく
 推奨RES:1000以上』

 竜災球が広島ダンジョン、宝石球が北海道ダンジョンだ。竜災球の方はともかく宝石球は何だかよさげだが一番内容がえげつない。

 人やモンスターじゃなくて災害なのだから。

 そう言えば世界中の第一次侵攻を見て思ったのが敵国侵攻、モンスター侵攻、汚染侵攻の三種類しかなかった。ある国では汚染侵攻だけのところもあったから日本がこの三種類すべてあるのは偶然なのかな。

 でもモンスター侵攻の中でも大型モンスター一体だけと敵国侵攻みたいに量で侵攻してくるモンスター侵攻も情報にあった。

 それに面白いことに水中にもダンジョンが存在していることに初めて知った。まだ世界に知られていないことだろうな。

「送ったわ」
「ありがとう」
「それにしてもこんなことが世界で起これば混沌ね」
「知っていても対処のしようがないからな。今からレベルを上げることもできないわけだし、ほとんどの人が推奨Lvを超えれていない」
「一番怖いのは東京ダンジョンかしらね。人間が来るのだから」

 えげつないのは災害だが怖いのは人間なのは同意だ。

「ダンジョン侵攻が起こる日、学人はどうするの?」
「東京ダンジョンに行って阻止するぞ」
「それは東江家に言っているのかしら?」
「言ってない。でも昇龍クランとして出ることにはなるだろうな」
「今日にでも連絡が来そうね」

 むしろ今まで連絡がなかったのは忙しいからだろうか。まあステータスとかの準備は図らずもしてあるから問題ない。あとは心構えをするだけだ。



 途中コンビニに立ち寄ったりして都内にある実家に到着した。

 俺と輝夜の実家は隣同士だから俺と輝夜の帰省は同時に行なえるわけだ。

「新月家にいるって」
「ホントに仲良しだな」
「学人と私と同じよ」

 新月家と月見里家は隣同士でとても仲がいい。特に母親同士、父親同士が仲がいい。

 だから大学入学で家を出るまでは旅行も一緒に行っていた。休日ならどちらかの家にいるのは当然のことだ。

「ただいま」
「ただいま」

 俺と輝夜が家に入りながら声をかけるとリビングからどたどたと足音が聞こえてきた。

「おかえり学人さん! それからお姉もおかえり」
「姉に対しての反応がおかしいでしょ」

 リビングから出てきたのは月見里家特有の濡羽色の髪を一つ結びにしている女の子、月見里真昼だった。

「どうして俺を学人さんって呼んでいるんだ?」
「あれぇ? もしかして学人さんって言われて恥ずかしいのぉ?」

 俺をからかうようなことを言う真昼。

「へぇ」

 靴を脱いで真昼に近づいて行く。

「な、なに? 怒ったの?」
「俺のことを学人さんって言って恥ずかしがっている真昼が可愛くてな」
「ッ!」

 図星のように顔を真っ赤にして俺から距離をとる真昼。そして俺の足の甲を踏みつけてくる輝夜。

「信じられないわ。彼女の妹を口説くなんて」
「面白そうだからつい」
「はぁ……真昼も真昼よ。いつも勝てないくせに」
「ま、負けてないし!」
「私たち姉妹がこの男に勝つことは不可能なのよ。分かりなさい」
「それは光栄なことだ」

 この美人姉妹に常勝は誉れだ。

「あらあら、本当に輝夜と真昼は学人くんが大好きね」

 さらにリビングから出てきたのは輝夜と真昼の母親で濡羽色の髪を持つ女性、月見里ひかりさん。

「お久しぶりです、光さん」
「えぇ、久しぶりね。ほらそんなところじゃなくて入って」
「はい」

 ここは一応俺の実家なのだがそう言われても何も違和感がなくなっているほどだ。

「おかえり、学人。それからいらっしゃい、輝夜ちゃん」
「お邪魔します、お義母さん」

 ガサツな印象を受ける黒髪の女性が俺の母親で新月陽菜はるな

 おかしい、俺よりも輝夜の方が歓迎されている。これがさっきの真昼の時の輝夜の気持ちか。

「父さんは?」
「男同士で釣りに行ってるよ。いつも坊主のくせによくやるわよ」
「そういう時間が必要なんだろ」

 父親同士はよく釣りに行くがどちらも下手だから大量の日はまずない。

「それならみのるはいるのか?」
「今日は珍しく二階にいるわよ。……ハァ、どうしてあんなにぐれたのかしらね」
「さぁ」

 不良になった弟は二階にいるのか。でも顔を見ようとは思わない。実も顔を合わせようとは思わないだろうし。
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