全能で楽しく公爵家!!

山椒

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王都でも渦中

057:急展開。

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「さすがランスロット家のご子息です。五歳とは思えない洗礼された所作です」
「素晴らしいご子息ですね。ランスロット家として恥を知らないでしょう」
「これでランスロット家の将来は安泰でしょう!」
「是非うちの娘と……」

 色々な人と挨拶をして、色々な人が俺のことを誉めてくれた。

 ルーシー姉さんが言っていたことはこういうことなのかと思いながら、ちゃんと一人一人の顔と名前を覚えるようにする。

 下は男爵から上は候爵まで色々な貴族の人たちと挨拶して回り、今回の目的である社交界デビューは上手くいったのではないかと感じた。

 それにしてもサグラモール家はいないのだなと少しだけ残念な気持ちになってしまう。クレアさんとまた会えると心の中で少しだけ思っていたのだが。

 パーシヴァル家がどういう基準でどの貴族を招待したのかは分からないが、それでもまだまだ貴族がいるのだから、これだけの人数を覚えるなんて普通無理だろう。

 それを平然とやってのける貴族はすごいと言える。今の俺でもできるが、それは全能のおかげだから前世だと絶対に寝たら忘れる自信がある。

「お父さん」
「なんだい? 疲れたのかな?」

 挨拶をして回ったことで一息ついているところでお父上様に話しかける。お母上様はすでに他の貴族夫人たちと仲良く話している。

 あれ? さすがにスマホのことをポロっと言わないよな……? いやさすがにお母上様だしそこは信じてあげよう。

「それは大丈夫。それよりも僕の婚約者ってクレアさんだけになったの? 第一王子の問題はどうなったの?」

 この社交界で、公爵家はランスロット家とパーシヴァル家の二つだけ。他の公爵家であるガラハッド家とボールス家とは会っていない。

 それにパーシヴァル家も最初に会っただけだから、ご令嬢がいるかどうかも分からないがいるのなら最初に挨拶するはずなのか……?

「あー、言ってなかったね。一応その件は解決しているよ」

 解決しているのなら言ってほしかったんだけど?

 ていうか全部解決しているのか? パーシヴァル家のご令嬢との婚約、アンリ・ペンドラゴンによる介入、ギネヴィア・ペンドラゴンの婚約。どれも解決しているのだろうか。

「色々とややこしくなった結果、アーサーとの婚約はすべて白紙に戻ったよ」

 えっ!? マジで!? それはよかったぁ! これで俺の婚約者はクレアさんだけってことか!?

「ということは僕の婚約者はクレアさんだけ?」
「そうなるね。ただ白紙に戻ったと言っても、パーシヴァル家当主の要望でパーシヴァル家ご令嬢が望めばアーサーと婚約することになっている」

 パーシヴァル家当主って、ジュストさんだよな。

 なんだか婚約が親同士がそうしたくてしているような印象しかないんだが。

「……えっ? 最初にその婚約をごねていた第一王子は納得するの?」
「元々第一王子は貴族同士の婚約に意見する立場ではないし、今回無駄に掻き回したことで第一王子はカリブルヌスの引き抜きを五年間封じられたから主張は聞かれなくなっているよ」

 カリブルヌスと言えば、次の王さまになるためには継承権ではなくそれを引き抜くことでようやく次期王さまの地位を得ることができる剣だったな。

 曰く、カリブルヌスはその時代でもっともふさわしいものでなければ抜くことができないと言い伝えられている。

 その言い方なら王族でなくても引き抜くことができるらしいが、歴史上王族以外に抜いたことはないらしくその言い伝えが嘘なのだと言われているらしい。

「ということは、十七、十八才まで第一王子は王さまになれないということ?」
「そうだよ。例え現国王がお亡くなりになってもカリブルヌスを引き抜けなければ国王になることはできない。何より、第一王子がその権利を五年間封じられたことで、他の候補に権利がいくことになる。それでカリブルヌスが引き抜かれれば、第一王子がいても国王になるよ」

 なるほど、それは少しばかり重そうな罰だな。アンリ・ペンドラゴンも他のやつらにカリブルヌスが引き抜かれないのか心配になっているのかな? 会ったことがないから知らんが。

「他に引き抜ける人がいれば、第一王子でも引き抜けないと思うけど……」
「そう言われているけれど、実際どうなのかは分からないよ」

 あれ? もしかしなくても今日この場で俺の第二の婚約者と出会うかもしれないということか?

「この社交界で、ディンドラン・パーシヴァルさんと会うの……?」
「そうなるね。ジュストがディンドランを呼びに行っているはずだよ」

 な、なんだってぇぇぇぇぇ!? それ今まで以上に心の準備いりませんか!?

「そ、それを先に言ってよ……!」
「いや、それを言ったらますます緊張するかと思ってね……」

 こんなことで緊張するわけがないんだからそういう気遣いはいらないんだよ!

「ただ……終わっていない問題が一つだけあるんだ」
「えっ……」

 すっっっごい嫌な予感がするんだけど。

「ギネヴィアさまは未だにアーサーと婚約がしたいと仰っているようだよ」
「……何で僕なのかな?」
「アーサー、何かした?」
「それはお父さんが一番知っているでしょ」
「そうだね……ギネヴィアさまを説得しているようだけれど、かなり頑固にアーサーとの婚約を主張しているみたいだ。しかもそれを第一王子がかなり反発しているようだよ」
「第一王子って、ギネヴィアさまが好きなの? それはさすがにヤバイよ」
「それはルーシーでも言えることだけど……その枠組みから外れているのは確かだね」
「それで、そのギネヴィアさまとの婚約は考えなくていいの?」
「考えなくていい、と言いたいところだけれどまだどうなるか分からない状態だね。心に留めておく程度でいいと思うよ」
「分かった」

 まだディンドランさんはいいとしても、さすがに第二王子はやめてくれ。

 そう言えばこの会場にペンドラゴン家が来るのかどうか聞くために俺が口を開こうとした時、わらわらと貴族の人たちがお父上様に集まってきた。

「アルノさま、あのマンガをかかれた人をご存知のようですが……」
「私もぜひあのマンガの作者の方を紹介していただきたい!」
「紹介してくださらなくても素晴らしいということだけをお伝えになってください!」

 俺は人に囲まれる前にするりと抜け出し、お父上様が囲まれていく様を見る。

 貴族たちにも人気だということを忘れていた、『叛逆の英雄』のマンガを。だからランスロット家が関係しているということから貴族たちがランスロット家に聞きに来るのは当然のことなのだろう。

「安心してください、その件につきましては数日以内に作者本人が顔出しすることになっています」

 そのお父上様の言葉で会場はおぉ~! という声が響き渡ることから、どれだけ貴族たちがマンガに関心を抱いているのか想像に難くない。

 さて、お父上様が貴族の人たちに囲まれてしまっているから、俺はどうしようかと考える。

 ここから俺だけで何かすることはないが、お父上様のこの社交界で婚約するというのなら何かあるはずだが、何か起こる気配は今のところない。

 パーティーというだけあって料理が並べられているからそれを食べながら考えるのもありだが、特に食欲はないから却下。

 となれば目立たないところで何か起こるのを待っているのがいいか? 今日のところはディンドランさんと会わないといけないのだが、他の公爵家の同世代とは会ったことがないから偉そうな態度ならタンスの角に小指をぶつけた程度の痛みをずっと与えておきたい。

 そうボーッと考えながら壁際に立つと、こちらに近づいてきている人に気がついた。しかも軽蔑すら持っていることがわかった。

 うわぁ……嫌だなぁ……なんか厄介ごとの気配しかしてこない。それとなく移動してこちらに来れないようにしてやろう。

 だが相手もこちらに用事があるのか、この場にて小走りなど少し品がない行為をしてまで俺を追ってきたから俺は諦めて立ち止まる。

「ようやく観念したのか? アーサー・ランスロット」

 追ってきたのはパーシヴァルさんと同じ紅色の髪を長く伸ばしているがひどく痛んでおり、顔や首辺りに傷跡ができている十歳行くか行かないくらいの女の子だった。

 失礼なことだと重々承知だが、ドレスを着てなければ品位など欠片も感じさせない女性だと感じてしまう。

「あなたは?」
「私はディンドラン・パーシヴァル。パーシヴァル家の次女にして、お前の婚約者だった女で、なるかもしれない女だ」

 うわぁ……そういう人なのね。というかこの人がディンドランさんか……。この人と俺はジュストさんの要望で婚約を結ばないといけないようだけど……えっ、百パーセント悪意しか感じられませんが。

「貴様の所作、他の貴族たちが感嘆のため息をはくくらいに素晴らしいものだった。だが私は気に入らない」
「えっと……どうしてですか?」
「どうして? そんなものは決まっている! 五年間生きてきて、そんなことのために時間を費やしたと考えただけで腹が立つ! お前の姉であるルーシーとシルヴィーさんは素晴らしい武の持ち主だが、お前はそれでも公爵家の子息か!?」

 ディンドランさんが声をあらげたことで周りはこちらに視線を注目させてくる。

 ていうか姉さんたちを知っているのか。しかも俺に怒っている理由が武に時間を費やさなかったから。え? どんだけ武闘派なんだよ。

「これでもやってきているつもりなのですが……」
「つもりでいいわけがないだろ! 何よりあんなに素晴らしい所作で武をやってきているはずがないだろ!」

 そこはちゃんと認めてくれるんだな。

 そう思っているとディンドランさんは片方だけつけていた手袋を外し、俺はものすごく嫌な予感がして口を開こうとする前に俺に手袋を投げつけてきた。

 そのことで注目していた貴族たちはざわついた。

「おい、パーシヴァル家のご令嬢がランスロット家のご子息に決闘を申し込んだぞ!」

 そうだよな、そういう意味があったよな手袋投げ。

「アーサー・ランスロット、貴様に決闘を申し込む! 私が勝って一から武を叩き込んでやる!」

 えぇー……何でこういうことになったん? ご令嬢に怪我させるとか嫌なんだけど?
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