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王都でも渦中
056:社交界。
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お父上様とお母上様の許可を得たことで、俺はメルシエさんに電話で変身した状態で作者として顔出しすることを昨日の事件と一緒に伝えた。
メルシエさんは納得してくれて、こちらでも手を回しておくと言って早々に電話を切った。いつもならかなり長話するのだが。
結局その日は俺の『叛逆の英雄』のマンガの作者と発表するための変身する姿をどうするかを考えるために一日が費やされた。
身元としては『叛逆の英雄』を研究する一人で、『探究者ギルド』に入っておらずどこにも所属していないがアルノ・ランスロットさまと旧知の仲で、今回のマンガも支援してもらっているということになった。
だが考えてほしい。今日はパーティーがある日なんだよ……! 普通に暗殺されかかっていたからそっちの方がインパクトが強くて忘れていた……!
いやぁ、お父上様とお母上様には俺のことを色々と考えさせてしまったことに申し訳なく思う。忙しいと思うのに。
それにしても、はぁぁぁぁぁ……パーティーが始まってしまうのかぁ……。
幸い、公爵家だから俺よりも身分が高くて気を付けないといけない人は限られてくる。
言わずもがな王家、ペンドラゴン家だ。
他の公爵家であるパーシヴァル家、ガラハッド家、ボールス家も同じ爵位ではあるが、ベラから聞いたところによればランスロット家の方が上というのが世間の認識らしい。主にお父上様の功績などでだ。
だから実質ペンドラゴン家に気を付けていればいいのだが……そこにはアンリ・ペンドラゴンがいるから厄介なんだよなぁ。
ただ、アンリ・ペンドラゴンはそういうパーティーに参加することは滅多にないらしいから参加しなければどうということはない。
公爵家だからこういうパーティーで目立たないように、ということはできるはずがないがその分気を遣ってくれる立場であるからそこは救いと言える。
いや、公爵家じゃなかったらこんなに悩まなかったから救いじゃなくて正当な権利だな。
まあこういうパーティーの場は初めてで社交界デビューする日だから、お父上様もお母上様もそこら辺を考慮してくれるだろうと思いたい。
それでもしっかりとしていないとランスロット家次期当主として示しがつかないからそこら辺はちゃんとしないとな。
「すごくお似合いですよ、アーサーさま」
「ありがとう、ベラ」
正装へと着替えることを手伝ってくれたベラにお礼を言って、覚悟を決める。
まるで戦場、というか貴族にとっては社交界も戦場と同義なのだろう。戦場に向かう兵士のように覚悟を決めてお父上様とお母上様と共に馬車に乗る。
お父上様とお母上様と同じく、内心すごく嫌な感情を噴き出しながらも俺はいつも通りの表情を作り出す。
準備ができたことで馬車は動き始め、窓から外を見ながら何も考えないようにボーッとする。
王都だからか、魔灯の明かりで夜など関係なく明るい。魔灯は簡単な魔道具だが、王都に設置されている魔道具はかなり魔力消費量がひどい。
こういう王都の魔道具を動かす魔力はどこから来ているのか疑問だ。魔力は今のところ作り出すすべはないはずだから、人がすべて行っているはずだ。
「アーサー、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ?」
ぼけーっとしながらくだらないことを考えているとお父上様に声をかけられた。
「そうか。緊張はしていないかい?」
「大丈夫だよ。僕は公爵家の子息だよ? これくらいのことは余裕じゃないと」
「それならいいんだけど……」
「も~、あなたは心配しすぎなのよ~。ルーシーもシルヴィーも大丈夫だったでしょ~」
「いや、あの子たちは少し違う気がするけど……」
お父上様はどうやら俺のことが少し心配なようだが、全くどこも心配する要素などないくらいに完璧な公爵家子息を演じてみせる!
もう誰が見ても感嘆のため息しか出ないくらいにしてやる! それが正解なのかは全く分からないけれど、やりすぎても問題ないだろ。社交界だし。インパクト大事。
馬車は着々と目的地まで進んでいき、ついにパーシヴァル家が所有する社交界の会場であるひときわ明るい建物が見えてきた。
社交界の会場は住居と別々にされている場合や、一緒にされている場合があるようだが、今回の社交界の会場は社交界専用の建物らしい。
さすが公爵家と言うべきか、その建物は王家が来たとしても何ら不足ない大きく豪華な装飾がされている。
ランスロット家にも社交界の会場はあるのだが、滅多に使われたことはない。というか俺が生まれてから社交界の会場が使われたことはない。
それにしてもランスロット家の社交界会場よりもかなり大きく、派手であることは王都にあって社交界が何回もあるから立派にしたのだろうか。はたまたランスロット家がショボくしたのか。
そうは言ってもランスロット家の社交界会場もかなり大きいと言える。前世の俺の実家よりも何十倍あるんだと思うくらいに大きかった。
当たり前か。俺の家って別に裕福じゃなかったし。何なら貧乏寄りだったし。それを貴族の社交界会場と比べるのは失礼すぎるよな!
会場の中から賑やかな人の気配や音楽が近づくにつれ聞こえ、会場のいい感じのところで馬車が止まる。
たぶんほとんどの人が揃っているのだろう。普通に考えたら公爵家より遅れてくるのは大罪な気がする。社長よりも遅く来る平社員がいたらキレられるとかそういう感じか? 例えがよくわからんが。
馬車から降り、会場へと向かっていくお父上様とお母上様と俺。
会場に入るところくらいで、俺は全能を使って完璧な所作モードに入り、会場にも入る。
ランスロット家であるから、俺たちが入ってきたことで会場にいる人たちは一斉にこちらを注目してきた。
大きな会場だからそれなりに人がいたとしても全く余裕があるのだが、やはり人がいるのは変わりなく人が多すぎだろと思ってしまう。
「はぁ……」
近くにいた女性がこちらを見て艶のあるため息をはいた。さらに他の人たちもこちらを向いてざわついている。
「あの方が、アーサー・ランスロットさまか……」
「とても五歳とは思えない素晴らしい動きだ……」
「堂々としておられる。さすが公爵家のご子息ね」
うむ、第一印象は完璧じゃないか? 周囲から受ける俺へと視線はほぼすべてが称賛の視線だった。少しばかり軽蔑の視線があるのは本当に意味が分からない。
「アーサー、そんな完璧な動きを覚えていたんだね」
「ベラかしら~?」
今日初めて見せるお父上様とお母上様は困惑しながらもそう聞いてきた。
「うん、そうだよ。完璧でしょ?」
「あぁ、もうこれ以上ないくらいだ。その調子で頼むよ」
「わかった」
お父上様を少し安心させることができて俺は満足だ。
会場の中を歩いている、というかこの社交界の開催者であるパーシヴァル家の元へと歩いていくとそちらもこちらに向かってきた。
「ようこそ、我が社交界においでくださいました。アルノ・ランスロットさま、スザンヌ・ランスロットさま」
「やめてくれ、ジュスト。同じ公爵家だよ。それにキミにさまと言われるのは鳥肌が立ってしまう」
「せっかく息子の前で父親が偉いんだと見せてあげようとしただろうに……」
聞いたところによれば三十代のはずなのに、二十代にしか見えない赤ではなく紅色の髪を持つ男性がお父上様と仲良く話している。
「で? そっちが息子か?」
「あぁ、そうだよ。アーサー」
お父上様にそう言われ、一歩前に出てパーシヴァルさんに挨拶する。
「はじめまして、アーサー・ランスロットです」
「……お、おぉ……本当に五歳か?」
「本当に五歳だ。僕も驚かされたところだよ」
俺が完璧な所作で挨拶すると狼狽えているパーシヴァルさん。そんな同様を消すようにひとつ咳払いして俺に話しかける。
「俺はジュスト・パーシヴァル。アルノとは学生の頃からの付き合いだ」
「学生の頃から……エリオットさんと一緒ですか?」
「エリオットを知っているのか……くっ、あいつに先を越されてしまっていたか。ていうかアーサーくんの婚約者はクレアちゃんだったな。……まあそうだ。俺とアルノとエリオット、それにもう一人とよく学生時代に遊んでいた。スザンヌやゾーイたちのグループとつるむようになる前からだから、スザンヌより俺は付き合いが長い」
「も~、そこで張り合わないでいいでしょ~?」
「ふっ、それだけじゃないからな。一緒に風呂に入ったのも、旅行に行ったのも全部俺が初めてだ!」
あー、この人あれだな。ゾーイさんがお母上様を好きなのと同じで、お父上様のことがとても好きな人だな。
あれ? 俺の婚約者って、最初はディンドラン・パーシヴァルさんだったけどクレアさんになったわけだが、どちらもお父上様が学生の頃から関わっていた人の娘になるんだよな。
そうなったら途中でごねてきたギネヴィア・ペンドラゴンもあり得るのか……? いやいや、ないない!
「ジュスト……それくらいにしておいてくれ」
「おぉ、そうだったな。この話はまたあとでしよう」
まあお父上様の昔の話を聞けるのなら俺は喜んで聞こう。
だが今はまだここで長話をする前にやることがある。この場にいる貴族たちと挨拶しないといけない。
それを覚えるということもついでについているが、まあそれは大丈夫だろ。俺全能だし。
メルシエさんは納得してくれて、こちらでも手を回しておくと言って早々に電話を切った。いつもならかなり長話するのだが。
結局その日は俺の『叛逆の英雄』のマンガの作者と発表するための変身する姿をどうするかを考えるために一日が費やされた。
身元としては『叛逆の英雄』を研究する一人で、『探究者ギルド』に入っておらずどこにも所属していないがアルノ・ランスロットさまと旧知の仲で、今回のマンガも支援してもらっているということになった。
だが考えてほしい。今日はパーティーがある日なんだよ……! 普通に暗殺されかかっていたからそっちの方がインパクトが強くて忘れていた……!
いやぁ、お父上様とお母上様には俺のことを色々と考えさせてしまったことに申し訳なく思う。忙しいと思うのに。
それにしても、はぁぁぁぁぁ……パーティーが始まってしまうのかぁ……。
幸い、公爵家だから俺よりも身分が高くて気を付けないといけない人は限られてくる。
言わずもがな王家、ペンドラゴン家だ。
他の公爵家であるパーシヴァル家、ガラハッド家、ボールス家も同じ爵位ではあるが、ベラから聞いたところによればランスロット家の方が上というのが世間の認識らしい。主にお父上様の功績などでだ。
だから実質ペンドラゴン家に気を付けていればいいのだが……そこにはアンリ・ペンドラゴンがいるから厄介なんだよなぁ。
ただ、アンリ・ペンドラゴンはそういうパーティーに参加することは滅多にないらしいから参加しなければどうということはない。
公爵家だからこういうパーティーで目立たないように、ということはできるはずがないがその分気を遣ってくれる立場であるからそこは救いと言える。
いや、公爵家じゃなかったらこんなに悩まなかったから救いじゃなくて正当な権利だな。
まあこういうパーティーの場は初めてで社交界デビューする日だから、お父上様もお母上様もそこら辺を考慮してくれるだろうと思いたい。
それでもしっかりとしていないとランスロット家次期当主として示しがつかないからそこら辺はちゃんとしないとな。
「すごくお似合いですよ、アーサーさま」
「ありがとう、ベラ」
正装へと着替えることを手伝ってくれたベラにお礼を言って、覚悟を決める。
まるで戦場、というか貴族にとっては社交界も戦場と同義なのだろう。戦場に向かう兵士のように覚悟を決めてお父上様とお母上様と共に馬車に乗る。
お父上様とお母上様と同じく、内心すごく嫌な感情を噴き出しながらも俺はいつも通りの表情を作り出す。
準備ができたことで馬車は動き始め、窓から外を見ながら何も考えないようにボーッとする。
王都だからか、魔灯の明かりで夜など関係なく明るい。魔灯は簡単な魔道具だが、王都に設置されている魔道具はかなり魔力消費量がひどい。
こういう王都の魔道具を動かす魔力はどこから来ているのか疑問だ。魔力は今のところ作り出すすべはないはずだから、人がすべて行っているはずだ。
「アーサー、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ?」
ぼけーっとしながらくだらないことを考えているとお父上様に声をかけられた。
「そうか。緊張はしていないかい?」
「大丈夫だよ。僕は公爵家の子息だよ? これくらいのことは余裕じゃないと」
「それならいいんだけど……」
「も~、あなたは心配しすぎなのよ~。ルーシーもシルヴィーも大丈夫だったでしょ~」
「いや、あの子たちは少し違う気がするけど……」
お父上様はどうやら俺のことが少し心配なようだが、全くどこも心配する要素などないくらいに完璧な公爵家子息を演じてみせる!
もう誰が見ても感嘆のため息しか出ないくらいにしてやる! それが正解なのかは全く分からないけれど、やりすぎても問題ないだろ。社交界だし。インパクト大事。
馬車は着々と目的地まで進んでいき、ついにパーシヴァル家が所有する社交界の会場であるひときわ明るい建物が見えてきた。
社交界の会場は住居と別々にされている場合や、一緒にされている場合があるようだが、今回の社交界の会場は社交界専用の建物らしい。
さすが公爵家と言うべきか、その建物は王家が来たとしても何ら不足ない大きく豪華な装飾がされている。
ランスロット家にも社交界の会場はあるのだが、滅多に使われたことはない。というか俺が生まれてから社交界の会場が使われたことはない。
それにしてもランスロット家の社交界会場よりもかなり大きく、派手であることは王都にあって社交界が何回もあるから立派にしたのだろうか。はたまたランスロット家がショボくしたのか。
そうは言ってもランスロット家の社交界会場もかなり大きいと言える。前世の俺の実家よりも何十倍あるんだと思うくらいに大きかった。
当たり前か。俺の家って別に裕福じゃなかったし。何なら貧乏寄りだったし。それを貴族の社交界会場と比べるのは失礼すぎるよな!
会場の中から賑やかな人の気配や音楽が近づくにつれ聞こえ、会場のいい感じのところで馬車が止まる。
たぶんほとんどの人が揃っているのだろう。普通に考えたら公爵家より遅れてくるのは大罪な気がする。社長よりも遅く来る平社員がいたらキレられるとかそういう感じか? 例えがよくわからんが。
馬車から降り、会場へと向かっていくお父上様とお母上様と俺。
会場に入るところくらいで、俺は全能を使って完璧な所作モードに入り、会場にも入る。
ランスロット家であるから、俺たちが入ってきたことで会場にいる人たちは一斉にこちらを注目してきた。
大きな会場だからそれなりに人がいたとしても全く余裕があるのだが、やはり人がいるのは変わりなく人が多すぎだろと思ってしまう。
「はぁ……」
近くにいた女性がこちらを見て艶のあるため息をはいた。さらに他の人たちもこちらを向いてざわついている。
「あの方が、アーサー・ランスロットさまか……」
「とても五歳とは思えない素晴らしい動きだ……」
「堂々としておられる。さすが公爵家のご子息ね」
うむ、第一印象は完璧じゃないか? 周囲から受ける俺へと視線はほぼすべてが称賛の視線だった。少しばかり軽蔑の視線があるのは本当に意味が分からない。
「アーサー、そんな完璧な動きを覚えていたんだね」
「ベラかしら~?」
今日初めて見せるお父上様とお母上様は困惑しながらもそう聞いてきた。
「うん、そうだよ。完璧でしょ?」
「あぁ、もうこれ以上ないくらいだ。その調子で頼むよ」
「わかった」
お父上様を少し安心させることができて俺は満足だ。
会場の中を歩いている、というかこの社交界の開催者であるパーシヴァル家の元へと歩いていくとそちらもこちらに向かってきた。
「ようこそ、我が社交界においでくださいました。アルノ・ランスロットさま、スザンヌ・ランスロットさま」
「やめてくれ、ジュスト。同じ公爵家だよ。それにキミにさまと言われるのは鳥肌が立ってしまう」
「せっかく息子の前で父親が偉いんだと見せてあげようとしただろうに……」
聞いたところによれば三十代のはずなのに、二十代にしか見えない赤ではなく紅色の髪を持つ男性がお父上様と仲良く話している。
「で? そっちが息子か?」
「あぁ、そうだよ。アーサー」
お父上様にそう言われ、一歩前に出てパーシヴァルさんに挨拶する。
「はじめまして、アーサー・ランスロットです」
「……お、おぉ……本当に五歳か?」
「本当に五歳だ。僕も驚かされたところだよ」
俺が完璧な所作で挨拶すると狼狽えているパーシヴァルさん。そんな同様を消すようにひとつ咳払いして俺に話しかける。
「俺はジュスト・パーシヴァル。アルノとは学生の頃からの付き合いだ」
「学生の頃から……エリオットさんと一緒ですか?」
「エリオットを知っているのか……くっ、あいつに先を越されてしまっていたか。ていうかアーサーくんの婚約者はクレアちゃんだったな。……まあそうだ。俺とアルノとエリオット、それにもう一人とよく学生時代に遊んでいた。スザンヌやゾーイたちのグループとつるむようになる前からだから、スザンヌより俺は付き合いが長い」
「も~、そこで張り合わないでいいでしょ~?」
「ふっ、それだけじゃないからな。一緒に風呂に入ったのも、旅行に行ったのも全部俺が初めてだ!」
あー、この人あれだな。ゾーイさんがお母上様を好きなのと同じで、お父上様のことがとても好きな人だな。
あれ? 俺の婚約者って、最初はディンドラン・パーシヴァルさんだったけどクレアさんになったわけだが、どちらもお父上様が学生の頃から関わっていた人の娘になるんだよな。
そうなったら途中でごねてきたギネヴィア・ペンドラゴンもあり得るのか……? いやいや、ないない!
「ジュスト……それくらいにしておいてくれ」
「おぉ、そうだったな。この話はまたあとでしよう」
まあお父上様の昔の話を聞けるのなら俺は喜んで聞こう。
だが今はまだここで長話をする前にやることがある。この場にいる貴族たちと挨拶しないといけない。
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