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序章:平穏の終わり

6/6(金):もう一人の団員

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 一昨日は朝日奈さんと桜さんはLv100に到達して、昨日は東雲さんも加わった六人でダンジョンに行っていた。

 俺はレベルを上げる必要が今のところはないからダンジョン都市に行くことはなく他のメンバーのレベル上げに専念することにした。

 俺だけでどれだけできるか分からないからレベルが高い仲間を増やしておいた方が色々と便利だろうからな。

 EXP超ブーストを最初からポンと渡すのではなくレベルが上がりにくくなったらしばらくしてスキルを足していたからステータスに振り回されることはないだろう。

 何だかんだ俺は振り回されていないな。才能かな。

 輝夜はLv328、愛理はLv238、東雲さんはLv198、朝日奈さんはLv176、桜さんはLv189となった。俺のLv2625も組み合わさっても組み合わさらなくてもこのパーティだけで今の世界をとれそうだ。

 第一次侵攻の推奨レベルはみんな到達したけど今日は五人でパーティに行っている。

 俺はと言えば用事があって後から輝夜たちと合流することになっている。

 待ち合わせしているのはオシャレな喫茶店でその中に入る。

 東雲さんから写真は受け取っているから店内にいることはうつむいているが分かった。

「待たせたな。キミが天明大和くんだな?」
「あっ……はい」

 長い黒髪で表情はあまり見えず眼鏡をかけている男性が天明大和くん。

 彼は東雲さんの親戚らしくその縁で無月株式会社に入ってきたとか。一応彼の事情を軽く東雲さんから聞いている。

 だからこそこの場を設けることに俺も賛成した。

「俺は新月学人。キミの所属している昇龍クランの団長をしている」
「……天明、大和です」
「単刀直入に言うぞ。東雲さんから聞いているとは思うがキミにはこれから二つの選択肢がある。クランに本格的に入るか、クランから抜けるか」

 天明くんは半ば無理やり入る形になったようだ。

 クランに所属している団員は天明大和くん以外はバリバリ冒険者をしているから天明大和くんはどうなっているのか東雲さんに聞いたところそれを聞いた。

 俺も団長として行動する気はないけど無理やり入るのも違うと思うと言ったところこの場が設けられた。

「キミはどうしたいんだ?」

 俺がそう問いかけても彼は答えることなくうつむいている。

 ここで抜けると即答しないのは葛藤があるからだろうか。十分に時間があったから断れるとは思う。

「キミがクランを抜けても俺はそれを尊重するし東雲さんにも俺が説得する。だから気を遣って残るのはやめてくれ。それこそ迷惑だからな」
「……はい」
「で、どうしたいんだ?」

 答えようとはしない天明くん。まあ何となく分かるからこのまま黙っていても意味がないだろう。

「沈黙ということは迷っているんだろう? それに俺が信用できる人間かどうか分からないでいる」

 図星のようで体が少し動いた。

「キミのことは東雲さんから大体聞いている。でも俺を信用しろとか一歩進めとか言わない」

 彼は酷く人間に裏切られ続けた結果人間不信になったようだ。仕事については冒険者としての才能があるから護衛をしているようだが人間とのかかわりは必要最低限以外一切しない。

 最初、俺は彼を引き留めるつもりはなかった。クランに入っているのはいいけどそれで彼の人生が変わるかは分からないから彼が嫌ならクランから抜けてもらおうと思っていた。

 でも天明大和くんからは何かしてくれるという直感が今日会って出てきた。

「ダンジョンに行こうぜ」
「……えっ?」



 ダンジョンに行くつもりはなかったが何となく天明くんとダンジョンに行きたくなったからダンジョンに行くことにした。

 それに天明くんも拒否することがなかったから東京ダンジョンに来た。

 輝夜たちも東京ダンジョンにいるが一時間以上経っているから会うことはないだろう。

「天明くんは武器を使わないのか?」
「まあ……はい」

 そのまま東京ダンジョンに来てしまったがそれなら良かった。

「俺に合わせろ」
「えっ……?」

 天明くんの返答を聞く前に俺は走り出す。それにしっかりとついて来いるから良しとしよう。

 もちろん手加減して走っているがLv53だからそれなりに速い。おそらく源三郎さんのところで俺が来る前に一番レベルが高かったのは天明くんなのだろう。

 つまりは昇龍クランは東江家の主力となっているわけか。そりゃそうだ。

「後ろは任せたぞ」

 返事はなかったけどやってくれるだろう。

 モンスターに遭遇すればある程度は片付けるがわざと残しておく。その意図を汲んでか天明くんは残っているモンスターを蹴り殺していく。

「いいぞ、その調子だ」
「は……はいっ」

 俺が基本倒すことになるからドロップアイテムが色々落ちるから拾いつつ先に進む。

「ダンジョンは好きか?」
「……いえ、あまり。……いい思い出がないので」
「前は好きだったのか?」
「まあ……そうですね」
「それはもったいない」
「えっ」

 いい思い出がないことは分かっている。でもそんなことで嫌いになるのはあまりにももったいない。

「好きなものが嫌な奴らのせいで嫌いになるのは腹立たしいだろ」
「……でも、そのことを思い出してしまうので……」
「楽しいことはどんなことがあっても楽しいぞ」
「……それは、新月さんだからじゃ……」
「くはっ、それはどうかな。好きじゃないと言っている割にはさっきよりも生き生きとしているぞ」
「えっ……?」

 ダンジョンに入って天明くんは表情を明るくしていた。それを本人は自覚していないようだが。

「自覚しろ。キミは俺と同じでダンジョンが好きなんだ。だから嫌な思い出を言い訳にするな。自分をさらけ出せ。思いっきり感情を発露しろ。そうじゃないと好きを抑え込むのはもったいないだろ?」

 好きなことをやるのは気持ちがいい。だがそれは人に迷惑をかけないことであって人に迷惑をかける楽しいことはゴミ同然だ。

「……どうすれば、いいんですか?」
「まずは思いっきり叫んでみろ。そうすれば少しはスッキリする」

 俺は好きなことで悩んだことがないからあまり分からないが大声を出せばスッキリはする。でも人のいるところでやれば不審者間違いなし。でもここはダンジョンだから問題なし。

「あ、あああああああああっ、あああああぁっ!」
「そうそう。その調子でモンスターも倒していくぞ」

 天明くんは叫びながら走り始めモンスターを蹴り殺していく。

「はああああああああっ!」

 天明くんだけにやらすのもあれだから俺も参加することにした。気合は入っても彼に合わせて手加減をする。

「どうだ! 少しはスッキリしたか!?」
「はぁ、はぁ……はいっ」

 嫌な思い出はそうそう消えるものではない。でもいい思い出が増えれば増えるだけそれを考えるよりもいい思い出を振り返る時間が増える。

 やっぱりダンジョンはすごいな。何も考えなくてもこうして何となくできた。

「……昇龍クランに入ったら、何をすればいいんですか?」
「いや特に。俺は源三郎さんに誘われて昇龍クランの団長になった。だから団長としての仕事はあまりしないがクランとしての方針もあまりない。源三郎さんが望むクラン活動は多少するがそれ以外は基本自由だ」
「……東江当主はそこら辺緩いですよね」
「自由を尊重してくれているんだろう。自由にやった結果、いいことにつながると思っているんだろうな」
「……それは、分かります」

 冒険者はやっぱり自由にやった方が生き生きできる。でもある程度の制約は必要だけどな。

「……昇龍クランに入ります。クランで冒険者をやらせてください、団長」
「いいぜ。これから存分にダンジョンを、ファンタジーを楽しもうじゃないか」
「はいっ」

 何とか説得ができてよかった。これで説得できなくても彼のためになったのならそれはそれで大切な時間にはなったか。
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