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全能の爆誕
043:娯楽ギルド、始動。
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先日行われたお父上様の誕生日は成功して終えることができた。
成功して、失敗があるような言い方があるようだが、娘と息子によるプレゼントを前に涙腺を崩壊させていたのだから成功したと言えるだろう。
シルヴィー姉さんからは少しお高めなお酒を。
ルーシー姉さんからは手料理を。
俺からは『軽減の腕輪』を。
誕生日プレゼントを一人ずつ渡していたが、その度に涙を浮かべて泣いて、収まって次に行くとまた男泣きしたりとしていた。
こっちまでもらい泣きをしてしまいそうなくらいに泣いていたから、こういう誕生日も久しぶりだなと感じた。
ランスロット家の中で一番早い誕生日はお父上様で、ルーシー姉さん、俺、お母上様、シルヴィー姉さんの順番になっている。
そう、俺はもう少しで五歳になってしまう。五歳になれば社交界デビューが待ち受けているから五歳になりたくないんだよなぁ。
でも時間は誰もが平等に進んで行くものだからどうすることもできない。
「あれは……」
外を見るとこちらに向けて来ている天空商会の飛行船が見えた。
最近だと、半月から一ヶ月のペースでメルシエさんが来ているからまた来たのかと思うくらいであった。
天空商会は世界を回って仕入れてきたものをお得意様であるランスロット家に売っており、ランスロット家はそれをほとんど買い取っている。
ブリテン王国と停戦状態の国であっても、天空商会はそんなことお構いなしに向かっているから、メルシエさんたちの商人魂が見て取れる。
ただ最近だとマンガのことで忙しそうだと聞いたから、あまり他国には行ってない様子だった。
天空商会の移動手段はあの飛行船のみ。
分散して商売ができないというデメリットが付き纏うが、その代わりに一番安全な空の移動手段を持っているから襲われる心配がない。
ただマンガで忙しくなって他の商売がうまくできていないようなら、俺が飛行船を何隻か用意してもいいと思っている。
何隻か用意したところで、俺の無尽蔵な魔力しか消費するものはないからランスロット家に痛手は一切与えない。
どうせならグリーテンに手伝ってもらって速度重視の飛行船、防御重視の飛行船、反撃重視の飛行船とかを作ってもいい気がする。
「アーサーさま」
妄想を膨らませていると扉の前からベラの声が聞こえてきたことで、呼ばれたのだと理解した。
メルシエさんが来ても呼ばれない時があるが、まあ基本的には王都での出来事とか愚痴とかを聞かされている。
商売の話のときはお父上様はいるがほとんどの場合でお父上様の同席はすでにない。
「メルシエさん?」
「はい、応接間にいらっしゃっています」
「分かった」
ベラに言われて最新刊である十三巻を持っていつも通り応接間に向かい、応接間に入る。
「こんにちは、メルシエさん」
「こんにちは! アーサーさま!」
元気がいいメルシエさんがソファーに座っているのが目に入った。
王都で『叛逆の英雄』を天空商会から売り出しているせいで貴族たちから色々と聞かれて疲れていた、なんてことがあったが、今はかなり余裕が見られる。
「顔色、いいですね」
「いやぁ、ランスロット家が色々と手を回してくださっているのでこの通りです!」
天空商会とはいい取引相手として、マンガ事業の協力者として大切な相手であるため、お父上様は以前よりも手を回しているようだ。
で、それで仕事量が増えて家族との時間が少なくなっているというのが最近のお父上様の悩みとか。
「ゴホン、それよりもアーサーさま」
「えっ? どうしましたか?」
「その手に持っている本をよろしいでしょうか?」
あー、さっきからメルシエさんの視線が俺の下の方にいっているのは俺の持っているマンガのせいだったのか。分かってたけどね。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます! もうこれが僕の癒しですよ~!」
俺のせいで苦労させているのだからせめてランスロット家に来たら『叛逆の英雄』の最新刊を用意しているようにしている。
パスカルの鍛錬やベラの授業、グリーテンの魔法の授業がない時にしているが、特に問題なくマンガを作れている。
十三巻を受け取ったメルシエさんはすぐに食い入るように見始める。
応接間に設置されている棚には『叛逆の英雄』の一巻から十二巻まで置かれており、何ならランスロット家の屋敷の至る所にマンガが置かれている。
こんな状況を他の貴族に知られたらとんでもないことになりそうだから、情報規制はしっかりとされている。
このランスロット家が特殊なのかは分からないが、ランスロット家で働く人たちはすべてお父上様が面接して合否を出しているとか。
だから情報規制は特に問題なく行われている。
「ベラ、紅茶をお願い」
「かしこまりました」
集中してマンガを読んでいるメルシエさんにベラが紅茶を出して、俺もベラが淹れてくれた紅茶をもうこれなしで生きていけないと思いながら口にする。
隅々まで読んでいるメルシエさんを見て、少し時間がかかりそうだなと思いベラに紙とペンを用意してもらうように頼んだ。
今はアナログだが、もうそろそろでデジタルにしてもいい気がする。こうして紙とペンを毎回用意してもらうのももったいないわけだからな。
「ふぅ、満足……」
「満足してもらえて何よりです」
十三巻を読み終えて恍惚な表情を浮かべるメルシエさん。
「毎度毎度、アーサーさまがおかきになるマンガはすべてが惹きつけられる感じがします。ですから目が離せなくて最後まで読んで、余韻を楽しみ、次が楽しみになります……きっと最後まで読んだら達成感と、終わってしまった虚しさがあるんでしょうね」
あぁ、前世でもそういうのはある。何とかロスとかね。
でもこの物語の大部分は小説で知られているし、それを変えることはせずにちゃんと歴史を伝えている。
だからあまりそういう感情はないような気がするけど、それは人それぞれか。
余韻に浸っていたメルシエさんが余韻から帰ってきて、口を開いた。
「『叛逆の英雄』、かなり売り上げがいいですよ。頼んでおいた部数は一瞬でなくなります。もう初日と二日目なんて目じゃないです。留まるところを知りませんね」
「それは何よりです。でもマンガばかりに時間を費やして、他の商売は大丈夫なんですか?」
「あー、マンガに専念しないと相手が満足してくれないので大丈夫ですよ」
「どういうことですか?」
「相手からマンガを買い求める声が多く上がっているんですよ。もうマンガ専門商会になりつつありますね」
「それは……なんかすみません」
「いえいえ、いいことなんですよ。マンガがあれば他の商品も買ってくれるので、前よりも売り上げは伸びています。ただ、飛行船が一隻しかないのは痛いですけど、贅沢な悩みです」
やっぱりそうなっているのか。
「それなら僕が飛行船を作りましょうか?」
「……できるのですか?」
「僕なら可能です。どうですか? 今ならタダにしておきますよ?」
「……タダより高いものはありませんからね。少し考えさせてください」
「いつでも作りますから」
商人はこういうところでちゃんと考えてくるのか。食いついて来てもいいのに。
今じゃなくても何隻でも作るのに、こうして人材を紹介してくれるのならね。
それから面倒になった時とか色々動いてもらうことが条件になるけど。
「その話は少し持ち帰らせてください。慎重に考えたいので」
「慎重に考えることなんてないですけど……分かりました」
メルシエさんが欲しいと言えば、俺がポンっと出すというだけだ。
ポンっと出せば異常だから、少し時間をもらって飛行船を造船して渡すという流れだな。
その時はグリーテンに手伝ってもらって怪しまれないようにしよう。グリーテンくらいなら大丈夫だろという信頼感。
「それよりも、本題に入りたいと思います」
「はい」
俺だけを呼んだ場合、愚痴やら何があったのかを教えてもらうのだが、メルシエさんの雰囲気から何か用事があるのだと察していた。
「以前にアーサーさまにお願いされていた娯楽ギルドの件、三十人ほど集まりました」
「本当ですか!?」
最初だから少し時間がかかると思っていたけれど、三十人も集まってくれたのならいい方だ。
大々的に集めているわけではないだろうし、メルシエさんの判断もあるのにそれだけ集まるということは、この世界で娯楽ギルドは期待大だな。
「その人たちの情報がこちらです」
一人一枚で三十枚の紙がメルシエさんから渡されたけど……これを見て俺が判断しろということか?
「僕が判断すればいいんですか?」
「そうです。アルノさまはご自身の身内となるものをご自身の判断でお決めになられています。前からアルノさまから、こういうことになればアーサーさまにやらせてやってくれとお達しがきていますので、お願いします」
「分かりました!」
小さい頃から人を見る目を養えってことか? それにしては最初が文字だけで判断とか難易度が高くないか? 無理だろ。
前世でも書類審査からの面接があったんだから書類審査だけでは無理だろ。普通ならな。
メルシエさんもこんなもので判断できるとは思っていないだろう。
でも、紙を見ていると数人だけこいつは気に食わないという奴らがいた。
それは俺の全能が言っている。結局のところ、俺の全能は俺が能力を隠すことじゃなければ、十全に全能を発揮して、俺の望む通りになってくれる。目立たないこと以外にね。
「……この人たちが、少し嫌な感じがします」
全能で指摘された五人分の紙をメルシエさんに出した。
「そうですか? 僕は気にならなかった人たちですね。むしろこっちの人の方が怪しいと思います」
メルシエさんが言った人の経歴は色々なところを転々としたり、空白な期間がある女性だった。
「いや、この人は大丈夫ですよ。雇ってください」
でも全能が絶対に役に立つと言ってきているからそう言っておく。
「……そうですか。それならアーサーさまのご意向を組んで動いて行きます」
「ありがとうございます」
元々俺の意見を聞くくらいだったのだろうが、これで調べてくれたら俺の目がいいことになるだろうな。
こういうことは下手にヤバい奴が混じると最悪な状況になりかねないからな。
「そう言えば、アーサーさまは娯楽ギルドをお作りになって何をされたいのですか?」
「娯楽を広めることを中心にやってもらいたいんですけど、やっぱりマンガやアニメを作ってもらえるようにしてもらいたいですね」
「アニメ?」
アニメのことを聞いてメルシエさんが首をかしげた。
「アニメって言うのは、静止画を少しずつ変化させて連続させることで動いているように見える映像ですね」
首をかしげたままのメルシエさんに分かりやすいように俺は紙の右下に絵をかき始めた。そして紙を重ねていき簡単な絵を紙の右下にかいていった。
「紙の右下をこうやってしてみてください」
「はぁ……?」
対面に座っているメルシエさんにそうやって言って渡すと、怪訝な表情をしたメルシエさんが紙を受け取って素早く紙をめくっていくとパラパラマンガが完成する。
「うぇっ!? 動いてる!?」
驚きながらも食い入るようにパラパラマンガを見ているメルシエさん。
「一枚一枚は絵なのに、素早くめくるだけで動いているように見えてる……!」
「これがアニメの簡易版と言うんですかね。アニメはそれを何千、何万枚以上も連続させることで動いているように見せるもののことです」
メルシエさんは何回もパラパラマンガを見ていたが、手を止めて俺の方を見てきた。
「……結局、動く絵にするということですよね?」
「動画ですね」
「どうやってアニメというものを作るのですか? そもそもこれはマンガとは違うのですよね?」
そう、これはアナログではどうしようもないものだ。だからデジタルにしなければならない。
そこは俺の魔道具で何とかしないといけないし、それを放送するためのものも作らなければならない。
映画館のような場所を作って金をとるというものが今一番考えられる方法だ。テレビを売り出してそれでアニメを流してもいいが、それは後々の話だな。
「このアニメという動画はマンガのように売り出すことはできません。売り出すとしてもどこかでこれを流す場所を作り、見るためにお金を取るという商売方法になります」
家庭に見るためのデバイスが存在していれば円盤で売り出せるけど、そんなことをするよりかははるかにこちらの方が簡単だ。
「演劇みたいなものですか」
「はい。ですが演劇とは違って一度作り終えれば何度も流すことができて、それを操作する人がいれば簡単に商売はできますね」
「よく分からないですけど、なるほど……!」
こういうのは見てもらった方が一番早いけど、それができないのが現状だ。しようと思えばできるが、してはいけないというのが正しいか。
「それでメルシエさんにはこれを渡しておこうと思います」
俺はスマホを作り出してメルシエさんに差し出した。
メルシエさんはまたしても不思議そうな顔をしていたが、スマホの説明をするととても顔つきが変わった。
「これ、とんでもないものですね。商人からすれば喉から手が出るほど欲しいものです」
「それは相手がいないと何も意味がないんですけどね」
「それでもです。現時点で世界中のどこからでもアーサーさまに連絡が取れるようになったということですからね……これを売り出すご予定は?」
「今のところはありませんよ。物が物ですから」
「でしょうね。情報の有利性はどんな魔法よりも強いですから世界中から狙われることになるでしょう」
「そういうことです。ですからくれぐれも秘密でお願いします。そのせいでランスロット家が潰れる、ということになれば今後マンガの続きはかけなくなりますから」
ファンにとってはこれが一番ききそうだ。
これに協力してくれるメルシエさんだからこそ、渡しても問題ないと判断した。
少しずつだが前進していて、楽しくなってきた……!
成功して、失敗があるような言い方があるようだが、娘と息子によるプレゼントを前に涙腺を崩壊させていたのだから成功したと言えるだろう。
シルヴィー姉さんからは少しお高めなお酒を。
ルーシー姉さんからは手料理を。
俺からは『軽減の腕輪』を。
誕生日プレゼントを一人ずつ渡していたが、その度に涙を浮かべて泣いて、収まって次に行くとまた男泣きしたりとしていた。
こっちまでもらい泣きをしてしまいそうなくらいに泣いていたから、こういう誕生日も久しぶりだなと感じた。
ランスロット家の中で一番早い誕生日はお父上様で、ルーシー姉さん、俺、お母上様、シルヴィー姉さんの順番になっている。
そう、俺はもう少しで五歳になってしまう。五歳になれば社交界デビューが待ち受けているから五歳になりたくないんだよなぁ。
でも時間は誰もが平等に進んで行くものだからどうすることもできない。
「あれは……」
外を見るとこちらに向けて来ている天空商会の飛行船が見えた。
最近だと、半月から一ヶ月のペースでメルシエさんが来ているからまた来たのかと思うくらいであった。
天空商会は世界を回って仕入れてきたものをお得意様であるランスロット家に売っており、ランスロット家はそれをほとんど買い取っている。
ブリテン王国と停戦状態の国であっても、天空商会はそんなことお構いなしに向かっているから、メルシエさんたちの商人魂が見て取れる。
ただ最近だとマンガのことで忙しそうだと聞いたから、あまり他国には行ってない様子だった。
天空商会の移動手段はあの飛行船のみ。
分散して商売ができないというデメリットが付き纏うが、その代わりに一番安全な空の移動手段を持っているから襲われる心配がない。
ただマンガで忙しくなって他の商売がうまくできていないようなら、俺が飛行船を何隻か用意してもいいと思っている。
何隻か用意したところで、俺の無尽蔵な魔力しか消費するものはないからランスロット家に痛手は一切与えない。
どうせならグリーテンに手伝ってもらって速度重視の飛行船、防御重視の飛行船、反撃重視の飛行船とかを作ってもいい気がする。
「アーサーさま」
妄想を膨らませていると扉の前からベラの声が聞こえてきたことで、呼ばれたのだと理解した。
メルシエさんが来ても呼ばれない時があるが、まあ基本的には王都での出来事とか愚痴とかを聞かされている。
商売の話のときはお父上様はいるがほとんどの場合でお父上様の同席はすでにない。
「メルシエさん?」
「はい、応接間にいらっしゃっています」
「分かった」
ベラに言われて最新刊である十三巻を持っていつも通り応接間に向かい、応接間に入る。
「こんにちは、メルシエさん」
「こんにちは! アーサーさま!」
元気がいいメルシエさんがソファーに座っているのが目に入った。
王都で『叛逆の英雄』を天空商会から売り出しているせいで貴族たちから色々と聞かれて疲れていた、なんてことがあったが、今はかなり余裕が見られる。
「顔色、いいですね」
「いやぁ、ランスロット家が色々と手を回してくださっているのでこの通りです!」
天空商会とはいい取引相手として、マンガ事業の協力者として大切な相手であるため、お父上様は以前よりも手を回しているようだ。
で、それで仕事量が増えて家族との時間が少なくなっているというのが最近のお父上様の悩みとか。
「ゴホン、それよりもアーサーさま」
「えっ? どうしましたか?」
「その手に持っている本をよろしいでしょうか?」
あー、さっきからメルシエさんの視線が俺の下の方にいっているのは俺の持っているマンガのせいだったのか。分かってたけどね。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます! もうこれが僕の癒しですよ~!」
俺のせいで苦労させているのだからせめてランスロット家に来たら『叛逆の英雄』の最新刊を用意しているようにしている。
パスカルの鍛錬やベラの授業、グリーテンの魔法の授業がない時にしているが、特に問題なくマンガを作れている。
十三巻を受け取ったメルシエさんはすぐに食い入るように見始める。
応接間に設置されている棚には『叛逆の英雄』の一巻から十二巻まで置かれており、何ならランスロット家の屋敷の至る所にマンガが置かれている。
こんな状況を他の貴族に知られたらとんでもないことになりそうだから、情報規制はしっかりとされている。
このランスロット家が特殊なのかは分からないが、ランスロット家で働く人たちはすべてお父上様が面接して合否を出しているとか。
だから情報規制は特に問題なく行われている。
「ベラ、紅茶をお願い」
「かしこまりました」
集中してマンガを読んでいるメルシエさんにベラが紅茶を出して、俺もベラが淹れてくれた紅茶をもうこれなしで生きていけないと思いながら口にする。
隅々まで読んでいるメルシエさんを見て、少し時間がかかりそうだなと思いベラに紙とペンを用意してもらうように頼んだ。
今はアナログだが、もうそろそろでデジタルにしてもいい気がする。こうして紙とペンを毎回用意してもらうのももったいないわけだからな。
「ふぅ、満足……」
「満足してもらえて何よりです」
十三巻を読み終えて恍惚な表情を浮かべるメルシエさん。
「毎度毎度、アーサーさまがおかきになるマンガはすべてが惹きつけられる感じがします。ですから目が離せなくて最後まで読んで、余韻を楽しみ、次が楽しみになります……きっと最後まで読んだら達成感と、終わってしまった虚しさがあるんでしょうね」
あぁ、前世でもそういうのはある。何とかロスとかね。
でもこの物語の大部分は小説で知られているし、それを変えることはせずにちゃんと歴史を伝えている。
だからあまりそういう感情はないような気がするけど、それは人それぞれか。
余韻に浸っていたメルシエさんが余韻から帰ってきて、口を開いた。
「『叛逆の英雄』、かなり売り上げがいいですよ。頼んでおいた部数は一瞬でなくなります。もう初日と二日目なんて目じゃないです。留まるところを知りませんね」
「それは何よりです。でもマンガばかりに時間を費やして、他の商売は大丈夫なんですか?」
「あー、マンガに専念しないと相手が満足してくれないので大丈夫ですよ」
「どういうことですか?」
「相手からマンガを買い求める声が多く上がっているんですよ。もうマンガ専門商会になりつつありますね」
「それは……なんかすみません」
「いえいえ、いいことなんですよ。マンガがあれば他の商品も買ってくれるので、前よりも売り上げは伸びています。ただ、飛行船が一隻しかないのは痛いですけど、贅沢な悩みです」
やっぱりそうなっているのか。
「それなら僕が飛行船を作りましょうか?」
「……できるのですか?」
「僕なら可能です。どうですか? 今ならタダにしておきますよ?」
「……タダより高いものはありませんからね。少し考えさせてください」
「いつでも作りますから」
商人はこういうところでちゃんと考えてくるのか。食いついて来てもいいのに。
今じゃなくても何隻でも作るのに、こうして人材を紹介してくれるのならね。
それから面倒になった時とか色々動いてもらうことが条件になるけど。
「その話は少し持ち帰らせてください。慎重に考えたいので」
「慎重に考えることなんてないですけど……分かりました」
メルシエさんが欲しいと言えば、俺がポンっと出すというだけだ。
ポンっと出せば異常だから、少し時間をもらって飛行船を造船して渡すという流れだな。
その時はグリーテンに手伝ってもらって怪しまれないようにしよう。グリーテンくらいなら大丈夫だろという信頼感。
「それよりも、本題に入りたいと思います」
「はい」
俺だけを呼んだ場合、愚痴やら何があったのかを教えてもらうのだが、メルシエさんの雰囲気から何か用事があるのだと察していた。
「以前にアーサーさまにお願いされていた娯楽ギルドの件、三十人ほど集まりました」
「本当ですか!?」
最初だから少し時間がかかると思っていたけれど、三十人も集まってくれたのならいい方だ。
大々的に集めているわけではないだろうし、メルシエさんの判断もあるのにそれだけ集まるということは、この世界で娯楽ギルドは期待大だな。
「その人たちの情報がこちらです」
一人一枚で三十枚の紙がメルシエさんから渡されたけど……これを見て俺が判断しろということか?
「僕が判断すればいいんですか?」
「そうです。アルノさまはご自身の身内となるものをご自身の判断でお決めになられています。前からアルノさまから、こういうことになればアーサーさまにやらせてやってくれとお達しがきていますので、お願いします」
「分かりました!」
小さい頃から人を見る目を養えってことか? それにしては最初が文字だけで判断とか難易度が高くないか? 無理だろ。
前世でも書類審査からの面接があったんだから書類審査だけでは無理だろ。普通ならな。
メルシエさんもこんなもので判断できるとは思っていないだろう。
でも、紙を見ていると数人だけこいつは気に食わないという奴らがいた。
それは俺の全能が言っている。結局のところ、俺の全能は俺が能力を隠すことじゃなければ、十全に全能を発揮して、俺の望む通りになってくれる。目立たないこと以外にね。
「……この人たちが、少し嫌な感じがします」
全能で指摘された五人分の紙をメルシエさんに出した。
「そうですか? 僕は気にならなかった人たちですね。むしろこっちの人の方が怪しいと思います」
メルシエさんが言った人の経歴は色々なところを転々としたり、空白な期間がある女性だった。
「いや、この人は大丈夫ですよ。雇ってください」
でも全能が絶対に役に立つと言ってきているからそう言っておく。
「……そうですか。それならアーサーさまのご意向を組んで動いて行きます」
「ありがとうございます」
元々俺の意見を聞くくらいだったのだろうが、これで調べてくれたら俺の目がいいことになるだろうな。
こういうことは下手にヤバい奴が混じると最悪な状況になりかねないからな。
「そう言えば、アーサーさまは娯楽ギルドをお作りになって何をされたいのですか?」
「娯楽を広めることを中心にやってもらいたいんですけど、やっぱりマンガやアニメを作ってもらえるようにしてもらいたいですね」
「アニメ?」
アニメのことを聞いてメルシエさんが首をかしげた。
「アニメって言うのは、静止画を少しずつ変化させて連続させることで動いているように見える映像ですね」
首をかしげたままのメルシエさんに分かりやすいように俺は紙の右下に絵をかき始めた。そして紙を重ねていき簡単な絵を紙の右下にかいていった。
「紙の右下をこうやってしてみてください」
「はぁ……?」
対面に座っているメルシエさんにそうやって言って渡すと、怪訝な表情をしたメルシエさんが紙を受け取って素早く紙をめくっていくとパラパラマンガが完成する。
「うぇっ!? 動いてる!?」
驚きながらも食い入るようにパラパラマンガを見ているメルシエさん。
「一枚一枚は絵なのに、素早くめくるだけで動いているように見えてる……!」
「これがアニメの簡易版と言うんですかね。アニメはそれを何千、何万枚以上も連続させることで動いているように見せるもののことです」
メルシエさんは何回もパラパラマンガを見ていたが、手を止めて俺の方を見てきた。
「……結局、動く絵にするということですよね?」
「動画ですね」
「どうやってアニメというものを作るのですか? そもそもこれはマンガとは違うのですよね?」
そう、これはアナログではどうしようもないものだ。だからデジタルにしなければならない。
そこは俺の魔道具で何とかしないといけないし、それを放送するためのものも作らなければならない。
映画館のような場所を作って金をとるというものが今一番考えられる方法だ。テレビを売り出してそれでアニメを流してもいいが、それは後々の話だな。
「このアニメという動画はマンガのように売り出すことはできません。売り出すとしてもどこかでこれを流す場所を作り、見るためにお金を取るという商売方法になります」
家庭に見るためのデバイスが存在していれば円盤で売り出せるけど、そんなことをするよりかははるかにこちらの方が簡単だ。
「演劇みたいなものですか」
「はい。ですが演劇とは違って一度作り終えれば何度も流すことができて、それを操作する人がいれば簡単に商売はできますね」
「よく分からないですけど、なるほど……!」
こういうのは見てもらった方が一番早いけど、それができないのが現状だ。しようと思えばできるが、してはいけないというのが正しいか。
「それでメルシエさんにはこれを渡しておこうと思います」
俺はスマホを作り出してメルシエさんに差し出した。
メルシエさんはまたしても不思議そうな顔をしていたが、スマホの説明をするととても顔つきが変わった。
「これ、とんでもないものですね。商人からすれば喉から手が出るほど欲しいものです」
「それは相手がいないと何も意味がないんですけどね」
「それでもです。現時点で世界中のどこからでもアーサーさまに連絡が取れるようになったということですからね……これを売り出すご予定は?」
「今のところはありませんよ。物が物ですから」
「でしょうね。情報の有利性はどんな魔法よりも強いですから世界中から狙われることになるでしょう」
「そういうことです。ですからくれぐれも秘密でお願いします。そのせいでランスロット家が潰れる、ということになれば今後マンガの続きはかけなくなりますから」
ファンにとってはこれが一番ききそうだ。
これに協力してくれるメルシエさんだからこそ、渡しても問題ないと判断した。
少しずつだが前進していて、楽しくなってきた……!
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