全能で楽しく公爵家!!

山椒

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都市開発本格始動

099:静粛さんと取引。

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 静粛さんが入っている部屋のカギをポケットから取り出した。

「開けるよ」
「はい、いつでも」

 今まで静粛さんの様子を見ていなかったから、人間が監禁されてどうなっているのか少し気になりつつもカギの先端を壁に向けると、壁に扉が出てきた。

「入り口を色々なところに出せるとは。便利な魔道具ですね」
「空間魔法の一種だね」
「空間魔法は生物を入れることはできません。何より、この魔道具を展開していても魔力の消費がありませんよね?」
「うん、入り口を出す時しか必要としてないよ」
「とんでもない魔道具です。たとえこの大地が粉々になっても、生きていられるのですから」

 普通に考えたらそうか。いや待て、これを使えば異空間に色々な物を作って、そこに招待するみたいな感じで商売ができるんじゃないか? 考えとこ。

 兎にも角にも、ドアノブの下についている鍵穴にカギを入れ、開錠した。

「私が前に」
「そんなに警戒することはないと思うよ?」
「念のためです」

 ベラを先頭に、部屋へと入る。

 部屋は1LDKで、特に苦労なく、というか普通に現代的な部屋にしているから精神的な負担はないはずだ。

「……変わった部屋ですね」
「適当に作ったからね」

 ベラが不思議そうに少し視線を移したが、すぐに進行方向に視線を戻した。

「あっちにいると思う」
「はい」

 俺の指示でベラが進んでいき、リビングに入る。

「ぷはっ! これ何回見てもおもしろいな!」

 ソファでゴロゴロとしながらマンガを見ている黒のショートヘアに鋭い目つきだったはずの静粛さんの姿があった。

 しかもリビングに入ってきたのにまるでこちらに気が付いていない。

「えっ……?」

 それにはベラも困惑している様子だったが、ベラは静粛さんの方に近づいて行く。

「静粛、随分と楽しそうね」
「うおぉっ!? 何だ来たのか!?」
「あなた、今自分が捕らえられていると分かっているのかしら?」
「だから大人しくここにいるんじゃないかぁ……ぷはっ!」

 静粛さんの態度にベラが怒りのオーラを発しているのが、背中からでも分かる。

「随分と楽しんでいるようで何よりです、静粛さん」
「おぉ、ガキか。ここはいいところだな! 最初は出口も窓もない場所に飛ばされて上等だと思ったけど、食料も水も酒もマンガ、それにお湯が出る水浴び場があって謎のトイレもある。ここは天国だな!」

 すごく楽しそうで何よりだ。ていうかこいつ俺よりもダラダラとした生活をしていないか? 普通に腹が立つんだけど。

「満足しているのなら何よりです。どうですか? 僕についてくれますか?」
「えぇー……俺、もうここから出たくないし働きたくないんだが」

 あぁ、こいつはもうダメだ。もう暗殺者ではなくニートに変わり果てている。

 くそっ、ニートってこんなにも高貴な感じなのか? 最底辺だと思っていたのに、こんなにも堕落している生活が許されるなんてとんでもない地位じゃないか!

「許されるわけがないわ、そんなこと」

 とてつもなく冷たい声色で静粛さんに声をかけるベラ。

「こんな生活を知って暗殺稼業なんて続けれるわけがないだろー」
「アーサーさま、すぐにでもこいつを始末するか野に解き放ちましょう。そうした方が精神的に楽です」
「うーん……」

 ここまでして働かないからポイは違うと思うが、ベラが思っていることは普通に分かる。

「静粛さん、ここの暮らしを続けたいですか?」
「それはもちろんだ。でも働きたくはない」
「妥協してください。働くか、ここから出て行くか。まあこの暮らしを知った静粛さんがここから出て行けるとは思いませんけど」
「うっ……それはそうだけど……働きたくないんだよなぁ」

 この短時間でここまで人は堕落することができるのか。

 俺は前世で堕落している生活を一時続けたことがあるけど、何だか罪悪感があって長くは続かなかった記憶がある。

「安心してください、ずっと働いているわけではありませんから。ボクが知りたいことがあれば教えてもらったり、調べてもらったりしてもらいますが、そこまで呼び出しが多いわけではありません。それにその都度報酬は出します。この暮らしは仕事がなくても提供し続けます。どうですか?」
「……その報酬はなんだ?」
「マンガが良ければ僕が特別にかきましょう。他にも娯楽が必要なら僕が出しましょう。食に不満があるのなら改善します。何か報酬の要望はありますか?」
「……いや、たぶんガキが選んだ方が俺は嬉しいと思う」
「ガキ、ではなくアーサーです」
「あぁ、分かった。アーサーと呼ぶ」
「アーサーさまよ、静粛」
「いいじゃないか、どうせ雇われているわけではないし対等な関係なんだから」
「そんなわけがないわ、あなたはもう少しこの暮らしを無償で与えてくださっているアーサーさまのことを敬いなさい」
「まあそれを言われると弱いな……分かったよ、アーサーさまって呼ぶ。でも敬語はしないぞ。そんなことはできないし」
「それは大丈夫ですよ」

 呼び方はアーサーでも良かったのだが、それを言ったらベラが納得しないだろうと思ってそこは黙っておくことにした。

「それで、引き受けてくれますか?」
「あぁ、この生活はとても満足しているし仕事をしてくれたらちゃんとした報酬をくれるんだから、断れない」

 さっきまでは働きたくないって言っていたのに、現金な女性だ。

「少しお待ちください、アーサーさま」

 だがそれに待ったをかけるのがベラだった。

「なに?」
「それが上手く仕事ができるとは思いません」
「は? 凶神なら静粛の俺のことを分かっているだろ。上手くやるに決まっている」
「あなた、今自分がどういう状態か分かっているの?」
「どういう状態って、無職の暗殺者だろ」
「そういうことを言っているんじゃなくて、あなたのその贅肉はなに?」
「ぜいにく?」

 ベラに言われて静粛さんはお腹をぷにっとしたことで、自身が太っていることに気が付いたようだった。

 俺もベラも最初から気が付いていたが、俺は女性にそう言うことを言わない方がいいと思って見て見ぬふりをしていたが、ベラは言い放った。

「な、なんだこれ……!?」
「今気が付いたの? その状態で仕事ができると思っているのかしら?」
「こ、こんなもの運動すればすぐだ! だからアーサーさま心配しないでくれ!」
「僕は心配していないですけど……」
「その贅肉を落としてから仕事を受けることね。そうじゃなければ私が削ぎ落してあげる」
「い、いやいや! この状態でも俺が動ければいいだけの話だろ? それなら楽勝だ!」
「部屋で引きこもっている人間が、いざという時に動けれるわけがないでしょ」

 至極真っ当な意見を静粛さんに突き刺すベラ。

「それとも、仕事を受ける前に痩せるための時間をくださいと言うつもり?」
「うっ……分かったよ、ちゃんと痩せるから。でも俺はここに閉じ込められているんだろ? 外に出ていいのか?」
「カギは開けておきます。いつでも出れるようにしておきますが、座標を設定するか誰かの近くに出るかを選択できるんですけど……」
「それなら私の近くでお願いします。その方が私が動きやすくなりますから」
「俺、信用されてないなぁ」
「信用なんてするわけがないでしょ。でもアーサーさまが言うから、あなたを敵として認識していないだけの話よ」
「へいへい、分かったよ」

 静粛さんに関しては、ベラがいた方が円滑に話が進めれるな。

 でも、何はともあれ、俺の意思で動ける人間が一人確保できたから良しとしよう。

「あー、外に出たくないなぁ」

 ……不安は残るし、その贅肉をはたきたくなるが。
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