全能で楽しく公爵家!!

山椒

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全能の爆誕

040:ベラと分身。

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「アーサーさま、一体どういうことですか?」
「いや、そのぉ……」

 見慣れたメイド服ではなく、普段着だから新鮮だと思いながらも、それを口にしたら間違いなくもっとキレられると思って黙っておく。

 今現在、喫茶店のような少しこじゃれた場所でベラと面と向かって座っている。

 紅茶を頼んだが、やはりベラの淹れた紅茶の方が何万倍もいいと感じてしまう。前世ではコーヒーの差さえあまり分からなかったのに、これはベラがいないといけない体になってしまったのか。

「答えてくださらなければ分かりません」
「いや、そのね? 少し遊びに行きたいなぁって思って」
「お一人でですか?」
「ま、まぁ、そうとも言うかな」
「別の言い方があるのですか?」
「ほら、ちょっと遊びに行くのに誰かを連れて行くのは少し心が痛むから……」
「アーサーさま」
「はい」

 いや、すっごく怖いんだけどこのベラ。たぶん今までこんな雰囲気を出したベラを見たことがないぞ。

「アーサーさまも遊びに行きたがるお年頃なのでしょう。ですがアーサーさまはご自身の立場を理解していただけなければなりません」
「はい……」
「アルノさまもアーサーさまのことがご心配ですから許可をお出しにならないのでしょう。それでも何が起こるか分からない場所でお一人でおられるのは危険です」
「で、でもランスロットの屋敷がある街だよ? そんなに危険じゃないよね……?」
「確かにアルノさまが街を整備されています。ですが危険がなくなったわけではありません」
「今日軽く見たけど、そんな感じはしなかったけどなぁ……」
「今日は良くても、明日何か危険なことが起きるかもしれません」

 それを言い出したら本当にキリがないと思うけど、まあベラが俺のことを心配してくれているのは分かる。

 というかどうやってベラは俺のことが分かったんだ? そもそもベラは今日休みじゃなかったはずだ。それなのにどうして街に普段着でいるんだ?

 えっ、もしかして俺の人形がバレた? それはかなりヤバいな。

「アーサーさま、これはメイドの私には過ぎた感情なのかもしれませんが、アーサーさまの身に何か起こってしまったら、もう私は生きていけません。あなたさまは私のすべてです。ですから、危険なことはもうおやめください」

 ……ベラにどうしてそこまで想われているのか分からないけど、ベラの気持ちが本物なのは分かる。

 それに泣きそうな顔でこちらを見てきたら何も言い訳ができなくなる。はぁ、もう少しランスロット家の次期当主という立場を考えた方がいいのか?

 でも全能の俺からすれば例え死んだとしても生き返ることができるし、何かケガをしても一瞬で治すことができるこの身に何かある状況がまずあり得ないと認識している。

 だけどそれが分かっていない人は本当に心配してくれているから、全能をバラさない以上そこを考えるべきだ。

「……うん、ごめんね」
「分かってくださって何よりです」

 まあ俺が四歳だからというところが一番なのだろう。これがルーシー姉さんの年齢だとまだ分からないが、四歳が一人で外に出るとか普通に危ないな。

「約束してください、もう二度と危険なことをしないと」
「……あー、うん。約束する」
「その心配になる間は何ですか? もし危険なことをするのなら、私も一緒です。それだけは約束してください」
「えっ、ベラが一緒だったら街にいつでも出ていいってこと?」
「おやめください」

 ちっ、ベラと一緒なら行けると思ったけど、さすがにそこまで甘くはないか。

「ですが、もしも今回のように我慢できないと仰られるのなら、お一人で行かれることは危険ですので私が付き添います」
「ホント!? それなら明日も行き――」
「アルノさまにご報告させていただきます」
「じょ、冗談だって」

 あれ? ということは今日のことはお父上様に報告しないってことか?

「今日のこと、お父さんに報告しないの?」
「そんなことをすれば、大騒ぎになりますし、アーサーさまが自由に動けなくなる可能性が出てきますので、今回はご報告はしません。」

 あー、そういう感じに考えているのかベラは。

「そっか、ありがとう」
「その代わり、約束はお守りになってください」
「分かった、何かする時はベラに言うよ」
「ありがとうございます」

 何だかんだ言いながらも俺に甘いベラ。すっごく好きだぜ!

「それよりも、どうしてベラは僕のことが分かったの?」

 今回俺の魔法がバレたのは二回。そのうちの一回は魔眼によるものだったが、ベラはその力は持っていないはずだ。俺の魔法は俺ではなく相手の認識を誤解させることだから早々にバレるものではない。

「……教えません」
「えぇー、教えてよ」
「お教えになられれば、対抗なさるおつもりでしょう?」
「そんなことしないって。さっきベラと約束したからもうベラをだまさないよ! 僕がハッキリと認識できる魔道具を作るから!」

 ベラにはな。他の人をだますかもしれないが。

「……分かりました。ではまず魔道具をお願いします」
「了解!」

 ちなみに魔道具の件は俺が飛行船を直した時に魔道具がそれとなく作れるとぼかしてお父上様やベラに伝えている。

 まだ今のところグリーテンさんは口を滑らせていないようだから安心だ。

 俺はベラにアリスの魔眼と同じ機能ようで、実際は俺がどう足掻いても真実を映し出す眼鏡を作り上げた。それをかけたベラは、俺の姿が認識できたのか眼鏡をはずした。

「間違いなく魔道具でした。……未だにアーサーさまが魔道具を自在に作り出せるとは信じられませんが」

 ベラが眼鏡をかけている姿がかなり良かったからずっと眼鏡をかけてほしいと思ったが、今はとりあえず言うのをやめておくことにした。

「それじゃあ教えてくれる?」
「はい。においです」
「……におい?」
「はい。においです。そもそもアーサーさまの部屋にいた何かからアーサーさまのにおいが全くしなかったので急いで休みを取って街を探しに来たところ、アーサーさまのにおいがした子供がいたので歩き方などでアーサーさまだと気が付きました」

 ……えっ? においってマジで言っているのか? さすがににおいまでは誤魔化していなかったが、まさかにおいでバレるとは思わなかった。

 というかベラは俺のにおいをもう覚えるくらいまで知っているということだよな? どんだけ俺のことが好きなんだよ。それともそれもメイドのお仕事ですかぁ?

「お部屋のアーサーさまは何なのですか? においを除けば返答や動きなどすべてがアーサーさまでしたが……」

 あー、これはどう説明したものか。ドッペルゲンガーはさすがに通じないし、幻覚と言った方がいいのか……?

「アーサーさま、正直に仰られるのなら、私が融通を利かせることも可能です」

 何だか幻覚と言っても信じてもらえそうにないな。だけどここでベラに話したとして、ベラの分身も作り出せば二人でデートすることができるというわけだ。

 それならここは話した方が本当に色々と融通を利かせてもらえそうだ。

「それはね、僕の分身を作り出したからだよ」
「分身、ですか?」
「そう。僕そっくりとかじゃなくて、もう一人の僕と言っても過言ではないけど……においまでは一緒にできなかったみたい」

 今度から本当にそこら辺を気を付けよう。二人の姉なら看破してきそう。

「それでは私をもう一人作ることも可能なのですか?」
「できるよ」
「それでは、お願いしてもよろしいですか?」
「えっ? う、うん、いいけどここで?」
「大丈夫です、ここら辺には幻覚魔法の結界を張りましたから」

 あっ、ホントだ結界が張られている。完璧メイドのベラは魔法も使えるとは、恐れ入る。

「じゃあ作るね」
「お願いします」

 俺の横に今の目の前にいるベラと同個体を作り出していく。本来この能力は相手のことをすべて知らないと再現できない代物だが、そこら辺は今ここにいるベラをスキャンして俺に情報が介入する前に形になっていく。

 だってこうしてベラのことを知ってもベラに失礼だし、ベラのことを知りたければベラの口から聞きたいと思っているからな。

 そうして作り出されたのは、正面に座っているベラと全く同じベラが俺の横に座っていた。

「……驚きました、本当に全く同じなのですね」
「うん、これで大丈夫?」
「いえ、少しお待ちください」

 そう答えたのは隣に座っているベラだった。

「私はどう見えているかしら?」
「……魔力の塊として見えているわね。この魔道具でも判別は可能よ」
「それは良かったわ」

 うん? 正面のベラが看破する眼鏡をかけて俺の作り出したベラの分身が分かるのかを試していた。しかも隣のベラもそれを分かっている。

「アーサーさま、今の私は数刻前の正面の私から生み出したという認識で間違いありませんか?」
「う、うん、そうだよ……?」

 それ以外に何があると言うんだ……いや、これはバレているな。

「それならば、アーサーさまはアーサーさまの意志でどの私も作れることが可能、ということですか?」

 正面のベラからそう言われたから、間違いなくバレている。そもそも魔道具で分身を確認することを意思疎通なくやっている時点で分かっていたことだ。

「その人のことが分かっていれば、できるかもしれないけど……」
「でしたら、決して過去の私を作り出すことはおやめください」
「それはアーサーさまも私も誰も得はしませんから」

 正面のベラと隣のベラからかなり念を押されたが……そんなに言われたらかなり気になってしまう。

 ベラにとっての黒歴史なのか、それともその時のベラを見られたら嫌なのか。まあベラが嫌だと言うんだからやらないし、そもそもやるつもりはなかった。

「うん、分かった」
「ありがとうございます」
「それでは私を戻してください」
「うん、ありがとう」

 隣のベラを消そうとしたが、分身とは言えベラを消すことにためらいを覚えてしまった。

 俺自身を消すのは別に何の躊躇もないが、分身でも大切なベラだ。消しても本体も分身も何も思わないだろう。でもためらってしまう。

「アーサーさまが何も思われることなどありません。私は所詮人形ですから、そこに人の情などいりません」
「……うん」

 隣のベラにそう諭されてベラを消した。

「アーサーさま、ありがとうございます。分身の私まで大切にしていただいて。ですが本当に不必要な感情ですから」

 あぁ、こうやって思うんだったら分身を作らなければ良かった。

 でも俺自身の分身を消すことに何らためらいがないのだけは救いだ。
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