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王都でも渦中
075:サイン会。
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イザベルさんが大人の俺を押し倒した件は何とか誤解が解け、誤解? 誤解も何も状況そのままの説明しかしていないし、イザベルさんが正気に戻って恥ずかしがって部屋の隅に座り込んだことでお父上様たちは察してくれた。
その後、再度俺がヒルになって言うことや素性、天空商会の本拠地で会見をすることなどを話を詰めていると朝日が見えていた。
ほぼ全能の俺は夜更かししようと眠らなくても問題ないが、五歳だと怪しまれるから眠たそうな演技をしていると、少しだけ眠る時間をお父上様がくれた。
ついでにイザベルさんも少し時間があるから、イザベルさんと一緒のベッドに入って寝ることになったのは本当にどうしてかは分からなかったがイザベルさんに休んでほしかったから受け入れた。
俺が回復魔法をかけたイザベルさんは俺のことを抱き枕のように抱きしめ、それに何かないようにベラが監視している中で俺は眠りについた。
「ヨルさん、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
朝起きて、バッチリとアーサーでもヒルでもない人物、ヨルに変身した俺は衣装も貴族ほどではないがそれなりの正装で決めていた。
それをベラに少し手伝ってもらって、もうこの場であろうと俺はヨルで、アルノ・ランスロットさまと旧知の仲という体で会話が行われる。
旧知の仲ということで、前回ベラとグリーテンとデートした時の年齢ではなく、お父上様と年が近いように設定してある。
ヒルというキャラは公共の場で使ったことがあるから、念のためにということでヒルではなくヨルという人物も作った。
「準備はいいかな? ヨルくん」
「はい、問題ありません。アルノさま」
「すまない、キミがあまり顔を出したくないと言っていたのに」
「いえ、それでご子息のアーサーさまが危険な目に合われたのなら、仕方のないことです。こちらとしては我がままを聞いてもらっている身ですので」
「そうか、ありがとう」
そういう会話をお父上様とこなしながらヨルになる準備を整える。
「それでは、会場に行きましょう」
「はい」
昨日の疲れがウソのようにとてもスッキリとしているイザベルさんとお父上様と共にランスロット家の紋章が付いた馬車に乗って会場へと向かう。
「緊張している?」
俺にそう声をかけてきたお父上様。社交界に比べればこんなもの比べ物にならないくらいに緊張することはないし、この俺が緊張することはない。
「緊張していない、と言えばうそになりますね。でもあまり気にすることでもないので心配ご無用です」
「それならいいんだ」
……何だかお父上様とこんな感じで会話するのが新鮮で変な気分になってしまう。俺の姿が変わっているから、お父上様がどう思っているかは分からないが。
さらに言えば、俺がアーサーではなく生後一日も経っていないヨルであるから、ヨルとして接している二人から微妙な雰囲気が流れているのは仕方がないことだ。
そんな空気の中、街中に馬車は進んでいくと朝だというのにかなりの人が外にいるのが見える。
「今日の会見、会場に入る人たちはどのように決めたのですか?」
「あぁ、それは揉め事が起こらないように希望者に番号の紙を配って、こちらで番号が書かれた紙の入った箱から紙を引くことで会場に入る人たちを決めました」
なるほど、抽選会が行われたのか。でもそれだと番号をめぐって争いが起きそうな気がするが、イザベルさんのことだからそこは考えているのだろう。
「番号の奪い合いが行われないよう、グリーテンさんや『探索者ギルド』の皆さんに協力してもらっています」
あぁ、だからグリーテンが見当たらなかったのか。それにまだ見ぬ『探索者ギルド』の人たちとこれから接点があるから、グリーテンや探索者ギルドの人たちには何かお礼をしなければいけない。
王都の中央部に少し近い場所にある、天空商会の本拠地の裏手にたどり着き、俺たちは馬車から降りる。
まあ馬車から降りる前から、というか宿から出た時点で気が付いているがかなりの数の殺気が至る所に存在している。
それはお父上様も気が付いているし、それを封じるために色々な人が暗躍しているのも分かっているからどれだけ『叛逆の英雄』が影響を与えているのかが分かった。
天空商会本部に入ると、もう会場に人が入ってきているのが分かったし騒がしさが半端ない。
会場の近くにある待合室に俺とお父上様とイザベルさんは一緒に入ると、複数の人がいたが、そのうちの一人の男性が前に出てきた。
「初めまして! あなたが『叛逆の英雄』をかかれた作者の方ですね!?」
「はい、ヨル・マロリーです」
「自分は『探索者ギルド』のギルド長をしているジャック・ピノンと申します! 今日という日を待ちわびた日はありません!」
めっちゃ興奮しながら俺に自己紹介をしてきた、三十代くらいの眼鏡をかけてボサボサとした黒髪の持ち主であるピノンさん。
何だか研究者みたいな雰囲気をしているし、前世で言うところのオタクに似通っているものがある。まあオタクも研究者もほぼ一緒だからな。好きなものにとことん時間をかけられる人たちだ。
「今回はこの会見のために手伝ってくださりありがとうございます」
「いえいえ! これくらいは何と言うこともありません! そうだよな、みんな!」
ピノンさんが後ろにいる人たちにそう確認すると、首がもげるのかと思うくらいに上下させた。それに俺がそっちを見ていると、誰一人として視線を合わせてくれないんだが。
「あぁ、彼らはあなたのマンガを見て感銘を受けたので、その作者であるあなたを直視することができないのです」
「俺は太陽かナニカですか?」
「それでも過言ではありません! 今も自分はこうして話しているだけで気を失いそうなくらいに感銘を受けているのですから!」
この人たちにとって俺は神なのか? まああまり過ぎたことをするようなら少し注意するくらいか。
それにしても、すぐに俺が『叛逆の英雄』の作者だと信じれたな。お父上様とイザベルさんがいるから、信じざるを得ないということかもしれない。
でも代理人を立てたと考える人もいるから、それは会場でマンガをかくことで信じてもらうということになっている。
この人たちには今後お礼をしたいが、今思いつくものはサインくらいか。
「イザベルさん、これから時間はありますか?」
「まだ開始まで少し時間がありますよ。この時間は特にすることがない時間なので、何をしても構いません」
「そうですか。では予行演習ということでサイン会をしてもいいですか?」
ピノンさんたちは意味がよく分かっていないようだが、イザベルさんは目を輝かせてどこから取り出したか分からない『叛逆の英雄』一巻を取り出した。
「それじゃあ一番最初のサインは僕でお願いします!」
元々イザベルさんには宿でかくつもりだったのだが、あまりにも時間がなくてそれが叶わなかった。
だからテーブルに表紙だけをめくられた叛逆の英雄一巻の前に座り、持ってきていたペンをポケットから出す。
「どういう風にかきましょうか?」
「それならジャックが剣を構えている状態がいいです!」
「分かりました」
イザベルさんの要望に俺はかき始め、その光景をピノンさん含めた『探索者ギルド』の人たちが覗いていた。
「うわぁ……」
「本当にかいてる……」
「うわっ……本物だぁ……」
かなりざわついているのを他所に、剣を構えているジャックの上に『イザベルさんへ』と書き、その下には『ヨル・マロリー』と書いた。
「はい、かけました」
「うわぁ……家宝にしますね!」
さすがにそれはやめてくれと思ったが、イザベルさんの嬉しそうな顔を見てそれを言うのはやめた。
「まだ時間がありますから、何かかくものがあればピノンさんたちのサインもかきますよ?」
サインの意味を分かってくれたようだから、ピノンさんたちが欲しければサインをかこうと思ったが、ピノンさんたちは誰一人として声を上げなかった。
もしかしたらサインは要らなかったのか? フィギュア、タペストリー、缶バッチ、ポーチ、キーホルダーの中ならあるか?
「ヨルさん、おそらく『探索者ギルド』の皆さんは動揺しているだけでサインは欲しいと思いますよ」
「……あぁ、なるほどです」
声を上げていないピノンさんたちを見ると、目が泳いでいたり口をパクパクさせていたり手をわなわなさせていた。
「ほしい人がいればこちらにどうぞ。紙ならおそらくそこら辺にでも――」
「ここに全巻あります!」
「私も持ってます!」
「自分もあります!」
「何なら僕は二冊ずつ持ってます!」
俺がかき終えている巻数は十八巻で、王都で販売されている『叛逆の英雄』は六巻までだけど、六冊を体のどこに入れていたんだ? しかも二冊ずつだったら十二冊だぞ?
空間魔法を使っている感じはしなかったから、本当に謎だ。それは俺の全能で解き明かしてはいけないと言っているような気がしてならない。
興奮している探索者ギルドの人たちの要望通りにサインをかき終える頃には、ちょうど会見の時間になった。
その後、再度俺がヒルになって言うことや素性、天空商会の本拠地で会見をすることなどを話を詰めていると朝日が見えていた。
ほぼ全能の俺は夜更かししようと眠らなくても問題ないが、五歳だと怪しまれるから眠たそうな演技をしていると、少しだけ眠る時間をお父上様がくれた。
ついでにイザベルさんも少し時間があるから、イザベルさんと一緒のベッドに入って寝ることになったのは本当にどうしてかは分からなかったがイザベルさんに休んでほしかったから受け入れた。
俺が回復魔法をかけたイザベルさんは俺のことを抱き枕のように抱きしめ、それに何かないようにベラが監視している中で俺は眠りについた。
「ヨルさん、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
朝起きて、バッチリとアーサーでもヒルでもない人物、ヨルに変身した俺は衣装も貴族ほどではないがそれなりの正装で決めていた。
それをベラに少し手伝ってもらって、もうこの場であろうと俺はヨルで、アルノ・ランスロットさまと旧知の仲という体で会話が行われる。
旧知の仲ということで、前回ベラとグリーテンとデートした時の年齢ではなく、お父上様と年が近いように設定してある。
ヒルというキャラは公共の場で使ったことがあるから、念のためにということでヒルではなくヨルという人物も作った。
「準備はいいかな? ヨルくん」
「はい、問題ありません。アルノさま」
「すまない、キミがあまり顔を出したくないと言っていたのに」
「いえ、それでご子息のアーサーさまが危険な目に合われたのなら、仕方のないことです。こちらとしては我がままを聞いてもらっている身ですので」
「そうか、ありがとう」
そういう会話をお父上様とこなしながらヨルになる準備を整える。
「それでは、会場に行きましょう」
「はい」
昨日の疲れがウソのようにとてもスッキリとしているイザベルさんとお父上様と共にランスロット家の紋章が付いた馬車に乗って会場へと向かう。
「緊張している?」
俺にそう声をかけてきたお父上様。社交界に比べればこんなもの比べ物にならないくらいに緊張することはないし、この俺が緊張することはない。
「緊張していない、と言えばうそになりますね。でもあまり気にすることでもないので心配ご無用です」
「それならいいんだ」
……何だかお父上様とこんな感じで会話するのが新鮮で変な気分になってしまう。俺の姿が変わっているから、お父上様がどう思っているかは分からないが。
さらに言えば、俺がアーサーではなく生後一日も経っていないヨルであるから、ヨルとして接している二人から微妙な雰囲気が流れているのは仕方がないことだ。
そんな空気の中、街中に馬車は進んでいくと朝だというのにかなりの人が外にいるのが見える。
「今日の会見、会場に入る人たちはどのように決めたのですか?」
「あぁ、それは揉め事が起こらないように希望者に番号の紙を配って、こちらで番号が書かれた紙の入った箱から紙を引くことで会場に入る人たちを決めました」
なるほど、抽選会が行われたのか。でもそれだと番号をめぐって争いが起きそうな気がするが、イザベルさんのことだからそこは考えているのだろう。
「番号の奪い合いが行われないよう、グリーテンさんや『探索者ギルド』の皆さんに協力してもらっています」
あぁ、だからグリーテンが見当たらなかったのか。それにまだ見ぬ『探索者ギルド』の人たちとこれから接点があるから、グリーテンや探索者ギルドの人たちには何かお礼をしなければいけない。
王都の中央部に少し近い場所にある、天空商会の本拠地の裏手にたどり着き、俺たちは馬車から降りる。
まあ馬車から降りる前から、というか宿から出た時点で気が付いているがかなりの数の殺気が至る所に存在している。
それはお父上様も気が付いているし、それを封じるために色々な人が暗躍しているのも分かっているからどれだけ『叛逆の英雄』が影響を与えているのかが分かった。
天空商会本部に入ると、もう会場に人が入ってきているのが分かったし騒がしさが半端ない。
会場の近くにある待合室に俺とお父上様とイザベルさんは一緒に入ると、複数の人がいたが、そのうちの一人の男性が前に出てきた。
「初めまして! あなたが『叛逆の英雄』をかかれた作者の方ですね!?」
「はい、ヨル・マロリーです」
「自分は『探索者ギルド』のギルド長をしているジャック・ピノンと申します! 今日という日を待ちわびた日はありません!」
めっちゃ興奮しながら俺に自己紹介をしてきた、三十代くらいの眼鏡をかけてボサボサとした黒髪の持ち主であるピノンさん。
何だか研究者みたいな雰囲気をしているし、前世で言うところのオタクに似通っているものがある。まあオタクも研究者もほぼ一緒だからな。好きなものにとことん時間をかけられる人たちだ。
「今回はこの会見のために手伝ってくださりありがとうございます」
「いえいえ! これくらいは何と言うこともありません! そうだよな、みんな!」
ピノンさんが後ろにいる人たちにそう確認すると、首がもげるのかと思うくらいに上下させた。それに俺がそっちを見ていると、誰一人として視線を合わせてくれないんだが。
「あぁ、彼らはあなたのマンガを見て感銘を受けたので、その作者であるあなたを直視することができないのです」
「俺は太陽かナニカですか?」
「それでも過言ではありません! 今も自分はこうして話しているだけで気を失いそうなくらいに感銘を受けているのですから!」
この人たちにとって俺は神なのか? まああまり過ぎたことをするようなら少し注意するくらいか。
それにしても、すぐに俺が『叛逆の英雄』の作者だと信じれたな。お父上様とイザベルさんがいるから、信じざるを得ないということかもしれない。
でも代理人を立てたと考える人もいるから、それは会場でマンガをかくことで信じてもらうということになっている。
この人たちには今後お礼をしたいが、今思いつくものはサインくらいか。
「イザベルさん、これから時間はありますか?」
「まだ開始まで少し時間がありますよ。この時間は特にすることがない時間なので、何をしても構いません」
「そうですか。では予行演習ということでサイン会をしてもいいですか?」
ピノンさんたちは意味がよく分かっていないようだが、イザベルさんは目を輝かせてどこから取り出したか分からない『叛逆の英雄』一巻を取り出した。
「それじゃあ一番最初のサインは僕でお願いします!」
元々イザベルさんには宿でかくつもりだったのだが、あまりにも時間がなくてそれが叶わなかった。
だからテーブルに表紙だけをめくられた叛逆の英雄一巻の前に座り、持ってきていたペンをポケットから出す。
「どういう風にかきましょうか?」
「それならジャックが剣を構えている状態がいいです!」
「分かりました」
イザベルさんの要望に俺はかき始め、その光景をピノンさん含めた『探索者ギルド』の人たちが覗いていた。
「うわぁ……」
「本当にかいてる……」
「うわっ……本物だぁ……」
かなりざわついているのを他所に、剣を構えているジャックの上に『イザベルさんへ』と書き、その下には『ヨル・マロリー』と書いた。
「はい、かけました」
「うわぁ……家宝にしますね!」
さすがにそれはやめてくれと思ったが、イザベルさんの嬉しそうな顔を見てそれを言うのはやめた。
「まだ時間がありますから、何かかくものがあればピノンさんたちのサインもかきますよ?」
サインの意味を分かってくれたようだから、ピノンさんたちが欲しければサインをかこうと思ったが、ピノンさんたちは誰一人として声を上げなかった。
もしかしたらサインは要らなかったのか? フィギュア、タペストリー、缶バッチ、ポーチ、キーホルダーの中ならあるか?
「ヨルさん、おそらく『探索者ギルド』の皆さんは動揺しているだけでサインは欲しいと思いますよ」
「……あぁ、なるほどです」
声を上げていないピノンさんたちを見ると、目が泳いでいたり口をパクパクさせていたり手をわなわなさせていた。
「ほしい人がいればこちらにどうぞ。紙ならおそらくそこら辺にでも――」
「ここに全巻あります!」
「私も持ってます!」
「自分もあります!」
「何なら僕は二冊ずつ持ってます!」
俺がかき終えている巻数は十八巻で、王都で販売されている『叛逆の英雄』は六巻までだけど、六冊を体のどこに入れていたんだ? しかも二冊ずつだったら十二冊だぞ?
空間魔法を使っている感じはしなかったから、本当に謎だ。それは俺の全能で解き明かしてはいけないと言っているような気がしてならない。
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