全能で楽しく公爵家!!

山椒

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王都でも渦中

082:イチャイチャ。

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 長い茶髪を肩くらいの桃色の髪にして、三十代くらいの女性に変化したクレアさん改めサクラ。

 俺はサクラに合わせて三十代くらいにしてヒルをベースに老けさせて似ているけど兄弟かと思うくらいに違う顔立ちにしたアーサー改めヒール。

「行きたいところはあるか?」
「そうね……」

 俺とサクラは一般的な夫婦という設定で、お互いに話しかける感じもいつもと違うようになっている。

 王都デートと言っても、俺は特に王都に詳しいわけではないから、一応サクラに行きたいところを聞いてみる。

「行きたいところが思いつかないのなら、俺がエスコートするぞ」
「それもいいけれど……わがままを言ってもいいかしら?」
「あぁ、もちろん。キミのわがままなら何でも聞く」

 まあサクラがわがままを言うとしても、それほど大したものではないだろうと思ってしまう。

「王都の外に出て魔物を倒したいわ!」
「えっ」

 まさか王都デートではなくお外デートを言われるとは思わなかった。しかも魔物を倒したいって。

「えっ、そんなことをしたいのか?」

 まあでも俺も魔物を倒してみたいと思っていたから理解できないわけではない。

「ヒールに私がどれだけ強くなったのか、見てもらいたいの」
「あぁ、そういう……」

 良かった、クレアさんが戦闘狂に目覚めたのかと思った。

 でもどれだけ強くなったのかはステータスを見て分かるし、それをしたら見ているベラが来そうだからさすがにやめておこう。

「それはまた次の機会にしよう」
「……何でも聞くって言ったのに」

 三十代がやっていれば少しきついと思うが、実年齢が七歳のクレアさんががふくれっ面をしていると思えば可愛いとしか思えない。

「すまない、だが二人だと危ないからまた今度だ」
「……今度っていつになるの? あなたって仕事が多くて全然会えないじゃない!」

 えっ、なに? この人クレアさんじゃない誰かが化けてる? ベラ?

 変身する前にこういう設定でするからなり切ってくださいとは言ったけど、まさかここまで気合が入っているとは思わなかった。

「い、いや……最近は少し忙しくてな……」

 まあこの際だ、サクラに付き合うか。

「あなたっていつもそう言ってばかりじゃない!」

 キッと俺のことを睨んでくるサクラ。

「お、落ち着けって」
「……もしかして、浮気しているの?」
「そ、そんなわけないだろ! 俺が愛しているのはサクラだけだ」
「ウソばっかり! あなたって女の子にモテるじゃない!」
「それとこれとは違うだろ。モテても俺が愛しているのはサクラだけだ」
「どうだか。他の女にも言っているんじゃない? 若い女の子に近寄られて手を出したんじゃないの?」

 これは演技をしているのか、それとも普段から俺に思っていることを言っているのか、どっちなんだろうか。後者だろうな、この感じは。

 いつ会えるのか聞くのも、お互いに領地に戻れば会う機会も少なくなるし、俺は他にも公爵家の婚約者がいるからということだろうか。

「信じてくれ、俺が愛しているのはサクラだけだ」

 もう言葉では納得してくれないと思い、サクラの後ろに移動してあすなろ抱きをして耳元でそう囁いた。

「ひゃ……きゅ、急にそんなことをしないでください……!」
「何で敬語なんだ?」
「……意地悪」

 あすなろ抱きをされて、さっきまでの威勢は消え顔を真っ赤にしているサクラ。

「どうしたら信じてくれるんだ?」

 前世の俺では考えられないくらいに恥ずかしいことをしている自覚はしている。

 だってあすなろ抱きからの耳元で囁いているんだぞ? 吐息込みで。

 ほぼ全能ではこういうことも平気で、しかも気持ち悪くないようにできるということだ。本当にすごいと思う、このほぼ全能。

 こういうお茶目な時に役に立つのだから。それ以外は役に立ってほしくないけど。

「……ぎゅっとして」
「ん」

 耳まで真っ赤にしているサクラのお望み通り、サクラが丁度いいと思う強さで力を入れる。

 サクラの息が荒くなっているのが分かる。それに色っぽい目で俺のことを横目で見てくる。

「アーサーさま、戻りませんか? アーサーさまの姿で、接したいです」
「でも王都デートをするためにはこの姿でいないといけませんよ?」
「この部屋で、お話するだけで十分です。だから……」
「はい、仰せのままに」

 懇願するサクラに、俺とサクラはアーサーとクレアさんに戻って指輪を外した。

 今回は全く狭間の指輪が活躍することがなかったな。

「……さっきのことは忘れてください」

 元に戻ったクレアさんは顔を真っ赤にしたまま、俺から少し離れてそう言ってきた。

 元に戻ったから冷静になったのだろうか。でもそんなことはここまで来たら許されるわけがない。

「無理です」
「ひゃっ!」

 クレアさんの後ろから抱き着いて腕を胴体に回した。

 俺の腕をほどこうとしているが、その力は弱弱しいから全くほどけないでいるクレアさん。

「あっ、前から思っていたんですけど、これからはさっきみたいに砕けた口調で話しませんか? さまとかもなしで」
「む、無理ですよ……!」
「でもさっきはできてましたよ?」
「あれは別人だったのでできたんですよ……!」
「せめて二人の時でもできませんか?」

 婚約者なのだから少しくらいは砕けてくれてもいいだろ。

 まあそれは前世の価値観であって、この世界だとそれが普通なのだろう。

「お願いします」
「うっ……」

 耳元で囁いてダメ押しでお願いする。

「わ、分かりましたからぁ……」
「分かりました?」
「わ、分かったぁ……」
「うん、ありがとう。クレア」

 こうしてお願いして流されているところを見ると、悪い男に引っかからないか心配になってきた。

 まあそれをしている俺が何を言っているんだと言われるかもしれないが、俺はちゃんとした婚約者だから問題がない。

「それで、本当にここで話しているだけでいいの?」
「そ、それよりも、アーサーさま……アーサー」
「なに?」
「放してくれない……?」
「嫌だった?」
「そ、そういうわけじゃないけど……恥ずかしいぃ」
「それは良かった。それじゃあこれでソファーに座ろうか」
「良くないですよ!?」

 これで嫌だと言われたらもう俺の心は折れていたところだ。

 さすがに五歳の膝の上に乗るのはクレアが断ると思ったから、足の間にクレアを座らせることにした。

「社交界では僕が出した課題のことは聞けなかったけど、課題について聞こうか」
「……この恰好じゃないとダメ?」
「だってこっちの方がクレアを感じられるから」
「うぅ……絶対にちゃんと話せない……」
「ほらほら、がんばれがんばれ」

 こうして意地悪をしていると可愛く顔を赤らめてくれるクレア。

 そんなクレアの顔を覗いているところで、ベラからメッセージが来たことが分かった。

 インターネットは俺が仮想空間を作り上げたから、俺はスマホがなくても直接接続することができてすべてのメッセージを閲覧することができる。

 だからこうしてベラからメッセージが来ていることも分かるのだが。

『ウソつき』

 ここに来る前にベラが言っていることを忘れたわけではない。

 でもこうしてクレアが可愛いからイチャイチャしているだけだ。悔いはない!

 だがベラが見ているのだから少しは遠慮したらよかったのだが、それは無理な話だ。可愛さには抗えない。

 スマホをいじらなくてもベラに返信できるから、ベラにはこう送っておく。

『後で埋め合わせはする』

 すぐにメッセージが返ってきた。

『ウソつきは信用できません』

 あぁ、これは拗ねていますね。

 あのメイドは完璧だと言われているのにこういう時だけこう言ってくるのは可愛いと言える。

 だって二十代が五歳相手にこんなことを言っているんだぞ? 可愛い以外に何があるんだ。

『信じて』

 こう返すしかできなかった。

「……あ、あの、どういうことを話したらいいの……? 頭が真っ白で……」
「それならノエルさんに一度勝った時のことを教えて?」
「うん……」

 二人の女性を相手にするとは、前世の俺が見たら死ねと言いそうだな。
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