全能で楽しく公爵家!!

山椒

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全能の爆誕

042:聖鎧。

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 お父上様の誕生日プレゼントである、所有者のあらゆる負担を八割軽減する『軽減の腕輪』を作り上げて、これでお父上様の誕生日を待つばかりになった。

 お父上様の誕生日の準備はお母上様が主体で準備をしており、俺は四歳だから特に準備をしていない。

 まあ四歳がなにかできるはずもなく、この状態が普通だと言えるのか。とはいえ、何もしないのは少しだけムズムズしてしまう。

「ん~……」

 だが俺にできることはないから邪魔にならないように大人しくしておくことにした。

 暇だからマンガをかいて時間を潰そうとしていたら、こちらにすごい足音を立てて来ている人物がいることに気がついた。

 その人がルーシー姉さんであることは足音ですぐに分かってしまう。

「アーサー!」
「ど、どうしたの? ルーシーお姉ちゃん?」

 もうすぐで九歳になるというのにまだまだ扉を乱暴に開け放つルーシー姉さんが入ってきた。

「なによあのお姉ちゃんの剣は!?」

 あー、そういうことで来たのね。考えてみればルーシー姉さんが黙っているわけがなかった。

「アロンダイトのこと?」
「そうよその剣よ! お姉ちゃんだけずるいわよ! しかもそれをお姉ちゃんが自慢げに私の前を何回も通って見せつけてくるのよ! 我慢ならないわ!」

 あー、それはシルヴィー姉さんも悪いな。でもそれだけあの剣を気に入っているということなのだろう。

「ルーシーお姉ちゃんも剣がほしいの? でもお姉ちゃんは創剣の固有魔法があるからいらないと思うんだけど……」
「そうだけど……あっ、それなら私には鎧をつくって!」
「鎧?」

 そりゃ剣とは訳が違うとわかっていますか? ルーシーさんよ。でも俺にかかればできるに決まっている。

「そう! もうあのお姉ちゃんの剣よりも格好いい鎧をつくって! 時間がいくらかかってもいいから!」
「……うーん、ちょっと作ってみるね」
「さっすがアーサー! ありがとう!」

 ここで断っていても駄々をこねるのは目に見えているから作らないという選択肢はないのだよ。

 それにしても鎧か……どうせだからアロンダイトと同じようにバフをこれでもかというくらいつけようか。

 プレートアーマーにするとして、色はさすがに鎧で虹色はないな。ルーシー姉さんが着ると分かっているから創剣と同じ金色でいいか。

「なにか要望はある?」

 前回のアロンダイトとは違い、今回は所有者になるルーシー姉さんがいるからルーシー姉さんに意見を聞いた方がより気に入ってもらえるだろう。

「うーん……あっ、マントがほしいわ!」

 えっ、何でそのチョイスにしたんだ? マントって邪魔なだけだろ。でもルーシー姉さんが言うんだからそうするか。

「マントだね。他にある?」
「あとは暑いときに涼しくなる機能がほしいわね」
「ふむふむ」
「あっ! どうせだから盾もほしいわね!」
「お姉ちゃん使えるの?」
「そ、それは今後の課題ということで……」

 どちらにしても俺が作ろうとしている鎧は邪魔にならないように収納できるようにする予定だからマントでも盾でもつけるにはつける。

「修復機能もほしいわね」

 それ、俺じゃなければ絶対にできない注文だって分かって言っているのだろうか、ルーシーお姉ちゃんは。

「他にある?」
「これくらいかしら。他はアーサーに任せるわ」
「うん、分かった」

 マントと冷却機能と盾と修復機能の四点がルーシー姉さんからの要望ね。ルーシー姉さんに聞かなければつけることがなかった機能だから聞いていて良かった。

「どれくらいで作れそう?」
「あまり時間はかからないと思うよ」
「まさか一日で作れそう?」
「一日もかからないと思うよ。たぶん一時間で終わると思う」
「そんなに早いの?」
「素材から作るわけじゃないからね。今から作るよ」
「見ててもいい?」
「そんなに面白い物じゃないけど、いいよ」

 ルーシー姉さんが見ている中で鎧を作り始めることにした。

 まあ何の能力を付けるかというところを考えるのが一番時間がかかるくらいか。それを考えれば後はデザインを考えて終わりだな。

 収納機能、修復機能、冷却機能、魔法耐性、物理耐性、衝撃耐性、回復機能などなど、アロンダイト並みに考えれるだけの能力を上げていく。

 アロンダイトは攻撃特化にしていたが、反対にこの鎧は防御特化にすることにした。

 能力を考えることができたから、次にルーシー姉さんに鎧のデザインを見てもらうことにした。

「こんなのでどうかな?」

 金色に輝く籠手を作り出してルーシー姉さんに見せた。

「わぁ……つけてみてもいい?」
「うん、いいよ」

 目を輝かせているルーシー姉さんの手が通るように手が通る場所が開き、ルーシー姉さんが腕を通すと籠手がフィットする。

「……これ、すごくいいわ。何の違和感もない」
「籠手の装飾とかは問題ない?」
「もう完璧よ! これでお願い!」
「ん」

 満足してもらえて良かったから、次々と鎧を作り上げていく。足元から順に生み出されて行き、ルーシー姉さんが着ている籠手以外の鎧が完成した。

「……ねぇ、アーサー」
「なに?」
「これ大きくない?」

 作り上げた鎧はルーシー姉さんでは大きすぎて、成人男性くらいが着る大きさだ。

「これくらい大きくならないと着ちゃいけないってこと? こんなにカッコいいのに」

 少しだけ絶望しているルーシー姉さんに俺は説明する。

「違うよ、さっきその籠手を着た時にルーシーお姉ちゃんの大きさに合わせるように大きさが変わったでしょ? それもこの鎧でできるんだよ」
「えっ⁉ ということは私が大きくなってもその都度大きさが変わって鎧を着ることができるってこと⁉」
「そうだよ」
「アーサーはやっぱり天才だったのね!」

 いや、そうじゃなかったら何回も作らないといけないことになるからさすがにそこは考えていた。

「これ今着たいわ!」
「ちょっと待ってね、今収納するから」

 鎧の胸部にランスロット家の紋章が描かれている部分があり、そこに触れて収納の意志を示すと鎧は音もなく消え、ランスロット家の紋章がかかれた手のひらサイズの丸いプレートだけが残った。

「あれ? 鎧は?」
「この中だよ。この中に鎧が収納されているから、このペンダントをかけてみて」
「これに……?」

 丸いプレートがついたペンダントを受け取ったルーシー姉さんは訝しげな表情を浮かべながらペンダントを首にかける。

「これでどうするの?」
「鎧が出てくる想像をしてみて」
「うーん……」

 目を閉じて眉間にしわを寄せているルーシー姉さんは、瞬く間に金色の鎧を纏っていた。

「……あれ? もしかして私鎧を着てる?」
「うん、バッチリ着ているよ」
「……なに、この着心地が抜群な鎧は? もうこのままでも寝れるわよ」

 鎧を纏っているルーシー姉さんは心底満足している様子だった。

「それで次は反対に鎧がそのペンダントに収まる想像をしてみて」
「こう?」

 するとルーシー姉さんの鎧は音もなくルーシー姉さんから消えたことで、ルーシー姉さんはすごく楽しそうな表情を浮かべる。

「これすごいわね! このペンダントがあれば一瞬で着れるじゃない!」

 もう習得したのか、ルーシー姉さんは鎧を出したりしまったりを繰り返している。

「マントとか盾とかも思い浮かべれば出てくるようになっているから」
「……本当だ! どういう仕組みなの⁉」
「……僕にも分からないかな。こうしたいと思って作ってるから……」

 どうせルーシー姉さんに説明したとしても意味がないと思うからこうしてぼかしておく。

「創剣!」

 鎧を着た状態で金色の剣を作り出したルーシー姉さん。

「どう? カッコいい?」
「うん、決まっているよ!」
「そっか……ありがとう、アーサー」

 ルーシー姉さんは鎧と剣を消して俺にお礼を言ってくる。

「それで、この鎧の名前は?」
「……考えてなかった」
「じゃあアーサーがつけて」

 えぇ……名前を付けても言われてもな。アロンダイトの時はランスロットが持つ剣がアロンダイトだからそう付けただけで、ランスロットの鎧の名前なんかないから俺が考えないといけない。

「なら……聖なる鎧で聖鎧せいがいでどうかな?」
「聖鎧……いいわね。それにするわ!」

 あぁ、適当につけた割には気に入ってもらえて何よりだ。

「じゃあシルヴィーお姉ちゃんに自慢してくるわね! これであんな剣も目じゃないわよ!」
「あっ、ちょっ――」

 ルーシー姉さんは聖鎧を纏ってそのまま部屋から出て行ってしまった。

 ああなれば絶対にシルヴィー姉さんと衝突するのは目に見えているのだが……まあそこは誰かに止めてもらおう、主にお父上様に。

 あれ? よく考えればお父上様の悩みの種って俺だけじゃなくないか? シルヴィー姉さんとルーシー姉さんも婚約者とかそういうので問題があるとかってグリーテンさんから聞いたけど……。

 この『軽減の腕輪』、八割で足りるかな? 十割にしたらさすがに人として生きていけない気がしてやめているが、十割以外だったら変わらない気が……いや考えないようにしよう。
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