全能で楽しく公爵家!!

山椒

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王都でも渦中

054:人材収容。

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 気を失っている侵入者の静粛の縛り上げているベラに話しかける。

「さっき何か話していたみたいだけど、この人と知り合いなの?」
「ちょっとした顔見知り程度で、知り合いというわけではありません」

 というかこの静粛と呼ばれている人に凶神って呼ばれてたのがすごく気になる。凶って中々聞かないぞ?

「この人に凶神? って呼ばれてたみたいだけど、あだ名?」
「そこは、お答えできません。私にとって触れてほしくない部分です」
「ふーん、ならやめておくね」
「ありがとうございます」

 そう言われても気になるものは気になるが、まあベラがそう言うんだったら俺はそれを呑み込むしかないよな。

 字のごとく考えたら、不吉なことを体現したかのような名前だが、それだけなら普通に話すか。

「それよりもアーサーさま、首から血が出ています」
「あー、この人にナイフを当てられてたから少し血が出た程度だよ」

 切れているのが少しだけとはいえ、服に血がついているほどだから見た人からすればすごく血が出ているようにも見えるだろう。

「手当てを」
「大丈夫、すぐに治すよ」

 ベラに手間をかけさせる前に俺は首に治癒魔法をかけて完全に治し、服についている血も浄化魔法で綺麗にする。

 まあしかし……異世界に転生して、お父上様に外に出してもらわずに過ごしていたから、こういう血が出ることが起こるとは思ってもみなかった。

 しかも命を狙われたかどうかは分からないが、そういうことも影響力のある公爵家なら起こりうるということがようやく理解できた。

 別に死ぬのが怖いというわけではないし、というか一生死ぬこともないと思うんだが、少し甘く見ていたのかなと思った。

 前世の日本とは世界観も治安も文化も違う国で生まれたんだから、そういうところを改めさせられるいい機会になった。

 それに俺の全能はそういう精神的な面でも十分に発揮してくれるから問題ない。

「アーサーさま」

 ベッドに座って感慨に耽っているところを、ベラに横から抱き締められた。

「なに?」
「申し訳ございません、アーサーさまに怖い思いをさせてしまいました」
「ううん、怖くなかったから平気」
「そう、ですか。怖くありませんでしたか」
「うん、別のことを考えてた」

 この静粛という女性自体は別に怖くなかったし、何なら優しい人だと分かっているから命の危機どころか怪我の危機も感じなかった。

「アーサーさま、とてもお慕いしております」
「どうしたの? 急に。でもありがとう。僕もベラのことが好きだよ」
「ですから、アーサーさまがどこへ行こうが、私もお供させてください」
「それはベラは僕の専属メイドだからどこでも一緒に行くんじゃないの?」
「私がアーサーさまの専属メイドではなくなっても、です」
「それは別にいいけど……どうしたの?」

 急にお慕いしておりますとか言われて、どうしたんだ?

「いえ、アーサーさまが、今にもどこかに行ってしまいそうな、そんな感じがしたからです」
「そんな顔してた?」
「五年間、あなたさまを見てきました。笑っているお顔、嬉しそうなお顔、嫌そうなお顔、悩んでいるお顔。今のお顔は、どれでもない、切なそうなお顔でした」

 切ない顔……マジか。俺そんな顔をしていたのか。全くわからなかった。というかそんな顔をしている自覚もないしどこから切なさが来たのかも分からない。

 でもベラが言うんだから俺はそんな顔をしていたんだろう。なに? 自覚して少しだけ前世が恋しくなったのか? よくわからんが。

「ベラ、僕はどこにも行かないよ。それに僕はベラがいないと生きていけないんだから、ベラを置いていくことなんてしないよ。ベラが僕を置いていくことはあるかもしれないけど」
「それこそあり得ません。私が一目惚れして、最後の恋だと決めたあなたさまですから」

 お……重いな、案外。一目惚れはいいけど、最後の恋ってどんだけだよ。最後の恋と決めるってそうそうないしそんなことできるとはあまり思えないがベラの表情は本気だなぁ。

「……イチャイチャするのはいいが、俺のことを忘れてないか?」

 俺とベラが愛を確かめあっていると、静粛さんが起きてこちらに声をかけてきた。

「もう起きたのね」
「当たり前だ、これくらいで寝てられるかよ」

 ベラは俺から離れ、静粛さんの前に立つ。

「誰に依頼されてアーサーさまを殺しに来たの?」
「言うと思うか? そもそも殺しに来た訳じゃない」
「思っていないけど、言った方が痛い目には合わないわよ」
「はっ! そんな脅しでしゃべったら暗殺者の名折れだろ!」
「そうね。それならあなたが引いていたやり方をするしかないわね」

 ベラがそういうとかなり嫌な顔をする静粛さん。だが静粛さんの腕は良さそうだからできることならこちらに引き込みたいな。

 どう転ぼうが、静粛さんのような暗殺者を放っておくのはあり得ない。俺が危険に晒されるとかじゃなくて、他の人に危険が及ぶかもしれない。

 仲間に加えるか、殺すかのどちらかになるわけで、それなら仲間に加えた方がいいことになる。

「この静粛さんって、暗殺者なの?」
「そうです。元々はある組織に所属していた女ですが、今は無所属で暗殺の依頼を受けていると聞きました」
「そういう組織もあるんだ……」
「言っておきますが、これを引き入れることは反対です」
「これって言うな」

 まあ暗殺者を引き入れるなんて正気の沙汰ではないだろうな。

「俺も反対だぞ。俺を引き入れようとしているのなら、お目は高いが裏の人間を分かっちゃいない。裏切り合うことが日常の世界の住人がいつ裏切るか、それを考える時間と予防策を講じるよりは俺を殺していた方がよっぽどいい」

 ふむ、要は裏切らないようにすればいいのか? それなら簡単だぞ?

「それなら契約を結べば裏切ることはできないよ?」
「……契約魔法ですか? そんな高度な魔法を習ったのですか?」
「まあ一通りはね。そもそも、僕はこの静粛さんがそんなに悪い人とは思えないから引き入れようかなぁって思っているんだ」
「俺が悪い人じゃないだと? はっ! ガキに舐められてたら仕事ができねぇな! 俺は依頼された相手を全員殺してきた。そんな奴が悪い人じゃないわけがないだろ!」
「それにしては僕のことを大事に扱ってくれていたような気がしますけど?」
「……お前を誘拐して来いという依頼だったからな」

 本当にいい人そうだな。殺してきたのは事実だとは思うが、何か訳ありかもしれない。そうじゃないかもしれないが、とりあえずは探ってみるか。

「僕はまだあなたの言う裏の世界を知りません。ですからあなたのような裏の世界を知っている人が僕についてくれればいいと思っています」
「それならそこの凶神にでも頼めばいい。そいつも詳しいぞ」
「私は話す気はないわ」
「お前……黙っているつもりか?」
「いつかは話すつもりだけど……まだ心の準備できていないわ」
「ふん! そうかよ、そんなに大切なのかよ」

 ……何だか段々とベラの過去が重くなりそうなんだが、まあ別に構わないけど。

「僕を狙う理由、いやランスロット家の子息である僕を狙ったんですかね? その場合は七天教会で、僕自身を狙った場合はアンリ・ペンドラゴンだと考えています」

 お? 前者の方にだけ反応したな。それだけで良かったと言える。

「七天教会ですか、僕を狙ったのは」
「何のことだ?」
「無駄ですよ、僕には嘘が通じませんから」
「何のハッタリだ。もう少しまともな嘘をつけ」

 本当なんだな、これが。いつもは起動していないが嘘を見抜くことができる能力を今つけているし、何に反応したかを理解することができる。

「『叛逆の英雄』のマンガがランスロット家から出ているから、その作者を特定するために僕を誘拐しに来たんですかね?」
「さぁ、そう思うんだったらそう思えばいいだろ?」
「当たりですね」

 これはこれで厄介なことになったなぁ……。王都は危険がいっぱいだな。

 知りたいことは知れたが、この静粛さんを仲間にしたいという気持ちは変わらないが、一筋縄ではいかなさそうだ。

「とりあえず……どうしようか? この静粛さん。まだ僕は諦めてないけど……」
「これは必要ありません。他のにした方がまだいいです。さっさと処分しましょう」
「処分? でもこの人は腕は確かだからなぁ……」
「静粛を報告すれば、間違いなく引き渡されるか殺されます。静粛をどうしても仲間にしたいと仰られるのなら、アーサーさまが魔道具をお作りになられたらいかがですか?」
「あっ、それいいね!」

 カギを持っている人しか出入りすることができない部屋を作り上げれば、許可された人以外誰も入ることも出ることもできないようになる。

「おい……なんか少しヤバいこと言ってないか……?」
「大丈夫ですよ! ちゃんとご飯も水もあげますし、酸素だってあります! だけど少し部屋から動けないようにするだけですから!」
「それは監禁って言うんだよ! ペットかよ!」
「散歩には行けませんけど、僕に協力してくれるのなら出してあげますから」
「……俺、やる仕事間違えたか……?」

 本当にヤバいことをやっている自覚はあるけど、人が人だからこうする以外になさそうだ。

 静粛さんに精神攻撃を仕掛けるのを考えたが、それをしてしまえば歯止めがかからない気がするからそれは極力やらないようにする。

 何だか少しだけ罪悪感があるが、まあすぐに出してあげよう。マンガも入れておいてあげよ。
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