全能で楽しく公爵家!!

山椒

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都市開発本格始動

106:グレゴリーの変化。

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 何か話す前に俺とヘルが買って来たみんなで食べる用のお土産をテーブルの上に広げる。

 不自然に思われないように幻覚魔法をかけているから、買っている時も何ら不自然に思われていない。

「はい、アリスのために買ってきたけどみんなで食べて?」
「ありがとう」
「……いいの? こんなに量があるし、高そうなお菓子もあるわよ」
「いいよ。早く自分の分をとっておかないと食べられるよ」

 アヤとは違いアリスは遠慮などせずに食べていた。

「この秘密基地のリーダーは俺だからな。下っ端のものはすべて俺のものだ」
「は? そんな口を利くアンタは食べなくていいわよ。素直にお礼も言えないの?」
「別にそんなことを気にしなくてもいいよ。僕が勝手にやったことだから」
「ハァ、何で私の幼馴染はヒルくんじゃなかったんだろ……」

 心底そう思っているアヤに少しだけ同情するけど、この年頃の男の子はこういうものだろ。

「お、おい、そんな心の底から思っているみたいに言うなよ……」
「何言ってるの? そんなわけないじゃない」
「そ、そうだよな!」
「魂の底から思ってるのよ」

 ニッコリとしてそう言い放つアヤに絶望した顔を見せるグレゴリー。

 ……まあ、人には相性があるからな。アヤとグレゴリーがあまり合わないだけだろ。グレゴリーはアヤのことが好きそうだけど。

「まあ、これから直せば――」
「ヒルくん、そんな奴に声をかけなくていいわよ。ほら、一緒に食べましょう」

 俺が発端だからグレゴリーを慰めようとしたけど、アヤに止められた。

「ん~! このお菓子美味しいわね! お高いところのよね?」
「そうかな? あまり分かんないかな」

 アヤが美味しそうに食べており、こういう時に素直に高いと言っても遠慮するかもしれないから誤魔化しておく。

 ただ平民がホイホイ食べれるものではないことは確かだ。

「わ、悪かった。俺も食べたい。俺にも分けてくれ」

 主にアリスとアヤが食べて、ヘルにアヤが食べさせていたが、そこにグレゴリーが謝ってきた。

「最初からその態度でいればいいのよ。でもヒルくんが決めることだから」
「うん、僕はいいよ。三人のために用意してきたから」
「……あ、ありがとう」
「素直に言えて偉いわねー」
「あ、頭を撫でるな!」

 こうしてアヤとグレゴリーを見ると、姉と弟を見ているようだ。でもグレゴリーはそのつもりはないっぽい。

「……美味しい」
「良かった! 買ってきた甲斐があった!」
「フン!」

 パクパクと美味しそうに食べているグレゴリーだが、まだ俺に気を許したわけではなさそうだ。

 これで餌付けできるのはアリスくらいだし、ベッドですでに取り込んでいるアヤも別だ。

「少し見て回ってもいいかな?」
「あぁいいぞ! ヘルならいくらでもここにいてもいいからな!」

 さっきとは打って変わって意気揚々とヘルに応えるグレゴリー。

 許可をもらったヘルは秘密基地の中を見て回る。一見すれば興味深そうに見て回っているが、この秘密基地の全貌を分かっている動きだな、あれ。

 俺も少しだけお土産を食べながら、ふとグレゴリーが開いていた本に視線が向かった。

「あれ、これ僕があげた『叛逆の英雄』のマンガだね」

 俺があげたマンガと字を学ぶ本が置かれていた。

「み、見てんじゃねぇよ!」

 すごく恥ずかしそうにして体で本を隠すグレゴリー。

「僕があげたマンガ、喜んでくれたんだね」
「よ、喜んでねぇし! た、ただ少しだけ興味があっただけだし!」
「そんなこと言って、文字が読めなくて勉強しているじゃない」
「うぐっ……!」

 アヤにつっこまれて図星のグレゴリー。

 そうか、この世界は貴族が字を読めるのは当たり前のことだが、平民の識字率は低いのか。

 それでグレゴリーは勉強しているわけだが、マンガだから全く分からないわけではないけど何をしているのか気になって勉強しているということか。

 識字率、というかそういう教育制度は全く導入されていないから平民がマンガを読んでもあまり分からないという状況に陥るのか。

 ……文字や簡単な計算をできていた方が社会は回りそうだから、それも考えよ。

「勉強できているの?」
「お前よりはできているぞ」

 このお子さま、自分の知能を高く見積もりすぎだな。

「へぇ、それならこれは何て読むの?」

 マンガを開いてグレゴリーにそう聞く。俺が指した文字は『馬鹿』だ。

「うぇ!? う、うーん……うーん……えぇ……?」

 かなり悩んでいるけど全く分かっていない顔のグレゴリー。

「お、お前は分かるのかよ!」
「バカ」
「なんだと!?」

 いやそんなべたな反応をしなくていいから。

「バカって言う字なんだよ、これ」
「あっ、そうなのか……」
「そうだよ。何なら僕に聞いてきてもいいよ?」
「言ったな! それなら――」

 次々とグレゴリーから問題を出されるが、俺は難なく答えてグレゴリーは撃沈した。

「う、ウソだろ……?」
「すごいわね、ヒルくんは」
「すごい」
「えへへ、ありがとう!」

 アヤとアリスに称賛されて嬉しそうにするが、こんなことで褒められても嬉しくはない。

 ただ、グレゴリーみたいにマンガで文字を覚えようとするのはいいなと思った。
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