全能で楽しく公爵家!!

山椒

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王都でも渦中

046:無音のアニメ。

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 無駄な混乱を招いたことでお父上様からのお説教を受けて、再び馬車の旅に戻った。

 あれからグリーテンにもう一度同じ籠手を作ってうっとりとした表情で魔法陣を見ており、ベラは少しも喋ることなく俺から顔をそらしていた。

「ベラ? 怒っているの?」
「いえ、怒っていません」
「ごめんね、ベラが離れていくなんて考えたくなくて……」
「ですから怒っていませんので謝られなくて結構です」

 本当に怒っていないようだが、まあシュンとした表情でもしておくか。五歳ぽいし。

「そ、そうだよね……ごめんね? やり過ぎだよね」
「……いえ、アーサーさまのお気持ちは嬉しいです。ですが少しだけその気持ちを抑えてくださるとありがたいです」
「どのくらいに?」
「その……大切ということは十分に分かったので、一日に一回くらいがいいかと……」

 あぁ、照れているベラも可愛いなぁ。でも少し意地悪しちゃう。

「どうして? 僕がベラを大切に思うことは隠すことなの?」
「いえ、その、そういうことは将来の奥さまに……」
「思っていることは相手に言わないと伝わらないよ? だからどれだけベラが大切に思っているか、今まではそれほど言わなかったけど、これからは思った時に言うね! ベラ大好きだよ!」
「うぅっ……やめてください……」

 可愛いなぁ! もうベラも俺のお嫁さんにしちゃうぞ! こういうところで照れるベラはクレアさんと同じくらいに癒しを感じるな。控えめに言って最高です!

「あ、アーサーさま! もうこの話は終わりです! これ以上私をいじめないでください!」
「ご、ごめんね? ベラをいじめていたの? そんなつもりはなかったんだけど……」
「そういうことではありません!」

 もうこの辺にしておくか。じゃないとベラがへそをまげて本当に話してくれなくなりそうだ。

 流れる光景を見ながら、疑問に思ったことをベラに聞いていくことを繰り返していたが、それも飽きてしまった。グリーテンは相変わらず魔道具を見ているから飽きていることはなさそうだった。

「ねぇ、ベラ」
「どうなされましたか?」
「何か作ってほしい魔道具はない?」

 グリーテンは魔道具を見て時間を忘れているようだから、こちらも何か魔道具を作って時間を潰すことにした。

「いえ、特にはありません」
「そう? 何かない? 日常生活で必要な魔道具でもいいよ?」
「そうですね……」

 俺がよほど暇なことを分かったことで、俺の言葉に考え込むベラ。

「強いて言えば、ランスロット家の屋敷の魔灯や生水の魔道具を作り直してほしいことでしょうか」

 魔灯は電灯の魔力バージョンで、生水は水を生み出す魔道具だ。

 この世界は電気や水は通っていない。だけど電気の代わりに魔力で辺りを照らしているし、魔力で水を生成しているから夜の屋敷は真っ暗ではない。

 だがそれほど明るいわけでもない。いつかあの魔道具を作り直そうと思っていたから、ちょうどいい機会だ。

「うん、それは屋敷に帰ったらやっておくよ。でも今ここで作れる、他に作ってほしい魔道具はないの?」
「そう言われましても……」
「本当にないの? 魔道具じゃなくても作るよ?」
「それでしたら、アニメを見てみたいです」

 うわっ、一番難しいことを言ってくるな。でもどうせだからアニメをデジタルで作ってもいいかもしれない。

 俺ならばアニメを情報で作り上げることはできる。でもそれは俺にしかできないことだから、娯楽を普及させるためにはこの方法は万人ができなくてよろしくない。

「あにめ? なによそれ!?」

 そして俺の魔道具に夢中だったグリーテンも興奮気味に食いついてきた。

「アニメを少しだけ再現するのは可能だけど、ちょっと準備するからグリーテンに説明しておいて」
「承知しました」

 頭の中でどういうアニメ描写にするのかイメージして、それらをすべてアニメーションとして作り上げる。声や効果音、BGMを追加することはできるがする必要はない。

 丸々三十分作り上げるのは面倒だから、五分ほどの無音な戦闘シーンを完成させた。

 その情報を俺のスマホの中に送り込んで俺はスマホを取り出した。その一挙一動をベラと説明を受けたグリーテンは見てきていた。

「はい、できたよ。準備はいい?」
「……はい、お願いします」
「撮影した動画とは違うものなのね……!」

 ベラとグリーテンにスマホの画面を向けて、動画の真ん中の再生ボタンをタッチするとアニメは始まった。

 場面はマンガでの最初の戦闘シーンで、生贄を差し出そうとしない村の人々に神が怒って神罰を与えようとするが、それをジャックが止めて神と戦っているシーン。

 神が相手だから迫力抜群で神の攻撃を軽くかわしながら、神に攻撃を喰らわしているジャック。

 音声が入っていないからイマイチ迫力に欠けるが、それでもベラとグリーテンは食い入るように見ている。

 そしてあっという間に五分が終わり、アニメが止まったことで二人は現実世界に戻ってきた。

「……絵が、何千枚以上も繰り返されると現実世界と同じくらいに動くものなのね」
「アニメ、すごいですね」
「これがアニメの完成じゃないよ」

 二人ともこれで満足しているようだが、こんなものはまだまだアニメとは言えない。

「これに音声が入って初めてアニメになるんだよ。神とジャックも声が出ていなかったよね? それに戦闘で出た音も入っていないから全然だよ」
「……確かに。これだけで十分満足するくらいだけど、音が入ればもっとすごいものになるわね」
「この登場人物に声を入れる人を声優って言うんだけど、アニメを作るためにはまず声優さんたちを集めないといけない」

 俺がいるだけですべての声を真似することはできるから、本当に俺だけでアニメを完成させることはできるけど、俺の目標はあくまでも娯楽を広めることだからそれは意味がないことだ。

「このアニメ、私のところに送ってきてくれないかしら?」
「いいよ」

 グリーテンに頼まれてメッセージアプリからグリーテンに五分の無音アニメを送った。するとグリーテンはアニメを再生してジッと見ていた。

「ベラにも送っておくね」
「……お願いします」

 そしてチラッとこちらを見たベラにもアニメを送るが、ベラはグリーテンとは違ってアニメを送られてくるのを確認するだけで見ることはしなかった。

 他にもメルシエさんにも送っていればどういうものを作りたいかを分かってくれるだろうが、それはまた今度の機会にしておく。

「アーサーさま、シルヴィーさまとルーシーさまにお送りにならなくてもよろしいのでしょうか?」
「……完成されていないものだよ?」
「ですがお見せにならなければ何か言われるのでは?」
「……それもそうだよね」

 さすがベラ、俺が気が付かないところまでちゃんとわかってくるとは。

 そうだよなぁ、俺が満足しないアニメでもここの世界の人ならグリーテンみたいに食いつく人が多くいるんだよなぁ。

 その後シルヴィー姉さんとルーシー姉さんと俺のグループにアニメを送るとかなり絶賛されたのは言うまでもない。
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