全能で楽しく公爵家!!

山椒

文字の大きさ
上 下
3 / 109
全能の爆誕

003:クーデレな姉。

しおりを挟む
 もう少しで三歳になるアーサー・ランスロットです。

 誰かしら付いてくるから一人でどこかに行けるわけではないが、それでも自由に動き回ることができるようになったお年頃になったわけだ。

「アーサー! 今日もお外に遊びに行こ!」
「うん!」

 ルーシー姉さんに手を引かれて今日も屋敷の外に遊びに行く。

「今日も庭園を探検するわよ!」
「あそこ広くてたのしいよね」
「いくら探検しても迷子になりそうよね」

 ルーシー姉さんの今の流行りは俺と一緒に庭園を探検することだ。

 ランスロット家の広大な私有地には国で一番の庭と言われるほどの庭園があり、そこは子供の俺とルーシー姉さんが散歩するのにはかなりの広さを誇っているらしい。

 他のところを見たことがないから分からない。

 歩いているだけでかなり楽しそうなルーシー姉さんと手を繋いで歩いていると、正面から見覚えのある人が現れた。

「あ、お姉ちゃん」
「ん」

 お父上様譲りの銀髪を腰まで伸ばしている無表情な女性、シルヴィー・ランスロットが模擬剣を携えて汗をかいている状態で正面から来た。

「騎士団と訓練をしてたの?」
「そう」
「私も早く騎士団と訓練したいわね……」
「すぐにできるようになる」

 この国の貴族は騎士団を持っていることが多い。

 ウチはランスロット騎士団としているが家名をつけていないところもあるそうだ。

「ルーシーはどこに行くの?」
「庭園よ。お姉ちゃんは……来ないか」
「行かない」

 ルーシー姉さんはシルヴィー姉さんも誘おうとしたが俺の方をチラリと見てから、まるで俺がいるからシルヴィー姉さんも来ないみたいな言い方をした。

 だがそうだ。

 シルヴィー姉さんは俺と行動することはほとんどないし、俺がいると他のところに行ってしまうということはランスロット家では有名な話だ。

 でも俺は何も気にしていない。

「じゃあね、お姉ちゃん」
「ん」

 ルーシー姉さんは俺の手を引いてシルヴィー姉さんとすれ違った。

「何でお姉ちゃんはアーサーのことが嫌いなのかしら?」
「何でだろうね」
「何かした?」
「……何もしてない」
「そうよね。私もそう思う。お姉ちゃんの男嫌いって家族にも適応されるのね……」
「シルヴィーお姉ちゃんは、男の人が嫌いなの?」
「そうよ。男に何かされたとかじゃなくて、ただ嫌いみたいね」

 あぁ、そういう人はいるよな。シルヴィー姉さんもそういう人だったのか。

 でも俺はシルヴィー姉さんに嫌われているかもしれないとか思っていない。何も心配していないのだから。

「シルヴィー姉さんもいつかアーサーの良さが分かるはずよ。だから今は庭園に行くわよ!」
「うん!」

 ルーシー姉さんはいつも元気だな。肉体的には問題ないが、精神的には追いつけない時がある。

 ☆

「んぅ……」
「アーサー様、少しお休みになられますか?」
「うん……そうする……」

 俺の全能は何もしていなくても俺の体を最高の状態に持ってきてくれる。

 だがそれだと怪しまれるから普通の赤ん坊のようにふるまい、今は睡眠を欲しているようにする。

 これを本当にどうにかしないと、疲れはしないが色々と気を遣わないといけないからメンドウだと思っているところだ。

「時間になればお部屋に参ります」
「ぅん……」
「おやすみなさいませ、アーサー様」

 俺が寝る演技をすると、ベラは俺の額にキスを落としてから部屋から出て行った。

 何だかそれが大人な感じがして少しドキドキとしているところです。

 これから本当に寝ることも可能だからこのまま寝ることにしようか、と思っていると部屋の扉がちょっとだけ開かれたことに気が付いた。

 目を開かずに全能でそちらを確認すると、一切物音を立てずに部屋に入ってくるシルヴィー姉さんの姿があった。

 部屋に入る前に俺が寝ていることを確認してから俺に近づいてくる。

 眠っている俺の元に来て、大きなベッドに靴を脱いで俺の横に座ったシルヴィー姉さん。

「ふふっ……」

 俺の頬を軽くツンツンと突きながら微笑んでいるシルヴィー姉さん。

 いつもの無表情のシルヴィー姉さんでは考えられない表情を浮かべている。こんなところを他の誰かに見られたら、まず間違いなく偽物かと疑われるレベルだ。

「いつも何も喋れない……嫌われているかな……?」

 シルヴィー姉さんは少しだけしょんぼりとした表情を浮かべながら俺の頭を撫でてくれる。

 こうして俺がシルヴィー姉さんの本性を知ったのは最近ではない。むしろ最初からシルヴィー姉さんを嫌っているわけがなかった。

 俺が生まれて間もない頃、たまたま部屋に俺しかいない時間があって、その時にシルヴィー姉さんが入ってきた。

 そこで俺の顔を覗き込んでくるシルヴィー姉さんは一瞬で破顔させて、こう言った。

『私の、弟。……あなたは一生私が守る』

 これを言われてからシルヴィー姉さんがどんな態度をとっていようが全く気にならなくなった。

 シルヴィー姉さんは要はクーデレなのだ。

 おそらく感情表現がど下手な女の子で、俺とどう接していいか分からない感じなのだろう。

 ……いや、何だよそれ。

 前世で見たいつもはツンけんしている妹が寝ている時に布団に潜り込んできて思いを伝えてきているみたいなシチュエーションは!

 いや全く一緒だけどね、今の状況と。

「アーサー、好き」

 頬にキスを落としてくるシルヴィー姉さん。

「ずっと一緒にいたいくらいに好き。……でも、一緒にいられないかも」

 うわっ、すっごいどういうことかを合いの手を入れて聞きたい……! ここで実は起きてました、ってなったらシルヴィー姉さんは困るだろうな。

 だから黙ってシルヴィー姉さんの独り言に付き合うことにする。

「ランスロット家はペンドラゴン家の懐刀。ブリテン王国第一王子、アンリ・ペンドラゴンと婚約することは自然なことで国を考えれば最適な解……でもアーサーと一緒にいたいから、結婚したくはない」

 シルヴィー姉さんはアンリ・ペンドラゴンと婚約しているのか。

 でも俺と一緒にいたいから結婚はしたくない。でも公爵家だからしないといけない。みたいな感情になっているのか。

「……暗殺、する?」

 俺と一緒にいたいがために第一王子を殺そうとしていますよ、このお姉様は。

「シルヴィー様……シルヴィー様……!」
「うるさい」
「ベラさんが来ちゃいますよ……!」

 扉を少し開けてシルヴィー姉さんにそう言っているのはシルヴィー姉さんの専属メイドであるエルザ。

 黒髪を左右で三つ編みにしている、いかにもドジっ子のような雰囲気のメイドであるエルザは、必死にシルヴィー姉さんにベラが来ることを伝えていた。

「何とかして」
「え、えぇー……!?」

 でもシルヴィー姉さんの無茶な言葉に静かに驚いているエルザ。

「私はもう少し、アーサーと一緒にいたい」
「それなら堂々とお会いすればいいじゃないですか……!」
「それができていれば苦労はしない」
「そうですよね……! あっ、すぐそこまで、わ、分かりましたよぉ……!」

 ……エルザ、一番可哀想だな。

 シルヴィー姉さんに無茶を言われて、ベラも足止めしないといけない。こんな役割を押し付けられたらやめる自信があるぞ。

 でもシルヴィー姉さんの専属メイドをずっとしているらしい。まあ俺のこと以外なら普通なのかもしれないな。

「アーサー、お姉ちゃんが守るから」

 まずその前に悲鳴を上げているエルザを助けてあげたらいいと思うよ? その言葉は嬉しいけどね。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

流石に異世界でもこのチートはやばくない?

裏おきな
ファンタジー
片桐蓮《かたぎりれん》40歳独身駄目サラリーマンが趣味のリサイクルとレストアの資材集めに解体業者の資材置き場に行ったらまさかの異世界転移してしまった!そこに現れたのが守護神獣になっていた昔飼っていた犬のラクス。 異世界転移で手に入れた無限鍛冶 のチート能力で異世界を生きて行く事になった! この作品は約1年半前に初めて「なろう」で書いた物を加筆修正して上げていきます。

転生して異世界の第7王子に生まれ変わったが、魔力が0で無能者と言われ、僻地に追放されたので自由に生きる。

黒ハット
ファンタジー
【完結】ヤクザだった大宅宗一35歳は死んで記憶を持ったまま異世界の第7王子に転生する。魔力が0で魔法を使えないので、無能者と言われて王族の籍を抜かれ僻地の領主に追放される。魔法を使える事が分かって2回目の人生は前世の知識と魔法を使って領地を発展させながら自由に生きるつもりだったが、波乱万丈の人生を送る事になる

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...