全能で楽しく公爵家!!

山椒

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全能の爆誕

002:『叛逆の英雄』

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 我、アーサー・ランスロット。二歳児である。

 ふんぞり返りながら座っている俺の部屋の中では、俺と完璧メイドであるベラがいる。ベラは俺のメイドさんとして俺の世話をしてくれている。

 何だかメイドさんがいる時点で少しムズムズするというか……あぁ、公爵家に生まれてきたんだなって感じてしまう。

 感慨にふけっているところで、ものすごい足音を立てながらこの部屋に向かってきている存在に気が付き、それが扉に激突する前にベラが扉を開けた。

「アーサー! 今日も遊んであげる!」
「あー、うん」

 扉を蹴飛ばすのかと思う勢いで入ってきたのは元気溢れるお母上様譲りの金髪を肩まで伸ばした我が姉、ルーシー・ランスロットで、弟が大好きでたまらないお姉ちゃんだ。

 ルーシー姉さんと入れ替わりでベラは部屋から出て扉を閉めてくれる。

「今日は外に行って遊び回りましょ!」

 ルーシー姉さんは俺のことを連れ回したいらしく、頻繁に会いに来てはこうして言いに来る。この姉、二歳児である俺でも容赦しない。

 ただ申し訳ないが俺は今そんな気分じゃないし、二歳児の子供は睡眠時間が大切で、今も少し眠たい気分だからお断りする。

 ほぼ全能である俺だが、あまり能力を使いたくないから体は二歳児の睡眠を欲している。

「おねちゃん、ねむい……」
「えー! それなら仕方がないわね……なら本を読んであげる!」

 この姉、弟に激甘で結構何でも聞いてくれるお姉ちゃんなのである。

 眠たくない時はこのお子さまに付き合っている、というかルーシー姉さんが超遊びたい気分かつ眠たくない時は有無を言わさず連れていかれるのだが、基本的に俺の意思を尊重してくれるお姉ちゃんだ。

「この英雄譚を読んであげるわ」
「うん」

 ほんの数秒で自身の部屋から持ってきたであろう分厚い本を手に持っていた。

 座ったルーシー姉さんの膝の上に俺は座らされ、俺を挟み込むようにルーシー姉さんは両腕を前に持ってきた。

 その手には分厚い本、タイトルが『叛逆の英雄』が開かれ、俺の肩にあごを置くルーシー姉さん。

「ちょっと長い話だから私が要約して話してあげる」
「うん、ありがと」

 結構本を読むのが好きだから読んでくれてもいいが、たぶんそれだと俺が起きてられない。

「むかしむかし、神々が下界に干渉していた昔の話。神々がこの世のすべてで、法則などを創造した神々は崇められ、神々の感情一つで多くの人々が死んでいました。それは世界のすべてである神々がしたことだからと人々は半ばあきらめていました」

 何だその神々、死ねばいいのに。

「酷いわよね、死ねばいいのに」

 ルーシー姉さんとシンクロしてしまった。

「しかし、ある一人の青年はそれに異を唱えました。『世界が神々のものだとしても、俺たち人間は生きている! 人間の営みを邪魔することなど神々でも許されない!』と。その言葉に神々は激怒し、青年を亡き者にしようとしました。ですがその青年は神々さえも殺すことができない強大な力を持って生まれ、神罰をものともしませんでした」

 そりゃそうだ、神に生殺与奪の権を持たれているのは非常に生きにくいし腹が立つ。

「それから青年は人々を説得しました。『神々の時代は終わった! 次は英雄の時代、いや、人々の時代だ! それは今の俺たちにしかできないことだ! 未来につなげるために、協力してほしい!』と。その言葉に人々は突き動かされ、神々との決別を選択しました」

 ほぉ、それはいいことだ。……それにしても、この世界には子供が読み聞かせるための絵本はないのか? 地球で絵本の歴史はそんなに古くなかったか……?

「青年は仲間を引き連れ、神々へ続く道にある難関な試練を仲間との絆で突破しました。神々は青年やその仲間たちの姿を見て、人々のあるべき姿を認識し、最後の試練を青年に課しました」
「さいご?」
「最後の試練は自身の命か仲間たちの命、どちらかを差し出せば今後一切人間たちに干渉しないと言いました。青年は即座に自身の命を差し出すと言い、持っていた剣で自身の胸を貫こうとしました。ですがそれを神々が止め、青年の覚悟、青年の想いを受け止め、神々は世界の行く末を人間に賭けることにしました。青年は人々から褒め称えられ、神々は叛逆したことから、『叛逆の英雄』と呼ばれましたとさ。めでたしめでたし」
「おぉ……」

 何か王道って感じだな。二年くらい何も触れていなかったから普通に感動した。

 俺を転生させた魔神と、この神々たちは何か関係しているのだろうか。それを確認したいところだ。

「おねちゃん」
「なに?」
「これって、ほんとにあったはなし?」
「さぁ……そこは分からないわ。この『叛逆の英雄』は一番有名な英雄譚で、本当にあったって言う人もいれば、空想上の話だと言う人もいるわね」

 なら神は本当にいるのか、それを聞きたいところだが……ぶっちゃけ話を集中して聞いていたが睡魔はすぐそこまで来ていたから今にも落ちそう。

「おねむなの?」
「うん……」
「そう、それじゃあおやすみ」

 ルーシー姉さんに抱きしめられ、温かい心地だ。

 ☆

 我、アーサー・ランスロット。精神が名前に負けている二歳児である。

 みんなからは寝ていると思われているが、ただいま絶賛ほぼ全能の力を使っている。

 ほぼ全能にほぼ不可能はなく、『叛逆の英雄』の舞台を過去視ている。

 だって気になるものは気になるし、そこまで使ってこなかったほぼ全能の力を試してみたいという気持ちが強いんだもん。

 過去視とは言っても、ただ過去を見ているだけではない。そんなことをしたら時間がいくらあっても足りない。

 俺のほぼ全能は腐ってもほぼ全能。アカシックレコードにアクセスして『叛逆の英雄』を検索すればすぐに本当かどうかを確認できた。

 結論から言えば、『叛逆の英雄』はルーシー姉さんに聞いたことすべてが本当だった。

 ただ『叛逆の英雄』の本の内容と事実は少しばかり異なっている感じらしい。まあかなり昔の話だからその差異は仕方がないことだ。

 今俺は『叛逆の英雄』の物語を映画のように見ている。

 叛逆の英雄と呼ばれている青年と、その仲間たちが神々の試練を乗り越えている姿を見ている。

 この世界では現代の娯楽が少ないからそういう部分で大儲けはできそうだが……それよりも手っ取り早く金貨を何枚も作った方が早そうだし、鉱物を生成してももうけれそう。

 あー……こうして赤ん坊の演技をせずにただボーっと物語を眺めているのはいいものだ。

 ていうか……あれか、この世界のこととか全く知らないけど、俺は公爵家の跡取りだから英才教育を受けるからそんなこと考えなくても良かった。

 ぶっちゃけ魔法とか魔力とか才能とか、俺の前では霞むだろ?(笑)

 そうだよ! こんなほぼ全能の力なんかいらないんだよ!

 せっかく魔法の世界に来たんだから、魔法とか才能がなくても無難に使えるように努力するとか、工夫して下剋上をするとか、そういうことが一切できなくなるってことじゃん! 醍醐味やん!

 我がほぼ全能は、無能を獲得できないがために全能であらず。

 はぁ……こんなことを赤ん坊の内に考えていても仕方がないか、寝よ。
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