全能で楽しく公爵家!!

山椒

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全能の爆誕

025:この直感を運命と呼ぶのだろうか。

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 今、俺はランスロット家ご自慢の庭園で歩いていた、クレア・サグラモールさんと一緒に。

 出迎えの時に少し波乱があったが、そこから俺とクレアさんを二人にして様子を見ることになった。

 それにしてもこちらは四歳で向こうは六歳。四歳と六歳で何を話せって言うんだよ、遊びの相性でも見るのか?

 それにクレアさんはこちらの言葉に応えはするが、それ以外一切口を開こうとしない。

 あの個性が強い家族の中で、個性が薄い、いや存在感があまりないのが少し違和感を覚える。まるでクレアさんだけが家族ではないと、そういう立ち位置だ。

 並んで歩いているクレアさんを見ると、前を見ているがどこか違う場所を見て、何もかもに絶望しているような光のない瞳。

 そんな彼女に何を話しかけたらいいのか、悩んでしまうが決して話したくないという訳ではない。六歳の女の子が、こんな目をしていい訳がない。六歳とかアホやったり何も考えずに頼む年頃だ、ルーシー姉さんみたいに。

 そう考えたらクレアさんを打算なしに楽しませたいと思ってしまった。

 何より、クレアさんを一目見た時から、胸がドキッとしてしまった。

 運命の出会い、なんて考えたことがないし前世でもそういうことはなかった。

 それなら一目惚れかとも思ったが、そうではないらしい。

 この子が欲しい、この子が俺に必要だ、絶対に逃がすな、そう俺の直感なのか、俺の本能なのか、クレアさんと出会ってずっと叫んでいる。

 こんなことは初めてだが、とにかく婚約者なのだから仲良くなっても損はない。

「クレアさん、ランスロット家のご自慢の庭園はどうですか?」
「とても素晴らしいものだと思います。伯爵家で、しかもお父さまがあれなのでサグラモール家では見られない光景です」

 エリオットさん……家でどういう様子で過ごしてた、娘二人にこう思われるのですか?

「あそこに座りましょうか」
「はい」

 ちょうどいいところにガゼボがあったから、俺とクレアさんは座る。

 俺はクレアさんのことを見ているが、クレアさんは俺のことを中々見てくれない。見てくれてはいるが、視線を合わせたらすぐにそらしてしまう。

 とりあえず彼女がどう思っているのかを知りたいから何でもない会話から入るか。

「アーサーさま」
「どうしましたか?」

 口を開こうとした時にさっきまで話し出そうとしていないクレアさんの方から声をかけてきたことで俺は驚いたが少し嬉しかった。

「こんな私のために時間をお使いになられないでください」
「……どういうことですか?」
「私はお姉さまみたいな周りを魅了する才能も、お父さまみたいな頑丈な体も、お母さまみたいな悪魔のような美しさもありません。こんな私が、公爵家の、それもランスロット家の長男であるアーサーさまに嫁ぐなど考えられません。アーサーさまが仰っていただければこの婚約はなかったことになると思います。私よりも、ノエルお姉さまをお選びください」

 ……あー、つまりクレアさんは自分のことが大っ嫌いということか。

「アーサー・ランスロットのお嫁さんは、才能がある人の方がいいということですか?」
「はい。ノエルお姉さまならともかく、才能がない私には笑い種にされるのが精々です」

 俺から見れば誰だろうと才能があるのかないのか分からないレベルだ、とか言いたいんだがあるのかないのかは分かる。

 絶望した瞳は、周りと比べられて、自分に何もできないと絶望したからか? 全く、才能がある人が才能がなくてもいいと言っている気持ちがようやく分かった。

「クレアさんにとって、才能とはどういうものですか?」
「その人が生きるために頼る道標です」
「それなら才能がない人は生きることができないと言っているのですか?」
「そういうことではありません。才能がなくても生きていけます。ですがその道は凡人に至る道です」
「努力してもダメなんですか?」
「才能がある人も努力しています。結局のところ、才能が左右されます」

 全能である俺に誰も勝てないという理論だな。まあ合ってる。

 それにしても六歳がよくここまで難しいことを喋る。努力していることがよく分かる。

 だからこそ、俺はクレアさんが欲しい。

「クレアさんはお姉さんみたいな才能があったら、どうしてました?」
「無駄な仮定です」
「それならエリオットさんみたいな肉体があったら、どうしてました?」
「それも無駄な仮定です」
「それならゾーイさんみたいな美貌があったら、どうしてました?」
「先ほどから意味の分からないことを仰らないでください。すべて無駄です。今の私が変わることはありません」
「まあ、そうですね。クレアさんはクレアさんです。そして、僕はそんなクレアさんが欲しいと思っています」
「……ご冗談を」
「いいえ、本気です」

 こういう人には真っ向から気持ちを伝えに行くに限る。でもひねくれているから素直に受け取ってくれるかは別だ。

「ではアーサーさまにどのようなメリットがあるというのですか? サグラモール家ごとき、財産ですらランスロット家の足元にも及びません。才もない、金もない、美もない、こんな私を欲しい? 質の悪いイタズラですか? それともお父さまとお母さまがアーサーさまのお父さまとお母さまと仲がいいから、憐みのつもりで仰られているのなら、おやめください。もっと惨めになります」
「僕は別に憐みで言ったつもりはありません。むしろその方がエリオットさんから怒られると思いますが、間違ってますか?」
「……いいえ、怒ります」
「なら憐みはなくなりました。イタズラをしたとして、エリオットさんの娘であるクレアさんにそんなことをしたと僕のお父さんとお母さんに知られたらまず間違いなく怒られます。これでイタズラもなくなりました。あとは――」
「もういいです。どうして私を欲しいのか、その理由を仰ってください」

 俺の言葉を全く信じようとしていない疑惑の瞳のクレアさん。

 ていうか俺もこんなこと前世ですらしたことがないんだから少し恥ずかしいんだぞ? 少しは優しくしてくれ。

 そしてどうしてかと理由を聞かれて、全能ですぐに解を出してみるとそうなのかと思ってしまった。

 ダメだな、この全能に頼るの。癖になってしまいそう。何も考えずに済むから。

「クレアさんの才能が、欲しいんです」
「……それこそ、ひどい冗談です」

 クレアさんのその顔は、怒っているような、悲しんでいるような、そんな表情をしていたが、俺は言葉を続ける。

「この世で普通に生きてくのなら、クレアさんは何の才能もありません。これは事実だと思います」
「はい」
「ですが、僕の目標に必要な才能を持っているのはクレアさんです。だから、クレアさんが欲しい」
「……イマイチ分かりません。その才能を、教えてください」
「娯楽の才能です」
「……娯楽の才能? よく分かりません」

 いきなりそんなことを言われてもそうなるわな。

 まぁ口で説明するのも時間がかかるから、空間魔法で魔方陣から取り出したように見せかけてゼロから紙とペンを作り出した。

「空間魔法……」
「今、僕が取りかかっている娯楽はマンガです。他にも考えている娯楽はあるのですが、娯楽を作る手伝いをしてほしいのです」

 俺はテーブルに紙を置き、『叛逆の英雄』の一ページをかき始める。インパクトがほしいからまだかいていない主人公が神の攻撃をものともしない激しいシーンをかく。

「これは……」

 クレアさんは食い入るように俺の手元を見ていたが、一ページだからすぐにかき終えることができた。

「これがマンガです」

 かき終えたマンガをクレアさんに渡すと、クレアさんはマンガを見てより一層目を腐らせていた。

「アーサーさまは素晴らしいです。これほど上手に絵をかけ……ノエルお姉さまにも一目見られただけで気に入られました。とても才能をお持ちなのでしょう。……本当に私とは違って」

 いやぁ、ここまでやさぐれているとは思わなかった。六歳でこんなのだったら成人したらどうなってしまうのだろうか。

「何を言っているのですか? クレアさんもこれをかけるようになりますよ。というかクレアさんは僕が必要な才能を持っています」
「……会って間もないアーサーさまに、何が分かるのですか?」
「さぁ、どうしてでしょうね?」

 何故かと聞かれれば、人を見る才能があるから分かるのだと言うしかないが、それを言ったところで信用はしないだろう。それなら別の切り口から行くしかない。

「手芸、得意ですよね?」
「……お母さまから、聞いたのですか?」
「それに自作の小説があるとか」
「……お姉さまですか?」

 少し頬を赤らませているクレアさんを可愛いと思いながらも、言葉を続ける。

「それから努力家ということ。そんなあなただからこそ、僕はあなたが欲しいんです」
「うっ……」

 何度目かの『あなたが欲しい』宣言で、クレアさんはたじろいてくれた。

 ここまで長々と話して無表情で拒否されたらもう俺は立ち直れなかったと思う。

「ダメですか?」
「うっ……で、ですが、アーサーさまの隣に立つには、私は地味すぎます」
「あなたを笑うものがいるなら、僕がぶっ飛ばします」
「あ、アーサーさまが欲しい才能が私にあったとしても、私を婚約者とする必要はないかと思います。ランスロット家に私のような凡人をいれることは、ランスロット家として恥だと、思います」
「才能とか、そういうことはどうでもいいんですよ。あなたが才能がないとしても、僕があなたを補います。それが夫婦だと思いませんか?」
「うっ……で、ですが――」

 あー、こうやってものすごくあなたが必要だと言っているのにうだうだ言ってくれる。本当に六歳なのか? 人のこと言えないけど。

 だから俺はクレアさんの両手を両手で包み込み、さっきから視線を合わせようとしないクレアさんに真っすぐな視線を向ける。

「これで最後です。お姉さんでも公爵家のご令嬢でもなく、クレア・サグラモールのあなただから僕の元に来てほしいんです」

 俺の渾身の告白を受けたクレアさんは、目を泳がせて口をパクパクさせ、ついには頷いてくれた。

「わ、分かりましたからぁ……今すぐ手を放してくださいぃ……」
「ありがとうございます! クレアさん!」

 ふぅぅぅぅぅぅ、全能の力がなかったら俺はもう恥ずかしさで死んでいたぞ。
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