上 下
2 / 3

02:第一強制クエスト。

しおりを挟む
 県をいくつもまたいでこの場所にいるが、それを『空歩』を使って一歩で俺が通っている高校の上までたどり着いた。

 空から高校のことを観察して、まだ四十分ほどでは騒ぎが沈静しないのは経験している。

 騒ぎに乗じて教室から出ている生徒、教室で冷静に分析している生徒、スマホで世界の状況を確認している生徒、他人のステータスを確認して自身のステータスを自慢している生徒など、もうカオスだ。

 だからバレないように人がいない場所に移動して紛れれば、もれなく教室から抜け出した暴徒と認識される。

「あっ、創次そうじ! 探したわよ!」

 流れに任せて義姉さんがいるであろう方に歩いていると、前から声がしてきた。

 声をかけてきた女子生徒は、長い黒髪を揺らしながら少し怒った雰囲気を纏っている。

「もう! スマホに連絡しても出ないし、こんな時に何してたのよ!?」
「いや、授業中はスマホの電源を切ってるから」
「授業に出ずにここにいるアンタは何してんのって言ってんのよ!」
「トイレに行ってた」
「こんな時なんだから、連絡くらい入れなさいよ!」
「うん、ごめん」
「分かればいいのよ……もう」

 キスしそうな距離で怒鳴ってきた女子生徒、宵月よいづき彩加あやかは、俺が素直に謝ったら俺を抱きしめて頭を撫でてきた。

「心配したんだから……」
「ごめんね? 彩加義姉さん」

 文字通り、彩加義姉さんと俺は血のつながりはない。俺は宵月家に引き取られた居候の身だ。

 最初のころは義姉さんたちが心配しないようにしていたが、それだと俺が報酬激やばのダンジョンに行けなくなるから出会う前に行くようにしている。

 そして〝たち〟ということは、彩加義姉さんだけではないということで。

「創くーん!」

 後ろからの衝撃に、彩加義姉さんが前から抱き着いているから前に逃げすことはできずに受け止めた。

「あれ? ……何だか創くんたくましくなった?」
「数時間しか経ってないのにそんなことないよ?」

 それだけで分かるとは、さすがは義姉さん。

「それよりも創くんはどこに行っていたの? 私はもう心配して心配して辛かったんだからぁ! 本当は創くんから一秒たりとも離れたくないのにどうして私のところに来てくれなかったの? 私と一緒にいた時間をすべて教えて? トイレに行っていたんだよね? どれくらいトイレに入っていたのかどれくらい手を洗っていたのかも教えて? それに授業で何を教えてもらったのかも教えてくれた方が復習になるよね? もう創くんにはGPSをつけておかないと心配で仕方がないよ。どうせだから手錠をつけてカギを壊して物理的に離れられないようにしようか」

 後ろから抱き着いている、長い茶髪が波打っているふわふわとしているはずの雰囲気でヤバいことを言っている女子生徒、宵月依怜えれん義姉さんの言葉を受け止める。

「うん、ごめんね。これからはずっと一緒にいようか」
「本当!? それなら結婚してくれる!?」
「うん、結婚しようか」

 俺の言葉で後ろにいる依怜義姉さんと前にいる彩加義姉さんの息が止まった気がした。

「……は? あ、あんた何言ってんの?」
「だから結婚しようって言ったけど? もちろん彩加義姉さんも一緒に結婚しようか」

 いきなりいつも自分では不釣り合いだと言って好意を避けていた義弟がこんなことを言い出したんだ、こうなるだろうな。

「……創、くん? 何が、あったの……?」
「アンタ、本当に創次……?」

 二人が俺から放れて俺の顔をまじまじと見てくる。

 そんな彩加義姉さんと依怜義姉さんを真っすぐと見つめ直して口を開く。

「俺は、俺だよ」

 こんな大人びた表情をしている十六歳はいないだろうが、言葉よりもこの表情を見てほしかった。

 もう何回も、何十回も、何百回も、彩加義姉さんと依怜義姉さんを守れなかった俺の表情はどんな顔をしているのだろうか。

 悲しみ? 怒り? 絶望? それとも決意を秘めた顔? それは二人にしか分からない。

「うん、創くんだ。何があったのかは分からないけど、創くんだね? 彩ちゃん」
「そんなこと言われなくても最初から分かっていたわよ」
「ホント~? 本当に創次って言っていたのはどこの誰だっけ?」
「そんなこと忘れたわよ」

 とりあえず少し変化した俺を受け入れてくれたことは良かった。というかこれが確定事項だということは経験している。

「それよりも創くん!」
「なに?」
「いつ学校をやめる!? 中卒でも働けるところを探して――」
「学校をやめるなんて母さんに迷惑がかかるわよ。それくらい我慢すればいいじゃない」
「なら彩ちゃんは一年間創くんと会わないことができるの?」
「一年は無理よ」
「それと一緒だよ!」
「一緒じゃないでしょ! たかだか数時間程度でしょ!? それくらい我慢しなさいよ!」
「私にとっては一年と一緒なの!」
「そんな議論はしなくてもいいよ。どうせ世界は破綻するんだから」

 俺のその言葉に、彩加義姉さんと依怜義姉さんはお互いに顔を見合わせてから俺の顔を見た。

「創次、厨二病にしては遅いわよ?」
「創くん、お姉ちゃんはそんな創くんでも大好きだからね」
「違うから。というかもうすでにリアルじゃないことが起きているでしょ?」
「あー、このステータス? ゲームみたいよね」
「そうそう、これを見て創くんが好きそうだなぁって思ったね」
「彩加義姉さんと依怜義姉さんはどれくらいこの状況を把握してる?」

 まだ強制クエストまで時間があるから、義姉さんたちとこの話題で時間を潰すことにする。

 答えてくれたのは彩加義姉さんだった。まあ依怜義姉さんは俺を探すことに夢中になって把握していないから答えられないんだけどね。

「確か、世界中の人たちがこのステータスを手に入れているんだっけ?」
「そうだよ」
「それからステータスの値はみんなバラバラ」
「素の身体能力もステータス値に反映されているってことだね」
「スキルがある人とない人がいるみたい」
「それは本当に生まれ持った才能だと思う。二人は何か持ってる?」

 聞き耳を立てている奴がいるから、『防音』を使って義姉さんたちのスキルがバレないようにする。

「私は『剣聖』ってスキルを持っていたわよ」
「私は『ヒーリングサークル』だったよ」

 ふむ、今回の義姉さんたちはこのスキルを持っているのか。

 まあなんであろうとも二人はかなり強いスキルを持っていることに変わりはないんだが。

「そういう創次は何か持ってたの?」
「持ってるよ。でも今は教えない」
「は? 姉に隠し事をするとは何事よ!」

 俺の言葉をきっかけに彩加義姉さんが俺にヘッドロックをかましてきたが、俺は痛くもかゆくもないから彩加義姉さんの大きな胸を堪能しておく。

「彩加義姉さん、今は教えないだけで後から教えるよ」
「何で今教えないのよ」
「それを説明しようとすると時間がないからだよ」
「どういう――」

 彩加義姉さんの言葉は、一部を除いた世界中の人たちの脳内の通知を知らせる音によって中断させられた。

 丁度いい時間だな。

『強制クエスト発生』
『これより全プレイヤー参加による強制クエストを開始する』
『プレイヤーの不参加は認められず、ただちに準備せよ』

 この通知を見た周りがざわついている。俺にヘッドロックしていた彩加義姉さんも、それをヤバい目で見ていた依怜義姉さんも、同じく困惑した顔をしていた。

「これが、創くんが言った時間がない理由?」
「そうだよ。とりあえず今は学校から出よう」

 義姉さんたちの手を引き、学校から出ようとするが、人が少し多くて抜け出すのに時間がかかると思ったから、廊下の窓を開けた。

「えっ……創次?」
「ま、まさか……?」
「そのまさかだよ。でも飛び降りるわけじゃないから心配しないで」

 やろうとしていることが分かった彩加義姉さんと依怜義姉さんの腰に腕を回して窓から飛んだ。

 今の階は三階だが、俺は『空歩』を使って空を階段を下りるようにして校舎外へと降り立った。

「ビックリしたぁ……創次! いきなりしてきたら驚くでしょ!」
「今のが創くんのスキル? 素敵なスキル!」
「その説明は後でするから、今は目の前の強制クエストだよ」

 俺にとっては朝飯前のことだが、ステータスを手に入れたばかりの丸腰の人では少し荷が重い強制クエストだ。

『強制クエスト:モンスターを十体討伐せよ
 クリア条件:制限時間以内にモンスターを十体討伐
 クリア報酬:ランク2のランダムアイテム
 クエストを失敗した場合:プレイヤーのステータス値合計-30、プレイヤー一人につきモンスター十体出現』
『クエスト制限時間:一日』

 まあ、最初は固定の強制クエストだからそうなるよな。

 でも俺がどうして人が密集していない場所から離れたか、それは混乱に巻き込まれたくないから。

「えっ? も、モンスターってゲームとかに出てくるモンスター!?」
「そうだよ」
「……どうしよう、私倒せないよ?」
「安心して、それは考えてあるから」

 焦っている彩加義姉さんと依怜義姉さんの手を引いて走って校舎から出たところで、文字が現れた。

『強制クエスト開始』

 その瞬間、世界中に大量のモンスターが溢れかえり、俺たちの目の前にもファンタジーでは定番のスライム、ゴブリン、オーク、アンデッド、魔獣が現れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

処理中です...