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序章:平穏の終わり

5/31(土):中級ボトル売却

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 お昼を食べ終わって輝夜は仕事に戻って俺は愛理からのメッセージを確認する。

『うるさいジジイからすぐに売ってほしいって言われたよ』
『いつ会えるかな?』
『すぐに連絡欲しいかな』
『学人くん?』
『未読スルーじゃないよね?』
『もしかしてダンジョンに行ってる?』
『学人くん?』
『ねぇ、返事してよ』

 すごく輝夜みたいなことをしているな。可愛いものだ。

 そしてグループのメッセージを確認すれば輝夜にダンジョンに行っていると言われて大人しくなっているわけだ。

『今なら空いているぞ』

 愛理個人にメッセージを送るとすぐに既読になってメッセージが返ってきた。

『それなら今から会える?』
『会えるぞ。愛理の家に行けばいいか?』
『ううん、家の前でいいよ』

 家の前、この輝夜の家の前ってことだよな。

『分かった。待ってるぞ』
『すぐに行くからね!』

 すぐに会うことになったな。それはそれで好都合ではある。

「輝夜、愛理の家に行くことになった」
「分かったわ。私は行けないから早く帰ってきてね」

 輝夜は一生懸命仕事を終わらせようとしている。俺も早く輝夜に退職してほしいから頑張ってほしい。

 迷惑をかけないようにはしているようだがそれでもすぐにぶっちしてほしいところではある。

『ついたよ』

 ソファに座ってスマホをいじっていたから愛理からのメッセージにすぐに気が付いた。

「輝夜、行ってくる」
「いってらっしゃい」

 大き目のカバンを持って家を出て道路に出てみれば見覚えのある車が見えた。

「学人くん! こっちだよ!」

 愛理が車から出てこちらに走り寄ってきた。

「昨日ぶり! 早速家に行こうか!」
「あぁ」

 嬉しそうに俺の腕を引く愛理に連れられて車に乗る。車の扉を閉めたのは愛理のメイドさんだ。

 メイドさんが運転席に乗って車は発進した。

「今回は何を売ってくれるつもりなの?」

 愛理はワクワクとした表情をして聞いてくるが、土魔法と風魔法は変わらないんだよな。

 でも中級も売り出そうとは思っている。

「今回も土魔法と風魔法だぞ」
「あっ、そうなんだ……それがいっぱい手に入るのかな? それでもすごいことだよね」

 倒しやすいモンスターがチンアントとハイピジンだからな。

「今回は初級もあるけど中級もあるぞ」
「……えっ? 中級?」

 もったいぶることはなくそのまま話すことにした。

「あぁ。中級土魔法と中級風魔法もあるぞ」
「……魔法って使い続けたら中級になるんじゃないんだ」
「さぁ、本当に使い続けたら中級になるのかもしれないが俺は中級のボトルを手に入れたぞ」

 ネットでは初級魔法しかないから使い続けることでランクが上がるのではないかと言われているらしい。でもそれが本当かどうかは知らない。

「ち、ちなみに今日はどれくらい持ってきたのかな……?」
「すべて五十ずつだ」
「五十!? ……そんなに手に入ったの……?」
「あぁ」

 単純に考えれば才能アリが二百人に増えるわけだから一大事か。でも余らせているのは面白くないから東江家に売れば面白いことにはなりそうだ。

「……学人くんは習得しているんだよね?」
「してるぞ。それに輝夜も」
「も、もしかして魔法以外のボトルもある……?」
「どうかな。それを教えるにはまだ愛理を信用できないな」

 もう言っているようなものだがいいか。俺がすべて習得して貸力で渡すという方法もあるからな。その場合は少し検証に付き合ってもらう必要があるけど。

「そうだよね……時間をかけないと信用されないか」

 面白そうだと分かれば俺は簡単に信用するけどな。いや俺の場合は信用じゃなくて信用している風に見せてどう反応するかを見るということらしい。輝夜が言っていた。

「愛理は何でも好きなサブステータスが手に入るとしたら何が欲しいんだ?」
「魔法剣士になりたい!」
「魔法剣士か。俺と一緒だな」
「えっ……? 学人くんって魔法剣士だったの?」
「あの時は魔法を使っていなかったが普段は使っているぞ」
「あの強さで魔法なんて使ってたら……もう最強だよね」

 確かに愛理は魔法を使いつつ剣を使っていて魔法剣士のスタイルだった。

 それなら愛理が『魔法剣士なるもの』を使えばそれなりに形になりそうだ。でも俺も魔法剣士を目指しているから俺が習得して愛理に上書きしたものを渡すことになるな。

「てっきり学人くんはゴリゴリ前衛の剣士かと思ってた」
「そんな戦い方をしていたからな」

 さらに五の倍数のレベルアップ報酬の中に『鬼神』が出ていたからこれを習得すればゴリラ剣士の爆誕だ。

 もうパーティを組んでいる時はそれでもいいか? それならどのポジションにでもつける勇者タイプでもいいか。

 愛理とどんなスキルやアビリティが欲しいかという話をしていたがどうやら東江家の豪邸に行くわけではないようだった。

「家じゃないのか?」
「うん。今日は会社の方だよ」
「へぇ。まあ商談なら会社の方が正解か」
「それにジジイが会社にいて何か重要な話があるみたいだよ」

 まあ冒険者に関することだろうな。どんなことを話されるのか楽しみだ。

「ここがそうだよ」
「おぉ……」

 たどり着いたのは高層ビルが立ち並んでいる場所だが一際大きなビルだった。ビルの地下に車は入っていきある位置にまで進むと地面が自動で動き始めた。

「大きな企業だと地下はこうなっているのか?」
「違うよ? これはジジイの趣味」

 止まっている車はどんどんと移動していきエレベーターのような扉の前で移動が終わった。

「ここが秘密の来客とかに使う通路だよ」
「そんな秘密の会合とかがあるんだな」
「今がそうだね。色々とあるらしいよ。……ホントにうざっ」

 そこら辺をうざいと言っている辺りあまり会社に好印象は持っていないのか。

 エレベーターの中に俺と愛理だけで入り最上階に向けて動き始める。

「今愛理は初級風魔法だけを習得しているのか?」
「そうだよ。さすがに一人で二つを使えないよって前までは思っていたけど……たぶんその限りではなくなるよね」

 これからはお金を持っている人が才能アリになる時代か。イヤな時代だな。その根源である俺が言うのは間違っているが。

 それだけ価値のあるものなのだから仕方がないことだよな。

 ピンポンと最上到着の合図とともに扉が開いた。

「よくぞ我が会社に来てくれた! 新月学人くん!」
「うるさっ……」

 エレベーターを出た先はすぐに部屋で東江源三郎さんがソファに座って待っていた。

 隣にいた愛理がげんなりとした表情でそう呟く。

「ガハハハハハッ! まさかこんなにも早く連絡が来るとは思わなかった!」
「どれくらいを想定していたんですか?」
「かなり早くて一月だと思っていたな! だが一週間も経っていないとは!」

 どう入手しているのか分からないから想定もクソもないか。

 源三郎さんが座っているソファのテーブルを挟んだ正面のソファに座る。愛理も俺の隣に座ってくる。

「でだ! そのカバンの中にあれが入っているのか!?」

 愛理と源三郎さん、孫娘と祖父って感じがするな。これを愛理に言えばキレるのかな?

「はい。ここで出してもいいですか?」
「もちろんだとも! 今日も土魔法と風魔法か!?」
「そうです。それぞれ五十本ずつあります」
「おぉ!?」

 カバンに手を突っ込んでアイテムボックスから出しながらカバンから出しているように見せる。

「こっちが初級土魔法五十本。そしてこっちが初級風魔法五十本です」
「おぉ……! こんなにもあるのか! ガハハハハハッ!」

 嬉々としてボトルを持つ源三郎さん。風貌からして悪役にしか見えない。

 ボトルは名前も書かれていないし外見はすべて一緒だから一度混ざれば分からなくなる。俺はアイテムボックスにいれれば分かるけど。

「ここからが少し上のボトルになります」
「上……だと!?」
「中級土魔法と中級風魔法、それぞれ五十本ずつになります」
「なに? 中級魔法のボトルが存在しているのか!?」
「一応言っておきますが初級を使い続けていれば中級に上がるかどうかは分かりません。自分は初級を習得していなくても習得できる中級のボトルを持ってきました」
「それが五十本ずつか! ……少し待て!」

 源三郎さんは備え付けられている電話でどこかにかけているようだ。

「ワシだ! 今すぐに来客室に来てくれ!」

 あの人ってコソコソ話とかできなさそうだな。もうそのイメージはない。

「今から来る従業員に飲ませるが構わないかな!?」
「お金を払ってくれるのなら」

 サービスとかをすればこれの価値が下がるからな。キッチリとお金を払ってもらえればそれでいい。

「もちろんだ! 中級魔法なら大発見ではないか! ガハハハハハッ! 笑いが止まらん!」
「ボトル自体がヤバいですけどね」

 部屋の扉がノックされた。

「参上しました」
「入れ!」

 源三郎さんの言葉で入ってきたのはいかにもできる男風な眼鏡をかけた男性だった。

「うわっ……よりにもよって」

 俺との距離をゼロにして俺の腕でその男性から顔を隠す愛理。

「ちょっとこれを飲んでみろ!」
「はい」

 男性は源三郎さんの元に向かう時に俺と愛理の方にチラリと視線を向けてきた。そして源三郎さんに促されて中級土魔法のボトルを一本飲む男性。

「どうだ!? サブステータスは増えていたか!?」
「確認します……はい。確かに中級土魔法が追加されています」
「おぉ! そうかそうか! ガハハハハハッ! 下がっていいぞ!」
「はい。失礼します」

 男性はすぐに部屋から出て行った。

「ねぇジジイ。私も飲んでいいかな?」
「愛理は一本飲んでいるだろう!」
「だから飲んでいない三つだよ」
「欲張りだな! だがいい! 残り三つも飲んで良し!」

 このおじいちゃんは孫娘にあまあまだな。

「中級魔法はいくらにしようか! 学人くんはいくらが適正だと思っているんだ!?」

 中級魔法は初級魔法五本で一本になるから五億かな。でも実際はドロップアイテムだから初級魔法とは大差ない。

 俺が売っているのはボトル単体だけではなくてダンジョン都市のカギを見つけた運のおすそわけだからな。それに初級魔法五本あったとしても中級魔法にはできない。俺だけしかそれにはできないという価値も考えないといけないわけだ。

「二億で」

 お金なんてあるだけいいが今のところ使い道も決まっていないしこれからもっと売ることになるんだ。少しくらい値引きしておいてもいいだろう。

「二億だと!? 十億くらい取られるものかと思っていたぞ!」

 二億だとしても二百億+初級分の百億で三百億か。十分すぎだろ。

「まあこれからそれなりに持ってくるので破産させるくらいには売りますよ」
「ガハハハハハッ! それは楽しみだ! では気持ち分も上乗せして口座に振り込んでおく!」
「ありがとうございます」
「こちらこそだ! いやいい買い物をした! さすがは東江家の血筋だ!」

 血筋? 運がいいとかそういうことなのか? それなら俺も運がいいから引き合ったのは必然ということか? 少し言い過ぎか。

「そう言えば前回売ったボトルはもう使用したんですか?」
「それはもちろんだ! あれをすぐに使わない道理がないからな! そしてそれに関係する話を今からするぞ!」
「はい?」
「無月株式会社が支援するクランの団長をする気はないか!?」
「はい?」
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