全能で楽しく公爵家!!

山椒

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全能の爆誕

009:マンガ。

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 シルヴィー姉さんにスマホがバレてから、少ししてインターネットを仮想空間に作り出し、スマホから自由に使用することができるようにした。

 そこは現実世界から物理的に干渉することができないが、俺以外はスマホから電波のみアクセスすることができるように設定したから、俺が死んでも誰もどうにもできない。

 俺が死ぬことはおそらくないが、それでも俺以外がどうこうしようがないものは誰にも妨げられることはない。

 少し時間をおいてルーシー姉さんにメールができたと言えば問題ないか。

「漫画が読みたい……」

 急にそう思ってしまった。本当にそう思った。どんなスイッチが入ったのか俺自身でも分からない。

 でも前世では毎週週刊少年漫画雑誌を読んでいたし、単行本も集めていた。三年間、漫画を読まなかっただけで少しモヤモヤした気分になっている。

 かいてみるか? 前世の話を持ってくるのもアリだが……どうせなら『叛逆の英雄』を過去視で見れるんだからそれを漫画でかけばいい気がする。

 欠陥全能だから、それをかくことは容易なことだ。何なら今ここに紙とペンがあるからかいてみよう。

「うっ、うまっ、上手すぎるっ……!」

 試しに叛逆の英雄が旅立ちのシーンをかいてみたら、自画自賛するほどのうまさだった。

 これが欠陥全能の力か……恐ろしいな。自分でかいて自分で驚くとかあまりできる芸当じゃないぞ。

 ……紙はまだまだあるし、ストーリーは過去視でいつでも確認することができる。

 かけるところまでかいてみるかぁ……マジでこの世界ってそんなにすることがないくらいに娯楽がないから、教育番組もないわけで、子供なら外で同世代の子供たちと遊ぶくらいだろう。

 だが俺は公爵家の長男であるから平民の子供たちと遊ばせてくれるわけがないし、シルヴィー姉さんとルーシー姉さんは基本公爵家として相応しいようにと鍛錬している。

 そもそも俺の娯楽の考え方が現代人みたいだからこう思っているだけで、乗馬とかそういう趣味に時間を費やしているのだろう。

 それでも俺が退屈なことには代わりないから、俺は漫画をかいてみることにした。

 ☆

「アーサー様。少しよろしいでしょうか?」
「えっ、あっ、うん、ちょっと待って!」

 ベラが部屋の外から声をかけてきたことで現実に引き戻された。

 引き戻されたことで、机の上やら床やらに大量の紙が散乱していることに気が付いた。ベラが来ているから急いでそれを魔法で束ねて引き出しの中にいれた。

「いいよ、どうしたの?」
「失礼いたします」

 綺麗な動作で部屋の中に入ってくるベラ。

「もうお夕食の時間でございます。先ほどから何度かお声掛けさせていただきましたが、中で作業をしてなられたのですか?」
「えっ? ううん、何もしていないよ。寝てたのかな……?」
「そうですか。それではご家族がお待ちになられておりますのでお早めに」
「うん今行く!」

 ベラが相手だからあまり不用意なことを言えないんだよなぁ……ちょっとしたことでこちらのことを見抜いてくるような、そんな感じがしてならない。

「アーサー様」
「なに?」
「手がお汚れになられています」
「あっ、ほんとだ。どうしてだろ?」

 あー、あー、あー! やっちゃったよ! 漫画をかいていたから手が汚れちゃったし、それをベラの前で気が付かずに晒してしまった!

 しかも漫画をかいたときに使っていたペンをそのままにしているし、インクがかなり減っているのも視線でバレてしまっている!

「何を、されていたのですか?」

 うわぁ、ベラの物凄い怪しい物を見る目で見てきている。

 いや、ベラが俺の専属メイドであることは知っているけど、実際雇っているのはお父上様だ。だから不用意なことを言ってお父上様、じゃなくてお母上様の耳に入るのが一番嫌なパターンだ。

 くそっ、なんで引き出しの中に入れたんだよ。いや、今なら亜空間にあの漫画たちを入れればいい。俺の魔法ならベラにバレる心配はない。

「ううん、何もしてないよ? ほんとにどこで汚したんだろ……」

 演技の能力で誤魔化しつつ、引き出しの中の漫画の束を亜空間に入れようとする。

「失礼します」
「うわっ!」

 急にベラが俺の両脇をつかんで俺を持ち上げてきた。

「ど、どうしたの?」
「アーサーさま、何かされていますよね?」
「何かって、なに?」
「それはわかりません。ですがそんな気がしてならないのです」

 えっ、なにその能力。もしかして超直感的な能力がベラに備え付けられているの? それなら俺と人形が入れ替わっていた時はどうして気づかれなかったんだ?

 ……距離が近いからバレているのか? 何かした後なら近づかれても気づかれないようだが……さすがは完璧メイドだ……!

 こうなったら仕方がない、ベラに漫画を見せることにしよう。

「じ、実はね、作っていたものがあって……おろしてくれないの?」
「脇が痛いですか? それならこうします」

 俺の胴体に両腕を回し、完璧メイドにふさわしいプロポーションの体のお乳に俺の頭が挟まれた。

 いや、これでも全然文句はないしむしろこちらの方がいいまである。だけどこれじゃあ漫画を取りに行けないんだが……?

「これは嘘をついた罰です。しばらくこのままにさせていただきます」
「えっ……うん、ごめんなさい」

 俺はこのままでもいっこうに構わん!

「それで、作っていたものとはどのようなものですか?」
「あそこの引き出しに入っているよ」

 言い切る前にベラは移動し始めており、抱えられているから感じられるその足運びは見事なものだとしか言いようがなかった。

 机の前に移動したベラはしゃがんで片腕を俺の胴体からはずして引き出しを引いた。

 引き出しにはいっぱいの紙があり、ベラはそれを片腕では無理だと判断したようで、俺から腕を解放した。

「これは……とんでもないものをお作りになられたようですね、アーサー様。少々お待ちください」」
「うん」

 引き出しを開けただけでも一番上の紙に漫画が書かれているから即座にベラは理解したようだった。

 引き出しの紙をすべて取り出したベラだったが、どうせ読むんだったら順番に読んでもらった方が良くないか? と考えた。

「ベラ、ちょっと待って」
「どうされましたか?」
「これはね、漫画って言ってね、順番に読んでいくものだから、僕が順番にならべるよ」
「マンガ、ですか。……それではお言葉に甘えて、お願いします」

 並べると言っても下にあるページ番号を順番にしていくだけだけど……二百ページ以上あるのか。もう単行本一冊レベルじゃん。

「はい、できたよ!」
「ありがとうございます」

 すべてを並び終えてベラに渡した。それを受け取ったベラは丸テーブルに原稿をおいて、こちらに来たと思ったら俺を再び抱き上げて、椅子に座ったベラの膝の上に座らされた。

「マンガというものはどのようなものですか?」
「えっと……読んでみればわかるよ!」

 マンガという説明をすればそれはそれで怪しまれると思うが……それ以前に三歳児がかけるようなものではない。絵はまだ問題ないけど、フキダシに書かれている登場人物の言葉がすでにアウトだ。

「では少しお時間をいただきます」
「うん! 読んでみて!」

 まあ、『叛逆の英雄』だから最悪本を参考に書いてみたと言えば誤魔化せるか……?

 とりあえず手持ちぶさただからベラと一緒に読むことにする。というか俺がマンガを読むつもりでかいたんだから読まなくてどうするんだよ。

 後頭部に最高の感触を感じつつ、ベラの読むスピードは俺が丁度いいと思うくらいの早さだったから快適に読み進めていた。

 読み進めるベラは俺に何も聞くことなく黙々と読み進め、俺もいやぁ、よくかけているなぁと絵を自画自賛して読み進めた。

「ふぅ……」

 最後まで読んだベラは一息ついた。俺も久しぶりにガッツリとマンガを読んで満足。

「『叛逆の英雄』をマンガにしてみたんだけど、どうだった……?」

 完璧メイドはあまり表情を出してくれないからどう思っているのか知りたくなった。

「はい。とても素晴らしいものでした。登場人物の細かな表情、躍動感のある戦闘、何よりそれがスラスラと頭に入ってきて時間を忘れて読み終えてしまいました」

 よし! かなりの好感触! これなら秘密にしてくれたら続きをかくと言えば何とかできそうか?

「よかった! それでね、これは――」
「これはアルノさまとスザンヌさまにお見せします」

 えぇっ! 説得の隙とか無さそうな意志の硬さ! 確かにそれくらいがベラらしいと言えばらしいけども……!

「で、でもね! これはまだ完成してないから……」
「完成していなくとも、これだけの技能はお二人にお見せしておいた方がよろしいかと。そうでなければアーサーさまの正確な価値が分かりかねませんので」

 価値って。まあ言わんとすることは分かるけども俺は全能だから別にそこを気にしなくてもいいんだよねぇ。

「それに……」
「それに?」
「……この物語は……いえ、何でもありません」

 何だ、ベラは何を言おうとしていた⁉ ……あっ、過去視で『叛逆の英雄』を見ていたから本とは違う内容だったか……でもそこは俺の創作ということで通じるか? でもそれだと本を見て作ったという主張が通らなくなる。アウトだね。

「ともかく、この娯楽になりうるマンガは報告させていただきます」
「どうしても……?」
「はい。それがアーサーさまのためです」
「完成まで待ってくれないの……?」

 ベラの膝の上でベラに上目遣いをしながら頼み込む。三歳児の可愛さを最大限に出したこの攻撃でダメならもう打つ手はない。

「……ダメです」

 ダメかぁ~。少し間があったからいけるかと思ったんだけどなぁ……。

「しかし、これを私以外の誰にも漏らさないのであれば完成まで待ちます。マンガが他に知られるのが問題ですから」
「ありがとうベラ!」

 よっしゃぁ! これは言ってないけどベラはマンガの虜じゃないのか?

 これは何気に順調じゃないですか? 慎重に、少しずつ前世の娯楽を植え付けていけば、この世界は俺の知らない間でも娯楽に溢れてくるだろうな……!

「ベラにはかけたらすぐに見せてあげるからね!」
「楽しみにしています」

 完成まで待つと言ったベラよ、それはとても長い時間がかかることを分かっていないぞ?

 だってこの一巻分でもまだ序章も序章。神々の試練に打ち勝って運命が人々の手に渡るのが最終巻と考えれば、十巻どころの話じゃないぞ。

「良ければ、どうやって書かれているのか見せてもらうことはできますか?」
「うん、できるよ。どうせだから続きをかいちゃうね!」

 ベラの膝の上から降りようとするが、それをベラが許さずに紙とペンとインクを風魔法でここに持ってきた。

「魔法?」
「はい。少し品に欠けるやり方ですが、アーサーさまの罰はまだ続いていますので」
「あっ、うん、そうだね」

 これが罰と言えるのだろうか。もう俺はベラの太ももとか腕とか、ベラに接している体すべての柔らかさを堪能しているところだ。

「それじゃあかくね」
「はい。私のことはお気になさらずおかきになってください」

 そう言われて俺は集中してマンガの続きをかくことにした。

 この状態だったらベラに見えづらいんじゃないかと思ったが、本人がいいなら俺がとやかく言うことはない。

 そこから別の使用人が夕食の呼びかけに来るまで続いた。

 完璧メイドが忘れていたのか、それともわざと夕食のことを言わなかったのか、どちらなのだろうか。

 前者なら完璧メイドでもそんなことするのか⁉ と思うだろうが完璧メイドであるからこそそんなことがないと思えてしまうのはベラのすごいところだ。
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