全能で楽しく公爵家!!

山椒

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王都でも渦中

078:お誘い。

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 会見が終わったことで、ようやく一息つける感じがする。

 でも帰る時にも一芝居打たないと七天教会の人間がまた襲撃してくるかもしれない。

 まだここに来る時には顔が割れていなかった。会見でようやく俺の顔が知れ渡って会見での襲撃が失敗した今、帰りの時が一番襲撃に会いやすい。

 ということなので、俺は魔道具をもう一つ作っていた。

 天空商会や探索者ギルドの人たちに匿っていると思われていてもいいと双方から言われたが、それで何かあったら申し訳がないから、七天教会の人間には幻覚を追わせることにした。

 俺たちが入ってきた建物の裏手に、俺とお父上様、天空商会の人たち、探索者ギルドの人たちがいた。

「準備はいいかな? ヨルくん」
「はい、いつでも」

 お父上様に確認されたことで、狭間の指輪とは違う指に着けている指輪、『水月』を使う。

 俺の前に壁のように水面が出現し、俺を含めてこの場にいる人たちが水面に映っていた。

 その水面が鏡のように割れると、水面に映っていた俺たちはすべて現実に現れた。

「うぉ……!? すげぇ……!」
「こんな魔道具も持っていらっしゃるのね!」
「さすがはお一人で調査されただけのことはある。これほどの魔道具がないとできないもんな」

 驚いている様子の探索者ギルドの人たち。

 でもごめんね? これは昨日俺が作っただけだし、何なら調査なんて一回もしたことがないんですよね。

 とにもかくにも、水面に映っていたのは馬車もだから、馬車に乗り込む俺を含めた水面の住人たち。

 この『水月』は任意指定した水面に映ったものを現実に持ってこれる指輪だが、現実に持ってこれるのは姿だけで、触ろうとすれば触れることはできず、幻覚に等しい。

 だけどただの幻覚ではない。

 触れることができないだけで、ちゃんと彼らには意識があり、個別に対処してくれる。

 その水面の住人たちを次々に作り出し、裏手、正面、屋上から様々なルートで俺がどこに行ったのか分からないようにした。

「見事に引っかかっているわね」
「それなら良かったです」

 建物の中にいるグリーテンだが、感知して外の様子を見ているようで面白そうにそう言っている。

「各地に張っている七天教会の人間は、情報伝達手段を持っていないみたいだから自分たちが追っている相手が複数いるとは思っていないみたいね。もうここの周りには憎悪を持った人間はいなくなったわよ」

 グリーテンの言葉を聞いて、この場にいる人たちは作戦が成功したことで嬉しそうにしている。

「さすがはヨルさまだ! これほどの魔道具を持って、七天教会の人間をおちょくるとは!」

 探索者ギルドの人たちがよいしょをしてくれるが、何だかムズムズしてくる。

 社交界で慣れていると思ったが、また別のベクトルでムズムズするな。

「今日は本当にありがとうございました。この恩は何かでお返しします」
「いえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえ! 自分たちはもうマンガを見て十分に与えてもらっていますから、これは当然のことです!」

 ピノンさんたちにお礼を言うと、ピノンさんの言葉に探索者ギルドの人たちも必死に頷いて賛同していた。

「……これからも頑張ってください。探索者ギルドのギルド長として、一読者として、応援しています。そのために精一杯お手伝いさせてもらいます」
「はい、その時はお願いします」

 こうして姿を偽っているということに少しの罪悪感はあるが、そこら辺は気にしないようにする。

 周りに俺を狙う人がいなくなったことで、俺たちは安全に宿に戻ることになった。

 周りにお礼を言いながら馬車に乗り込んだ。

「おつかれ、アーサー」
「何のことですか? 自分はヨルですよ、グリーテンさん」
「もういいじゃない。七天教会の人間も、知られてはいけない人もいないんだから」

 行きとは違い、帰りの馬車はグリーテンの要望で二人で馬車に乗ることになった。

 イザベルさんは会場の片づけなどの仕事があるため残り、お父上様は他の馬車に乗っている。

 この作戦が上手くいったから特に異論なく俺とグリーテンは二人で馬車に乗っている。

「アーサーの姿を見せて?」

 別にもう見張っている人はいないしアーサーの姿に戻ってもいいけど、いや、アーサーは宿にいるのだからここにいたらおかしいことになるのか。

 でもグリーテンにそう言われたから、俺は狭間の指輪の能力を消してアーサー・ランスロットの姿に戻る。

「やっぱりこっちの方がいいわね」

 俺のことを見て微笑んでいるグリーテンは、もしかしてショタコンなのだろうか。

 ショタコンって結局そいつがショタじゃなくなったら興味を示さなくなるのだろうか。こんなことどうでもいいな。

 そもそもどうしてグリーテンは俺と二人で乗りたいと言ったのだろうか。

「どうして二人で乗っているのか疑問かしら?」
「ちょっとは疑問だね」
「特に理由はないわ! アーサーとこうして二人っきりになりたかっただけだからお願いしたのよ。いけない?」
「ううん、僕もそう思っていたところだよ」
「五歳のくせにませたことを言うわね」

 女性からこんなことを言われてダメだという奴はいないだろ。

 グリーテンも可愛いところがあるんだなぁ。まだグリーテンのことをすべて知らないからそれもそうか。

「その指輪、見てもいいかしら」
「水月? いいよ」

 指にはめていた水月を抜いてグリーテンに渡すと、いつものように指輪を見ているグリーテン。

「本当に不思議よ。どうしてこんなことができるのか、私には分からないわ。マリアでも分からないだろうけど」
「マリアって誰?」
「あぁ、そうよ。マリアで思い出したわ」

 マリアという名前は全く聞かない名前だ。マリアという名前は聞いたことはあるが、案外そういう名前の人には出会ったことはない。

「私の家がこの王都にあることは話したわよね?」
「聞いたね」
「その家に同居人に、七聖具が一人、マリアがいるのよ」
「えっ、七聖法の家に七聖具がいるの?」
「マリアとは腐れ縁だから色々と面倒を見ているのよ。……いくつになっても手のかかる困った子よ」

 そう言ったグリーテンの表情はとても優しいものだった。それは我が子を見るような母親の顔だ。

「大切なんだね、マリアさんが」
「えぇ、そうね。それで、そのマリアにアーサーが作った魔道具を見せたら、とてつもなく食いついたのよ」

 七聖具は魔道具に精通している人で、魔道具を作り出せる人でもある。

 だから七聖法であるグリーテンよりも詳しいと言えるのだろう。

「王都にいる間、ランスロット領にいる時でもいいけれど、私の家に来てくれないかしら? マリアがアーサーに会いたいって駄々をこねてしつこいのよ」

 マリアさんという人についてこれまで聞いた情報によれば、七聖具で、手のかかる困った子で、駄々をこねている人ということになる。

 えっ、子供なのか? 子供なら子供で知り合いになりたいとは思っているが。

「で、どう?」
「大丈夫だよ。クレアさんとの約束があるくらいで、他に用事はないから」

 他にあるとすれば『叛逆の英雄』関連だけで、特に予定はない。

「それは良かったわ! こっちはいつでもいいから予定が空いている時にでも連絡をちょうだい」
「早ければ明日でも大丈夫?」
「それは大歓迎よ! アーサーのことを知ってからマリアはいつも会いたいと言っているのだから」
「それは光栄だね」

 七聖具に会いたいと思われる人なんてそうそういないだろう。

 クレアさんとの約束もクレアさんに連絡をしていつにするかを決めておこう。

『デート、いつにしますか?』

 スマホを取り出してクレアさんにメッセージを入れる。

 あっ、ついでに会見の時の様子をこっそりと魔道具で撮っていたから、それをシルヴィー姉さんとルーシー姉さんに編集して送っておこう。
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