全能で楽しく公爵家!!

山椒

文字の大きさ
上 下
24 / 109
全能の爆誕

024:サグラモール家。

しおりを挟む
 ついに、ついにこの日が来てしまった。とうとう生まれて初めて婚約者というものに出会う。

 もうそこまで来ているサグラモール一家をお出迎えするために準備万端で屋敷の前に家族揃って立っていた。

「緊張してる?」
「少しだけ、してるかな」

 隣にいるルーシー姉さんにそう問いかけられるが、まあ前世では結婚していなかったわけだから緊張してしまう。

「大丈夫よぉ、クレアちゃんは真面目でいい子だって聞いたわよぉ?」
「うん……」

 そういうことで緊張しているわけではないのだ。ただ婚約者という相手が初めてだから緊張しているだけに過ぎない。

「ノエルがアーサーに何かしたら……ぶん殴るわ」
「やめなさい~」
「いたっ」

 むしろこちらの姉たちが何かしないかと心配になってくるのだが。

 それにしてもノエル? ルーシー姉さんが知っているということは俺以外の家族は知っているのか?

「みんな、来たよ」

 お父上様の言葉で前を見ると複数の馬車が見えた。そのうちの一つの馬車はこちらにゆっくりと進んできて、横を向いて止まる。馬車の横には燃え盛る炎に剣先が下を向いているサグラモールの家紋があった。

 そして扉が開けられるや否や、誰かが飛び出してきた。

「スザンヌ!」
「ゾーイ!」

 飛び出してきたのは透き通った長い白髪を持ってその髪に相応しい白い肌の女性がお母上様の方に走りだし、お母上様もその女性に駆け寄って抱き合った。

「久しぶり! スザンヌ! 元気にしてた?」
「してたわよ~。ゾーイはぁ?」
「私も見ての通り元気よ! あぁ~、スザンヌの匂いがする~」
「もぉ、まだそんなことをしているのぉ?」
「私がおばあちゃんになってもずっとする自信があるわよ」

 お母上様とゾーイと呼ばれた女性は百合百合しく仲良くしているのを他所に、馬車から一人の男性と二人の女の子が出てきた。

「アルノ、久しぶりだな」
「あぁ、久しぶりだね。エリオット」

 むさくるしいという言葉が一番最初に出てくるような、服の上からでも分かるほどの筋肉を持った男性がお父上様と力強い握手を交わした。

「見て、あそこはむさくるしくて嫌になるわね」
「本当にゾーイは男らしさが嫌いなのねぇ」
「男らしさなんて嫌になるわ!」

 お母上様に抱き着きながらお父上様とエリオットと呼ばれた男性のことを見て顔をしかめるゾーイと呼ばれる女性。

「やっほー! シルヴィー! ルーシー!」
「相変わらず元気」
「ノエル、こっちに近づいてこないでよ」

 ゾーイと呼ばれる女性とよく似て、髪が肩まで伸びていることと幼さくらいしか変わったところがない女の子が両手をわしゃわしゃしてシルヴィー姉さんとルーシー姉さんに近づこうとするが、ルーシー姉さんが拒否している。

 そして一番この中で主張がなく、地味と言った方がしっくりと来る長い茶髪の女の子が一歩引いて感情のない目でどこかを見ていた。

 俺の婚約者は次女だと聞いているからおそらくクレア・サグラモールがこの女の子だろうなと思っていると、エリオットと呼ばれる男性がこちらに来た。

「初めまして、とは言ってもお前が小さい頃に会ったことがあるから初めましてではないが、一応初めましてだな。俺はエリオット・サグラモール。アルノとは王立聖騎士学園からの仲だ。よろしく」
「初めまして。ランスロット家の長男、アーサー・ランスロットです。こちらこそよろしくお願いします」
「そんなに堅苦しくなくていい。俺とアルノ、というかゾーイとスザンヌ、それに他にもいたが、学園の頃からずっとつるんでいてお前のことは甥っ子みたいに感じているから遠慮するな」
「そ、そうですか……それでは遠慮しないようにします」

 こういう感じの人なのかと納得していると、シルヴィー姉さんとルーシー姉さんの方にいたノエルと呼ばれる女の子がこっちに来た。

ていうか何だか見たことがあると思ったら来てたわ。俺が赤ん坊の頃、結構色々な大人と接触していたからな。

シルヴィー姉さんとルーシー姉さんのところにいた女の子がこちらに来た。

「むさくるしいお父さま」
「むさくるしいは余計だ。何だ?」
「お父さまには用はありません、そこをどいてください」
「最近俺の扱いが酷くないか?」
「そう思われているのなら何よりです。むさくるしいのは嫌いなので」
「……アルノ、俺はどうしたらいいんだ?」
「……まぁ、そういうお年頃なんじゃないのかな? 諦める方が気は楽だね」
「お前はいいだろうな。爽やかなんだから。一回でもいいから体を交換してやりたいよ」
「お断りするよ」

 俺の前にいたエリオットさんはお父上様の方にトボトボと歩いて行き、俺の前にノエルと呼ばれる女の子が来た。

「私はノエル・サグラモール。あなたは?」
「アーサー・ランスロットです」
「ふーん……」

 ノエルさんは俺を値踏みするような視線を向けてくる。別にこの人に気に入ってもらいたいとは全く思わないから気に入られなくてもいいから早く終わらせてほしい。

「ふーん、私みたいな人間もいたんだ……」
「えっ?」
「私ね、男らしい、醜い、才能がない人、才能を上手くいかそうとしない人みたいな人たちが大っ嫌いなんだよね。お父さまもね」
「……エリオット、家でもこんな感じなのかい?」
「……こんな感じだ」
「……晩酌、付き合うよ」
「……頼む。たらふく飲んでやる」

 いや、普通にエリオットさんが可哀そうなのだが。それにどうしてこんな好き嫌いを話し始めたのだろうか。

「キミは……そう、例えるならば太陽と言ったところかしら。太陽がないと人は生きていけないし、それが中心に回っている、そんな感じね」

 えっ、これは褒められているのか? 褒められているのならべた褒めな気がするんだが……。

「お父さま、私の結婚相手はこのアーサー・ランスロットにします」
「いや待て。お前はサグラモール家を継がないといけないだろ。それにアーサーはクレアと婚約するんだから」
「いいじゃありませんか、サグラモール家が潰れて。それにクレアと私、両方アーサー・ランスロットの元に嫁ぎます」

 ノエルさんは俺を抱き寄せてエリオットさんにそう言い放ったことで、辺りは衝撃が走った。

「笑止千万。しばらく会わない間にバカになった?」
「あんたみたいな女がアーサーを幸せにできるわけないわよ! 自己中心女のくせに!」
「アーサーくんのお嫁さんになったらシルヴィーとルーシーがお姉ちゃん? それならがぜんお嫁さんになりたくなってきた~」

 ノエルさんとルーシー姉さんがが俺の取り合いをしてシルヴィー姉さんはノエルさんを引っ張って俺から離そうとしているが、さすがにやめてほしい。というかノエルさんのこの感じ、グリーテンみたいだな。

そういうのは間に合っているんだよなぁ。十分です。

「まさか……ノエルが気に入るなんて」
「そうよねぇ、あの才能主義のノエルちゃんが一目見ただけで太陽って言うだなんてぇ、もうアーサーとしか結婚する気がないんじゃないのぉ?」
「それは勘弁してほしいぞ、全く」
「だけどいいことじゃないか。アーサーがいることは、少なくともノエルに結婚する気はあるということになるね」

 大人たちは大人たちでノエルさんのことで何やら話しているし。

 だが、ただ一人だけこの状況で一切関わっていないクレアさん? はこちらを少し羨ましそうな目で見ていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

流石に異世界でもこのチートはやばくない?

裏おきな
ファンタジー
片桐蓮《かたぎりれん》40歳独身駄目サラリーマンが趣味のリサイクルとレストアの資材集めに解体業者の資材置き場に行ったらまさかの異世界転移してしまった!そこに現れたのが守護神獣になっていた昔飼っていた犬のラクス。 異世界転移で手に入れた無限鍛冶 のチート能力で異世界を生きて行く事になった! この作品は約1年半前に初めて「なろう」で書いた物を加筆修正して上げていきます。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ
ファンタジー
 地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。  そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。  できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!! 第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます

銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。 死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。 そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。 そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。 ※10万文字が超えそうなので、長編にしました。

処理中です...