全能で楽しく公爵家!!

山椒

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全能の爆誕

020:色々とバレる。

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 これまでにかいた『叛逆の英雄』のマンガをベラが持ち、二人で執務室に向かっていた。

 最近は今まで以上に何かと家にいないことがあったから何かしているのだと感じているが、今日はお父上様は執務室にいる。

 そんなお父上様にマンガのことを言うとか、何を言わられるのか想像がつかない。ていうか親に自分がかいたエロシーンを見せるとか拷問じゃね?

 というかこうして付き添われて行くとか何か悪いことをして報告しに行っている人間に思えてくる。

「アーサーさまは自信をお持ちになっていればよろしいです。これは本当に素晴らしいものですから」
「うん……」

 心配そうな顔をしていたのか。でもこのマンガは自信しかないよ? 俺自身ですらうまいと思っているんだから。

 何だかもう現代知識でチート、いや知識じゃない技能だ。現代技能でチートする未来しか見えないのだが。マンガだけでもかなり売り出せそうなのに、スマホとか魔道具を出したらこの世界の魔法がゴミみたいになるぞ。

 とうとう執務室の前にたどり着き、俺は執務室の扉をノックする。

「アーサーです」
「どうぞ」

 そう言われて俺とベラは一緒に執務室に入る。執務室には何かを書いているお父上様の姿があって、手を止めてこちらを見てきたお父上様。

「どうしたんだい?」
「えっとね、お父さんに見てもらいたいものがあって来たんだ」
「へぇ? 見てもらいたいもの?」
「うん、これだよ」

 興味深そうにするお父上様に、ベラから『叛逆の英雄』の第一話を受け取って手渡す。

 少し嬉しそうにマンガを受け取ったお父上様は見た瞬間に顔つきが変わった。

「これは……アーサーが?」
「うん、マンガって言うんだ」
「こんな繊細な絵が……」
「『叛逆の英雄』を、ベラに手伝ってもらいながらかいたんだ」

 チラリとベラの方を見ると、ベラは何も言わなかったからそこは大目に見てくれるらしい。

「下にある番号を順番にコマを見ていくものだよ」
「なるほど……少し見るから、ソファーに座っていてくれ」
「うん!」

 細部まで見ているお父上様から離れてソファーに座る。そして俺の背後にベラが立つのが分かった。

「アーサーさま」
「なに?」
「先ほどの言葉の真意をお聞きしてもよろしいですか?」

 さっきの言葉と言えば、ベラに手伝ってもらったということだろ。

「ダメだった?」
「いいえ、アーサーさまのためになるのならいくらでも私の名前を出してください」
「ありがとう」
「ですが正確にお伝えにならないのはどうかと」
「そっちの方がベラが黙っていたこととか何も言われないでしょ?」
「……ありがとうございます」

 実際はかいている内容が怪しまれないようにするというのが大部分を占めているが、まあその部分もあるから嘘ではないか。

「このマンガとやらは、アーサーが絵をかいたんだよね?」
「そうだよ。言葉とかはベラに手伝ってもらったけど」
「話はこれだけなのかな?」
「ううん、まだかいている分があるよ」
「それをすべて読ませてもらおうか。とても面白いよ」
「いいよ!」

 俺が立ち上がろうとする前にベラがお父上様の元へと向かった。

「アルノさま」
「どうした?」
「こちらをご覧ください」
「こちらって……」

 ベラがお父上様に突き出した一枚の紙を見て、お父上様は固まった。それは主人公と幼馴染が盛大にエッチしているシーンだから、俺は穴に入りたいくらいに恥ずかしかったが無垢なフリをする。

「こ、これも……アーサーが……?」
「どういうことか、アルノさまならお分かりになられますよね?」
「……だ、だけど注意してやってたから……」
「その結果がこれですか、大した注意力ですね」

 おぉ、ベラがめっちゃお父上様に言ってるよ。しかもそれを聞いてお父上様はまるで縮こまっているような雰囲気を出している。

「ルーシーさまの件をお忘れになられましたか? ルーシーさまはアルノさまとスザンヌさまの性行為を見て、一歳のアーサーさまの陰茎に触れようとしたのですよ? まだ何もお分かりになられないお子さまにお見せになられたら興味本位で真似しようとします」
「……あぁ、反省しているよ」
「性行為をなさることは結構です。ですが――」

 ベラがこんなに喋るとは、かなり文句があると見た。それにしてもルーシー姉さんが俺の息子を見ようとしてお母上様とベラに止められていたのは、このせいだったのか。

 そして五分間もベラは喋り続け、その間お父上様は頷いたり「はい」としか言わなかった。

「これくらいにしておきましょう。今後はお気をつけてください」
「はい……」

 言うべきことを言い終えたベラはお父上様の机に俺がこれまでかいたマンガを置いた。

「では、これからスザンヌさまにも申してきます」

 綺麗な一礼をしたベラはそそくさと執務室から出て行った。

 あっ、一緒にいてくれるわけではないのね。でも却ってベラに後からこうなったって言えるからいいと言えばいい気がする。

「ゴホン……アーサー」
「なに?」
「み、見ていたのかな?」
「うん、見てたけど……ダメだった?」
「い、いや、この話はこれくらいにしておこう」

 そうだよね、あなたの傷口をえぐるだけですよ? 別に見てないし何なら少し罪悪感があるけど、心にとどめておこう。

「そ、それじゃあこれを読ませてもらう。……かなりあるけど、それまでここで待ってるかい?」
「うん、感想も聞きたいから」
「それならお菓子を用意してくつろぐといいよ」
「あっ、じゃあここでマンガをかいていい?」
「あぁ、構わない。むしろ僕にかいているところを見せてくれ」
「うん! じゃあ紙とペンを持ってくるね!」

 俺は急いで執務室から出て俺の部屋から大量の紙とペンを持って執務室に戻る。

 俺の姿を見たお父上様はマンガを読むことに専念して、俺もソファーに座ってマンガをかくことに専念する。

 紙をめくられる音と、ペンでかいている音だけが執務室を支配していた。

 こういう空間も集中できるが、ベラが俺を膝の上にのせている時は、ベラの呼吸音が聞こえてきてそちらも集中できていた。

「ふぅ……」

 お父上様が一息ついたことでそちらに視線を向けるとすべて読み終えたようだった。

 最後に読んだのは最新話の例のあれだから、心なしか少し顔が赤い気がするのは気のせいだろうか。ちなみに俺は普通に恥ずかしい。

 お父上様は机にあった紅茶を一口飲み、俺に視線を向けた。

「最後の話はともかく、面白かった。これをアーサーがかいたのだと未だに信じられないくらいに上手くかけている」
「本当? ありがとう!」
「ここまで現実味を帯びている話をかけるとは……しかもこの絵と来た」

 帯びているというか現実から取って来たからな。さてと、これからどうなるか。

「どうして最初にかいた時に僕に言わなかったんだい?」
「一話かいて見せようかと思ったけど、完結までかいて驚かせようと思ったから……」
「そうか。一話だけでも十分驚くと思うが、完結までかいていたらそれは驚いてしまうだろうな。ならどうしてこの話で見せようと思ったのかな?」
「ベラが、途中までは僕の我がままに付き合ってくれていたんだけど、これを見せた方がいいって説得してきたから、見せようと思ったんだ」
「そうか、それは正しい判断だ。やはりベラにアーサーを任せて正解だったよ」

 まあ、これはこれでいい選択肢だったと信じたい。

「それでだ、アーサーはこれをどうしたいんだ? 僕としてはこれを世間に公表した方が、周りは間違いなく食いつく。何なら知らない状態でこれが売られたら僕は間違いなく買う。それくらいに画期的なものだ。だけど、アーサーが公表したくないというのなら、これを家の中で収めることだって可能だ。どうする?」
「どうする……」

 娯楽を広げるためには、これを広めるしか道はないわけで、だからこう聞かれたら俺の選択肢はこれしかない。

「僕がかいた、ううん、僕とベラがかいたこのマンガを、みんなに読んでもらいたい」
「その心意気は何よりだよ。……これを読まないと人生を損することになる」
「そんなに?」
「そんなにだ。それにこの『叛逆の英雄』を選んだのもセンスがいい。一番有名で人気な英雄譚だから僕も何度も読み返したことのある作品だ。それをマンガで、しかも人物たちをかなり掘り下げてかかれているから、知っていても続きが知りたいと思ってしまう。少し違うところもあるようだけれど」
「へぇ……」

 だからベラもハマっていたのか。それならかなり成功する予感しかないのだが?

「問題はどうやってこれを出版するかだね。それにアーサーがかいたことは、まあ伏せておこう」
「どうして?」

 俺としては伏せられていた方が都合がいいが、ここではどうしてと返すのが適切だ。

「こんなものをかいたと知られれば、他の貴族たちが押し寄せてきてアーサーを欲しがるだろう。どんな手を使ってでも。ランスロット家の名前を出すにしても、ランスロット家お抱えの絵師と言うしかないね」
「絵師じゃなくてマンガ家だよ」
「そうか、マンガ家か。……あとは、天空商会に売り出してもらった方がいいか。いや……これはどこまでが一冊なんだ?」
「えっと……話の区切りで変わってくるけど、大体七話か八話くらいを考えてる」
「それならいっそのこと一巻は無料配布で話題を……いや、そうしなくても絶対に話題にはなるか」

 何やら考えているお父上様に任せるのが一番だと思った。

 どうせ俺は四歳だし、そこを上手く利用していかないと色々しんどい思いをしてしまうからな!

 親のすねをしゃぶる、まではいかないけど……いや、本当に前世では親孝行ができなかったからやめておこう。

「これは今どのくらいかけているのかな? 見たところまだ全然物語はあると思うが……」
「まだ四分の一もいっていないよ」
「そんなにもあるのか……ふぅぅぅぅぅぅ……」
「だ、大丈夫……?」

 お父上様はいきなり疲労を感じさせる顔をした。

「いや、大丈夫だ。最近は色々と立て込んでいてね、少し休んでいないだけだよ」
「ご、ごめんなさい、こんな時に言って……」
「謝ることじゃないよ。僕としては息子がこんなに才能に満ち溢れているんだから、この疲れは喜ばしいものだ」

 本当に子煩悩な人ですね、お父上様は。

 それにしてもその立て込んでいるのは一体何なのか、俺に関係ないことでありますように! 言い方がすでに俺に関係することでならないんだが。

 まあ、俺が何かしたのは事実だし、ここまで俺にしてくれるお父上様だから魔法をかけてあげよう。

「あっ! 僕が疲れを取る魔法をかけてあげる!」
「おぉ、回復魔法を覚えたのか。それならお願いするよ」

 疲れているお父上様に、体の至る所の疲労を回復させて元気にする魔法をかける。

「うん? ……な、何だこれは……! 体に力がみなぎってくる……!」

 それはもうとても強い魔法をかけたから人生で一番元気だった頃よりも元気にみなぎっているはずだ。

「どう? 体の調子は?」
「……うちの息子を、どういう道に導けばいいのか分からなくなってきたよ……」

 あー、また悩みの種を増やしてしまった。でも元気にしたからまだプラスだろ。

「さて、このマンガの一巻を作って……」
「あっ、一巻を作るんだったら僕に表紙と背表紙をかかせて」
「あぁ、この作者はアーサーなんだ、アーサーに任せる。複製はグリーテンに任せて、ある程度部数を用意できたら天空商会に連絡するか」

 段々と形になって来たな。まあこれは娯楽を世界に満たすための第一歩だ。

 やっぱり背表紙は繋がるようにかきたいな。そういうのに憧れていたんだよな。

 俺が紙にどういう表紙、背表紙にするのかかいているところで、執務室の扉がノックされた。

「グリーテンです」
「入ってくれ」

 入ってきたのはグリーテンさんで、俺に視線を向けて手を振ってきたから振り返しておいた。

「どうしてアーサーさまがここに?」
「いや、アーサーに驚くものを見せられただけだよ」
「あら? アルノさまにもスマホを知らせたの?」
「……ちょっと待ってくれ」

 それはこっちのセリフですよ、お父上様。もう俺は泣きたいよ、勝手にバラされて俺の計画が台無しですよ。

「あら……違ったのね。ふふっ、ごめんなさいね」

 そんなにいい顔をしてもダメですよ、グリーテンさん。
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