月額ダンジョン~才能ナシからの最強~

山椒

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序章:平穏の終わり

5/29(木):パーティ作成

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「あぁっ……」

 満ち足りた約二時間を過ごしてしまった。今のところダンジョン都市で一番面白い相手だった。

 チンアントやハイピジンほどではなかったが二時間ではかなり倒せた方だとは思う。二百体くらいは倒したか。

 初級火魔法は51、中級火魔法は42、虫特効は22、魔弾は11、属性付与は9、魔力譲渡は8、パーティ作成は4手に入ったわけだ。

 虫特効がまた出てきた。次のエリアも虫ということか。これは次からはいらないな。俺が気になっているのは魔力譲渡とパーティ作成だ。

『魔力譲渡
 分類:アビリティ
 ランク:5
 他者に魔力を譲渡する』
「おぉ……!」

 文字通りではあるがこれで輝夜がMPを使い切ったとしても俺が渡すことができるということだ。俺はMPをゼロまで使わないから譲渡できるのは良い。

『パーティ作成
 分類:アビリティ
 ランク:1
 このアビリティを持っている者同士でパーティを組むことができる。パーティメンバーのステータスを見ることができる。
 パーティによるEXP配分は均等に割り振られる』
「いよいよゲームみたいになってきたな……だけど面白い!」

 パーティ作成ができるようになってEXPを配分されるようになれば俺が倒したモンスターのEXPが輝夜に行くことになるわけだ。

 ……だが待て。EXP超ブーストはどうなるんだ? 得られるEXPというのはどこなんだ? ステータスにEXPが入る時? モンスターを倒してEXPが出てきた時? それは要検証だな。

「だが……!」

 どうあっても輝夜のレベルを上げるのに役に立つことに間違いはない。

 火魔法も集めたいところだが今日はここまでだ。家のことをして今日も輝夜を迎えに行こう。



 輝夜を迎えに行くのはこれで三回目だが異常なステータスを駆使してすでに東京全土を立体地図で埋めることができた。

 今度は周りの県から攻めて行こうかなと思いつつちょうどいい時間で輝夜の会社の前にたどり着く。

 昨日行った時はあの男は付きまとってはいなかった。でも本当に輝夜のストレスならお灸をすえなければならないと思っているところだ。

 どれだけ輝夜と一緒にいたか、輝夜と俺がどれだけ相性がいいかを説明しないとな。ただの一途が超えられない壁というものを見せつけなければならない。

「また一緒にいるな」

 スーツ姿で悠然と歩く輝夜の横で必死に話しかけている一昨日見た男がいた。

「あれだけ拒否されていたのに懲りない奴だ」

 面白いとは思うが輝夜に付きまとうのは面白くない。あれが別の独身女性なら面白いと思えるのだがそうではないからな。

「学人」
「お疲れ輝夜」

 付きまとわれても気にしない輝夜が俺の前に来た。

「聞いてください月見里先輩! どうして会社を辞めるんですか!?」
「もう退職届を出したのか?」
「えぇ。一ヶ月後にやめることになったわ」

 男の言葉で輝夜が退職届を出したことを知った。輝夜としてはこうして知られるはずではなかったのだろうな。

「まさか冒険者になるなんて言わないですよね!? そんなこと危険すぎますよ!」

 いい加減に鬱陶しいという顔をしている輝夜。だけど輝夜のその表情を理解できるわけがないのだ。

「彼氏の俺を差し置いて彼女を口説くとはいい度胸をしているな」

 輝夜と男の間に立ってそう言う。男は俺を睨みつけてくる。

「あんた……! あんたのせいで月見里先輩が危険な冒険者になろうとしているんだぞ! あんたと一緒じゃ月見里先輩が危険だ!」
「他人のお前には関係ない話だろ。何より冒険者は危険な場所にロマンを見つけに行く生き物だろ。危険で何が悪い」
「お前! 月見里先輩の恋人だろ!? 何でそんな危険な場所に行かせるんだよ!」
「行かせるんじゃなくて一緒に行くんだよ」
「あんたは冒険者として雑魚なんだから月見里先輩一人と一緒だろ!」
「おいおい、ひどい言われようだな。それに俺が雑魚だと何で言い切っているんだ?」
「あんたが才能ナシの末路だろ! そんな奴と月見里先輩が一緒にいたら月見里先輩が不幸になるに決まっているだろ!」

 おいおい、俺すごく有名なのか? 照れるな。

「一つ言っておくぞ。どれだけお前が輝夜のことを想おうと無意味だ。輝夜の人生は俺が貰っているんだ。そこでどういう人生を送ろうがお前にはどうしようもないことだ。お前には輝夜の人生に影響を与える権利など一寸もない」
「……ッ! なら俺も冒険者になる!」
「何を言っているんだ?」
「俺も冒険者になって月見里先輩を守る!」
「いやそれはストーカーだし気持ち悪いぞ」
「ひっ……!」

 まさかのストーカー発言に輝夜は俺の背中にピッタリとくっ付いてきた。

「俺の人生は俺だけの物なんだから俺がどうしようが勝手だろ!」
「いや他人に迷惑をかけるなよ。それは精神的な強姦と一緒だぞ」

 こいつぶっ飛びすぎだろ。まさかこんな面倒な奴に絡まれているとは思わなかった。

 もうこいつがいる会社に輝夜を笑顔で送り届けることができないんだけど。ちょっと証拠が欲しくなったから輝夜にコッソリと録音と伝えるとすぐにスマホを起動して録画する音が聞こえてきた。

「それなら月見里先輩をやめさせるな!」
「脅しだって分かっているか? お前は今無理やり人生に食い込んで来ようとしているんだぞ?」
「ハッ! それなら人生に影響を与えることができたな! もうお前が言っていることは通じないな!」
「いやもう輝夜を連れて逃げるレベルだぞ。分かっているか?」
「絶対に見つけるから意味ないな!」

 面白いと思っていた俺を殴りたい。こいつは面白いじゃなくてそういう枠組みでは測れないだな。てかダンジョンなら手足潰して二度と動けないようにしているところなんだが。

「もういいわよ。行きましょう」
「そうだな」

 証拠はとれたようだから俺と輝夜は帰宅することにした。

 もう尾行されそうな気がするからすぐに転移を使って輝夜の家に帰る。

「……ちょっとこうさせて」
「あぁ、いつまでもしていいぞ」

 すぐに俺に抱き着いてくる輝夜に抱きしめ返して落ち着かせる。

 それにしてもあんな熱狂的な奴はいたしあんなことを言う奴はいつでもいた。輝夜はそれくらい人気がある女だからな。

 だけどあの男は同じことをしていても狂気が違った。あれはサイコパスな部類だろうな。

「もう会社に行かないでくれ、輝夜」
「……もう行かないわ。これを会社に送ってリモートで引き継ぎができるようにするわ」

 ホントに録音しておいて良かったぁ。でもこれで輝夜が冒険者になるまでの時間が短縮できたとポジティブに考えるべきだな。

 輝夜は俺の体に足を回して離れようとしない。

「靴は脱げるか?」
「……えぇ」

 靴は脱いでもらってリビングに向かって輝夜をそのままにしてソファに座る。

 三十分ほどずっとそうしていると落ち着いたみたいで顔を上げる輝夜。

「落ち着いたか?」
「えぇ、落ち着いたわ。よく考えればあんな男に感情を振り回されるのも腹が立つわ」
「まあ怖いものは怖いからな。俺も少しだけヤバさは感じたし」
「ダンジョンの中で会ったらぶっ飛ばすわ」

 あの男を打倒するつもりの輝夜。これは強がりでもなく気持ちの整理がついたということらしい。

「あの男が近づいてきたら俺が処理するから気にするな」
「学人のスキルを借りて早急にレベル上げをするわ」
「あっ、そう言えば新しいアビリティが増えたんだけどきっと今の状況に役に立つぞ」
「次のモンスター、ゴブリンのドロップアイテムということよね?」
「そうだ」

 アイテムボックスからパーティ作成のボトルを取り出した。

「パーティ作成のボトルだ」
「パーティ……作成!? それってパーティが組めるってこと!?」
「そうだ。しかもモンスターを倒したらEXP配分があるらしいからレベル上げが効率的にできるようになったぞ」
「……本当に学人はタイミングがいいわよね。タイミングが良くて運もいい。それが学人の一番の武器よね」
「それは分かる」

 俺はいつだってタイミングがかなりいいんだ。だから色々と楽しく人生を送れている。

「飲むわね」
「あぁ、俺も飲む」

 俺と輝夜は同時にパーティ作成のボトルを飲み干した。

「……どうやってやるのかしら?」
「さぁな。こういう時は念じれば行けるだろ」

 何となく念じてみればパーティ作成の表示が出てきた。

『パーティ作成しますか? YES/NO』

 YESを選択する。

『近くにいる月見里輝夜を招待しますか? YES/NO』

 YESをまた選択する。

「あっ、出てきたわ。新月学人がパーティに誘っています、参加しますか。YES」

 輝夜がパーティに参加したことで輝夜のステータスが見えるようになった。

『月見里輝夜
 Lv13
 HP(37/37)
 MP(73/73)
 ATK:15
 DEF:19
 AGI:22
 DEX:30
 RES:29
 LUK:3
 EXP(21/10598)
 スキル
 アビリティ
 詠唱/感知/パーティ作成
 魔法
 初級水魔法/中級水魔法/初級土魔法/中級土魔法/初級風魔法/中級風魔法』

 輝夜のステータスは典型的な後衛向きなステータスだ。それにしても俺と輝夜はそれぞれが望んだ職業のステータスの上がり方をしている。これは何か因果関係があるものなのか。

「輝夜のLUKは3なのか……」

 LUKは個人が持っているものだと思うが今までの俺のタイミングの良さが反映されているのかもしれない。

「私のステータスにLUKがあるの?」
「あぁ、あるぞ。俺のところにはないか?」
「いいえ、私には見えないわ」
「それならシステム解放されているものしか見えないのかもしれないな」
「そうね……それにしても学人は凄まじいステータスね」
「頑張っているからな。でも輝夜もレベルが上がればこれくらいになるだろ」

 俺のステータスは異様な上がり方はしていなかったはず。まあ個人差があるかもしれないが。

「えぇ。頑張るわ」
「何なら明日精神を病んだって言ってダンジョンに行くか?」
「……いいわね。もうお金があるのだから自由にするわ」
「よし、なら明日行くか」
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